2011年7月版
国内需要の立ち直りに生産能力の回復が追い付かず、そのシワ寄せで「純輸出」が悪化
【資本財を中心とする国内需要の回復で生産と輸入が増加、輸出が減少】
被災工場と寸断されたサプライ・チェーンの復旧が徐々に進み始め、5月の経済活動は資本財の出荷を中心にはっきりと立ち直ってきた。
5月の鉱工業生産は前月比+5.7%の大幅上昇となり、製造業生産予測調査によると、6月は同+5.3%、7月は同+0.5%と回復を続ける予測となっている。実績が予測通りとなれば、7月の生産は昨年11月の水準まで回復する(図表1)。
5月の鉱工業出荷は、前月比+5.3%の大幅増加となったが、このうち国内向け出荷は同+7.4%と更に大きく伸び、輸出は逆に同−1.0%の減少となった。
国内需要回復の伸びに生産の回復が追い付かず、輸出は3月から3か月連続で減少する形となった。財別にみると、国内需要がプラス、輸出がマイナスとなったのは、資本財(除輸送機械)の+16.8%と−3.2%、生産財の+4.3%と−7.9%である。
被災工場の復旧に必要な一般機械、電気機械、精密機械とそれらの部品の需要に生産が追い付かず、輸出の減少にシワが寄っているようだ。
【雇用と実質賃金は緩やかに立ち直り】
生産の回復に伴い、雇用にも立ち直りの動きが出ている。「労調」(岩手、宮城、福島の三県を除く)の雇用者は前年比+1.1%増、季調済み前月比+0.4%増、完全失業者は同−11.5%減、同−3.1%減となり、完全失業率は4.5%と前月比−0.2%ポイントの低下となった(図表2)。他方「毎勤」の常用雇用は、前年比は+0.5%増となったが、前月比は−0.2%の微減となった。
「毎勤」の5月の実質賃金は、前年比+0.7%と3か月振りに前年を上回った(図表2)。今年の夏期賞与は、企業業績の底打ちを反映して前年を上回るため、ボーナス月の賃金水準は前年を上回って推移する可能性が高い。
他方、「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−3.6%と減少幅をやや拡大し、上記の雇用、賃金とは平仄の合わない動きをしている(図表2)。
【消費は3月の大幅落ち込みのあと徐々に立ち直り】
これらを反映して、5月の消費水準指数(全世帯)は前年比−1.8%と前年比減少幅を縮めたものの、なお前年水準を下回った(図表2)。
他方、5月の「販売統計」をみると、小売販売額は前年比−1.3%と3月以来3か月続けて前年水準を下回っているものの、季調整済み前月比をみると、前月(+4.1%)に続いて当月も+2.4%の増加となり、3月の大幅落ち込みとあと少しずつ立ち直っている。
とくに家電販売額は、前月(季調済み前月比+7.8%)に続いて当月も同+10.5%と大きく回復し、前年比+3.7%と6か月振りに前年水準を上回った。
反面、乗用車新車登録台数は、季調済み前月比で+26.4%と底を打ったものの、まだ前年水準を−33.3%も下回っている。工場の被災やサプライ・チェーンの寸断で生産が間に合わないためで、回復は夏以降になりそうである。
【国内の資本財需要は大きく回復】
投資動向をみると、足許の機械に対する設備投資を示す5月の資本財総供給(除、輸送機械)は、前月比で国産+17.0%、輸入+6.4%、合計+14.7%と大きく伸び、その水準は大震災前のピーク(2011年2月)を+8.6%上回った。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)も、4〜6月の見通しは前期比+10.4%の増加となっている。
また6月調査「日銀短観」によると、全規模製造業・非製造業・金融機関の本年度設備投資計画の合計(ソフトウェアへの投資を含み土地投資額を除く)は、3か月前の調査に比べて+1.3%ポイント上方修正され、前年比+4.7%となった。
大震災からの復興をリードする需要の一つの柱が、設備投資であることは間違いなさそうである。
なお、住宅投資も新設住宅着工戸数が3月、4月と底を這ったあと、5月には前月比+2.1%と下げ止まった。今後は分譲住宅を中心に、緩やかに立ち直る蓋然性が高い。
【4、5月の「純輸出」は低水準】
最後に外需の動向をみるため、日本銀行が通関統計から推計した実質ベースの季調済み輸出入の動向をみると、輸出は工場被災とサプライ・チェーン寸断の影響で生産が間に合わず、3月、4月と2か月連続で通計−14.4%落ち込んだあと、5月は前月比+4.8%と僅かに回復した。
他方、輸入は国内復興需要もあって、前月(前月比+1.8%)に続いて5月も同+3.3%の増加となった。
このため、5月の実質貿易収支は前月比で+11.7%増加したものの、水準は低く、4〜5月の平均は1〜3月平均比−40.2%の低水準にある。
被災工場とサプライ・チェーンの復旧、電力不足の解消で本格的に生産能力が高まる秋頃までは、国内の復興需要に伴う輸出減少と輸入増加の基調は改まらないとみられる。
【猛暑により電力不足が深刻化すると7〜9月期の成長に下振れリスク】
以上の動向から判断すると、4〜6月期は国内需要が設備投資を中心に立ち直ってくる反面、生産能力が需要に追い付かず、そのシワが純輸出の減少に寄るため、1〜3月期(図表3)に引き続き、再びマイナス成長となる蓋然性が高い。
7〜9月期は、被災工場とサプライ・チェーンの復旧に伴い、生産能力が震災前の水準に回復することが期待されるが、反面停止中の原発の再稼働が遅れることによる電力不足が猛暑の到来などによって深刻化すると、回復した生産能力がフルに発揮されないリスクもある。
生産能力の復旧からみれば、7〜9月期はプラス成長に戻る蓋然性が高いが、電力不足の深刻化による下振れのリスクがあることも見逃せない。