2011年8月版
6月は内外需が揃って立ち直り7〜9月期からプラス成長へ


【鉱工業生産は順調に回復】
 鉱工業生産は順調に回復しており、6月は国内向け出荷が2か月連続して大きく伸びたうえ、鉱工業輸出も4か月振りに増加に転じた。
 6月の鉱工業生産は前月比+3.9%と3か月連続して増加し、製造工業生産予測調査の7月と8月も、夫々同+2.2%、同+2.0%と回復を続ける予測となっている。仮に鉱工業生産の実績が製造工業生産予測の通りになると、8月の水準は大震災発生直前の2月に比べ、−1.3%の水準まで回復することになる(図表1)。
 上昇を主導している業種は、工場の被災やサプライ・チェーンの寸断で3月と4月に大きく落ち込んだ乗用車、電子部品・デバイス、情報通信機械、電機機械などである。

【鉱工業出荷は国内、輸出が揃って大幅に増加】
 6月の鉱工業出荷は前月比+8.5%と、大きく伸びた前月(同+5.3%)を更に上回る伸びとなり、2か月連続で顕著な回復を示したが、その内外需別内訳をみると、国内向け出荷が前月比+8.6%と前月(同+7.4%)同様大きく伸びたうえ、3〜5月と3か月連続して減少していた輸出向けが、4か月振りに同+9.6%の大幅増加に転じた(下表)。
 鉱工業出荷が国内復興需要に優先的に回り、鉱工業輸出が減少するという事態は、6月に終わったとみてよいであろう。6月の輸出が大きく増加に転じた業種は、資本財(除、輸送機械)である。



【設備投資は復旧投資も加わって高い伸び】
 資本財(除、輸送機械)の輸出は、3〜5月の3か月間に−10.6%の大幅減少となったあと、6月は前月比+9.6%と大きく増加し、ほぼ3か月の落ち込みを取り戻した。ただし、4〜6月期をくくると、前期比−1.9%の減少である。
 反面、資本財(除、輸送機械)の国内向け出荷は、4〜5月の2か月間に復興需要に応えて+24.7%と著しい伸びを見せたあと、6月は反動で−4.5%の減少となったが、4〜6月期をくくると前期比+8.6%の大幅な増加である。これに輸入を加えた4〜6月期の資本財(同)総供給は、前期比+8.9%となった(図表2)。
 このことから判断すると、被災工場やサプライ・チェーンの復旧工事も加わって、4〜6月期の設備投資はかなり増加したと見られる。

【遅れている雇用、賃金の回復】
 次に雇用・賃金の動向をみると、「労調」の就業者と雇用者(岩手、宮城、福島の三県を除く、以下同じ)は、いずれも前月比+0.1%の微増となったが、就業希望者の増加から完全失業者が同+2.1%の増加となったため、完全失業率は4.6%と前月に比べ+0.1%ポイントの上昇となった(図表2)。
 他方「毎勤」では6月の総労働時間が所定外労働の急増(前月比+6.7%)を中心に、同+2.4%の増加となったが、常用雇用は前月比横這いにとどまっている。
 「労調」「毎勤」を通じ、雇用指標は前年を上回る水準で強含み横這いとなっているが、今後の生産活動の一層の回復につれて徐々に改善が進むのではないかとみられる。
 他方、「毎勤」の6月の実質賃金は、前年比−1.1%の減少となった。4月以来、全国消費者物価の水準が国際商品市況の上昇などから前年を上回り始めていることも、実質ベースの賃金・所得の伸びを抑えている(下表)。



【消費態度は徐々に持ち直し】
 「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)および消費水準指数(全世帯)は、共に3月以降6月まで前年水準を下回っている(図表2)。
 勤労者世帯の平均消費性向は、3月に前年比−7.5%ポイントと大きく低下したあと、4月(同+0.1%ポイント)、5月(同+2.5%ポイント)、6月(同+1.2%ポイント)は前年水準を上回っており、大震災後の心理的な消費委縮は徐々に改まりつつあるようにみえる。
 「販売統計」をみると、6月の大型小売店の販売額はスーパーを中心に前年比+0.5%と4か月振りにプラスとなった。また乗用車新車登録台数の前年比は、4月の前年比−48.5%を底として、6月は同−21.9%とマイナス幅を縮小した。これを季節調整すると4月比+46.7%の急回復となり、1〜3月平均とほぼ同水準(+0.4%)である。生産の復旧に伴い、乗用車や家電の販売額は、徐々に立ち直ってくるものとみられる。
 この間、新設住宅着工戸数は4月を底に5月、6月と緩やかな立ち直りを見せている(図表2)。

【6月の実質貿易収支は大きく改善】
 最後に外需の動向を見ると、6月の通関ベースの輸出は前年比−1.6%、前月比+5.4%、輸入は同+9.8%、同+0.5%となり、貿易収支は表面的には3か月振りに僅かな黒字(707億円)となった。しかし季節調整ベースで見ると、改善はしたものの6月も1911億円の赤字と3か月連続の赤字である(因みに前月の赤字は4500億円)。
 これを季調済みの実質ベースで見ると(日銀推計)、前述の鉱工業輸出の回復(前月比+9.6%)を反映し、輸出は前月比+8.6%の高い伸びとなり、輸入は同+0.3%にとどまったため、実質貿易収支は+49.3%の大幅改善となった(図表2)。
 しかし四半期ベースで見ると、4月と5月に著しく悪化したため、4〜6月期の実質貿易収支は前期比−28.7%の大幅悪化となる。

【プラス成長に転じるのは7〜9月期】
 以上の分析を総括すると、4〜6月期の実質GDPは、設備投資が大きく伸びるものの、家計消費と純輸出が減少し、被災地復旧の公共投資も本格化していないため、3四半期連続のマイナス成長となる公算が高い(図表3)。
 しかし、7〜9月期には、6月の動向に見られるような貿易収支の改善が続き、消費マインドも立ち直り、設備投資を中心に復興需要も一段と強まってくるので、かなり大幅なプラス成長に転じるのではないか。