2011年5月版
東日本大震災に伴い3月の生産、出荷は激減、1〜3月期はマイナス成長へ


【被災とサプライ・チェーンの寸断で3月の生産、出荷は大幅に下落】
 東日本大震災の衝撃を受けた3月の景気指標がほぼ出揃った。
 まず、3月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−15.3%、−14.3%の大幅低下となり、生産者在庫は生産の落ち込みが大きかったため、出荷も減少したものの、−4.3%の減少となった(図表1)。この結果、1〜3月期の生産と出荷は、1、2月に増加していたにも拘らず、3月の落ち込みが大きく響き、前期比それぞれ−2.0%、−1.8%の減少となった。
 3月の出荷減少は、国内向けが前月比−14.7%、輸出向けが同−12.3%と、国内外向けが揃って大きく落ち込んだ。他方、3月の輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比−1.7%の減少にとどまったため、国産が同−14.7%の大幅減少となったものの、全体では同−12.1%の減少となった。

【落ち込みの大きかった乗用車、一般機械、電機機械、情報通信機械と電子部品・デバイスは4月から徐々に回復する予想】
 業種別にみると、3月の生産はすべての業種で減少したが、乗用車などの輸送機械が前月比−46.4%とほぼ半減したのが最大の下げ幅である。また一般機械、精密機械などの低下幅も大きかった。出荷もほとんどの業種で低下したが、電子部品・デバイスは前月比+0.8%の増加となった。在庫は、生産減少にも拘らず出荷を増やした電子部品・デバイスをはじめ、輸送機械、一般機械など多くの業種で大きく減少した。
 製造工業生産予測調査によると、4月は前月比+3.9%、5月は同+2.7%と、3月の落ち込み幅に比べれば小幅ではあるが、早くも回復が始まる(図表1)。大震災でサプライ・チェーン(原材料・部品の供給ネットワーク)が寸断され、生産が大きく低下したものの、需要が根強い輸送機械、一般機械、電気機械やその重要部品である電子部品・デバイスは、工場やサプライ・チェーンの復旧で徐々に回復し始めているためである。

【大震災の雇用への影響はまだ不明】
 大震災に伴う経済活動の低下を反映して、「毎勤」の3月の実労働時間は前年比−1.6%の減少、実質賃金は同−0.5%の減少となった。雇用については、「労調」が岩手、宮城、福島の3県を除く計数しか発表していないので(図表2)、実勢はつかみ難いが、上記3県を除いても、雇用者数は前年比−0.2%と9か月振りに減少した。

【大震災の影響が強く出たのは家計消費】
 大震災の影響が強く出たのは、「家計調査」である。実質可処分所得(勤労者世帯)の前年比は、上記の賃金や雇用の動向を反映して−3.2%の減少となり、更に自粛ムードを反映した消費マインドの委縮から消費性向が下がったため、実質消費支出は全世帯で前年比−8.5%、うち勤労者世帯では同−11.0%と大きく落ち込んだ(図表2)。
 「販売統計」も、3月の小売販売額は前年比−8.5%、季調済み前月比−7.8%と大きく落ち込んだ。このため、1月と2月の小売販売額は比較的確りしていたにも拘らず、1〜3月期の平均は前年比−3.0%、季調済み前期比−0.3%の減少となった。
 コンビニエンスストア―の3月の売上額は、一部の生活用品の買溜めもあって前年比+7.2%となったが、百貨店(前年比−15.0%)、家電販売額(同−17.3%)、乗用車新車登録台数(同−37.4%)の落ち込みは大きかった。

【投資活動も低下】
 3月の投資動向にも、大震災に伴う大きな影響が見られる。
 3月の国産と輸入を合計した資本財総供給(除く、輸送機械)は、前月比−12.7%の大幅減少となった(図表2)。このため、1〜2月平均では10〜12月平均比+1.1%の増加であったが、1〜3月平均は同−2.4%の減少となった。企業の設備投資動向にも、サプライ・チェーン寸断などの影響があった模様だ。
 昨年の夏以来、順調に回復してきた新設住宅着工戸数も、3月は前月比−7.5%の807万戸に急減し、1〜3月の平均は前期比+0.2%と10〜12月比ほぼ横ばいとなった(図表2)。これは住宅投資の先行指標なので、2四半期続いた住宅投資の回復が1〜3月期に直ちに頭を打つとは思えないが、増勢は鈍化したと見られる。
 3月の公共工事請負額は前年比−3.2%となり(図表2)、まだ被災地復興需要は出ていない。

【供給制約で輸出は大きく減少】
 最後に外需の動向を見ると、通関ベースで3月の輸出は前年比−2.2%、輸入は同+11.9%となり、貿易収支の黒字は前年比−78.9%と激減した。
 これを実質ベースの季調済み前月比でみると(日銀推計)、輸出が−8.0%、輸入が−1.4%となり、実質貿易収支が−24.9%の大幅減少となった(図表2)。3月の影響が大きいため、1〜3月の10〜12月平均比は、輸出が−1.1%、輸入が−0.7%、貿易収支が−2.2%となった。貿易収支は、1〜2月平均では、10〜12月平均比+0.3%とほぼ横這いで推移していたが、大震災による供給能力の低下によって輸出が大きく低下したため、1〜3月期の外需(純輸出)は成長に対してマイナスの寄与となったようだ。

【1〜3月期、4〜6月期の2四半期マイナス成長のあと、7〜9月期以降の回復にどの程度の勢いがつくか】
 以上、東日本大震災に伴う3月の生産激減は、国内外に対する出荷の大幅低下と在庫の減少を招き、家計消費、設備投資、在庫投資、輸出を大きく減少させた。このため、震災前に年率2%前後のプラス成長と見られていた1〜3月期のGDPは大きく下押しされ、マイナス成長に陥ったと思われる(図表3)。
 4月以降の経済活動は、大幅に落ち込んだ3月の水準に比べれば緩やかに回復してくると思われるが、3月の落ち込み幅が大きいだけに、4〜6月平均が1〜3月平均を上回るほどの回復になるのは難しいのではないか。2四半期連続のマイナス成長は避けがたいであろう。
 7〜9月期は、電力供給のネックが生産、出荷に対しどの程度の制約になるかによって、大きく変わってこよう。安全停止中の原発稼働などによって電力需要のピークを乗り切ることが出来れば、震災前の水準に向かって、大きく回復してくると思われるが、現在のところ15%の電力節約を呼びかけているので、本格的回復は10〜12月期以降になるかも知れない。