2011年6月版
家計消費の立ち直りは遅れているが、設備投資には回復の動き


【5月、6月の生産は急回復の予測】
 東日本大震災の発生から3か月が経とうとしているが、経済指標は発生の翌月である4月の指標が出揃ったところだし、その指標のうち、岩手、宮城、福島の被災3県の労働指標や企業動向は除かれているので、日本経済の詳細は正確には分からない面がある、しかし4月の指標で見えてきたのは、家計消費の停滞は続いている反面、企業の設備投資の立ち直りは比較的早く動き始めたとみられることだ。
 まず4月の鉱工業生産は、前月比+1.0%と製造工業生産予測調査の同+3.9%ほどではなかったが、3月の大幅落ち込みのあと早くも僅かに増加した。同予測調査によると、5月は同+8.0%、6月は同+7.7%と急回復し、6月は大震災で落ち込む直前の2月の水準に戻る形となっている(図表1)。
 5〜6月の生産急回復の中心は、被災やサプライ・チェーン(部品・原材料の供給ネットワーク)の寸断で大きく落ち込んだ乗用車・デバイスなどの生産が、設備やサプライ・チェーンの復旧で急回復するためである。
 果たして5〜6月の実績が予測通りの急回復を示すかどうか、注目される。

【4月の鉱工業総供給は資本財を中心に底入れ】
 4月の鉱工業出荷は、前月比−2.7%と前月(同−14.6%)ほどの急落ではないが、引き続き低下した。2か月連続して出荷が低下した主な業種は乗用車、電子部品・デバイス、情報通信機械などであった。
 4月の出荷を国内向けと輸出向けに分けると、国内向けが前月比−7.7%と比較的大きく低下し、輸出向けも同−1.5%と2か月連続の減少となった。
 しかし、この国内向け出荷(前年比−7.7%減)に輸入(同+7.1%)を加えると、国内への鉱工業総供給は同+0.8%と前月(同−12.4%)の大幅落ち込みのあと、僅かに回復した。
 このうち、最も回復が著しいのは、資本財(除、輸送機械)で、国産が前月比+8.8%増、輸入が同+10.7%増、合計は同+10.7%増と前月の落ち込み(−12.9%)の7割強を戻した。
 後にも述べるように、機械設備の復旧は急速に進み始めたと見られる。

【雇用情勢は引き続き悪化】
 4月の雇用情勢をみると、「労調」の就業者数、雇用者数(いずれも岩手、宮城、福島の3県を除く)、「毎勤」の常用雇用者数は、季調済み前月比で共に−0.2%の微減となった。他方「労調」の完全失業者数(同)は、同+0.7%と増加したため、完全失業率は0.1%上昇し、4.7%と悪化した(図表2)。
 被災3県を除く雇用情勢の悪化は、業種別にみると、製造業ではなく、卸売業、小売業、運輸業・郵便業、情報通信業などのサービス業で生じている。大震災後の国内経済活動の低下を反映した動きとみられる。
 「毎勤」の実質賃金(全産業)は、このような雇用情勢の悪化の中で、前年比−1.9%とやや大きく下落した(図表2)。

【4月の可処分所得、家計消費は減少】
 4月の「家計調査」によると、実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−2.8%減と前月(同−3.2%減)に続き、やや大きく低下した(図表3)。
 また消費水準指数(実質、全世帯)も、実質可処分所得の低下を反映して、前年比−2.8%の減少となった(図表3)。
 「販売統計」をみても、4月の小売業販売額は前年比−4.8%と前月(同−8.3%)より減少幅を縮めたものの、前年水準を下回っている。もっとも季節調整済みの前月比は、+4.1%と3月を上回った。内訳をみると、家電販売額も前年比−9.6%、季調済み前月比+7.8%となった。
 他方、4月の乗用車新車登録台数は、生産、出荷の立ち直りが遅れているため、前年比−48.5%と減少幅を広げ、季調済み前月比は−15.7%であった。

【設備投資は立ち直り始めた】
 投資動向をみると、4月の新設住宅着工戸数(年率)は、789千戸と3月に続き減少した(図表2)。1〜3月期まで3四半期連続して増加した実質GDPベースの住宅投資は、4〜6月期には頭打ちになるかも知れない。
 4月の資本財総供給(除、輸送機械)は、前月比+10.7%と前月大震災の影響で急落(−12.7%)したあと、早くも立ち直った。また機械受注(民需、除船舶・電力・携帯電話)は、1〜3月に前期比+5.6%の増加となったあと、機械受注(民需、除船舶・電力)の4〜6月期の見通しは、同+10.0%の大幅増加となっている。
 4月の資本財総供給や先行指標である1〜3月、4〜6月の機械受注の動きなどから判断すると、大震災からの復興需要もあって、設備投資は4〜6月期から早くも立ち直っているようである。

【4月の純輸出は引き続き悪化】
 最後に4月の輸出入動向をみると、輸出は生産の復旧が遅れているため、乗用車、電子部品・デバイスなどを中心に前年比−12.5%と2か月連続の減少となり、輸入は原油、LPGなどを中心に同+8.9%と増加を続けている。このため、通関ベースの貿易収支は、4,636億円の赤字となった。
 これを季調済みの実質値(日銀推計)でみると、4月の輸出は前月比−6.9%の減少、輸入は同+2.0%の増加となり、実質貿易収支は3月に続き悪化した(図表2)。

【4〜6月期の実質GDPは横這い圏内のプラスか】
 1〜3月期の実質GDP(1次速報値)は、5月の<月例景気見通し>で予測した通り、家計消費、設備投資、在庫投資、純輸出の減少により、前期比−0.9%(年率−3.7%)の大幅減少となった(図表3)。
 4〜6月期については、まだ4月の指標が出ているだけなので予測は難しいが、設備投資が前期のマイナスからプラスに転じ、住宅投資が逆にプラスからマイナスに転じそうである。家計消費、在庫投資、純輸出は、5月と6月の生産が製造工業予測調査のように急回復を示せば、前期比プラスに転じることもあり得よう。
 その場合は、実質GDP全体も、横這い圏内のプラスに転じると見られるが、総じて見れば、1〜3月期に急落した実質GDPが底を打つ程度の動きになるのではないか。