2011年4月版
大震災の影響で1〜3月期はゼロ成長、4〜6月期は大きく落ち込むが、7〜9月期以降の回復は電力供給能力次第

【東日本大震災のサプライ・ショックは4〜6月期が中心】
 3月11日の東日本大震災は、被災地のインフラ、企業設備、住宅などを大規模に破壊し、被災地は勿論、サプライ・チェーン(素材・部品などの供給体制)の寸断、停電、自粛ムードなどを通じて、日本全国の経済活動を低下させている。このサプライ・ショックの影響は、月ベースでは3月以降、四半期ベースでは4〜6月期の経済指標に最も大きく出てくるであろう。
 当面入手可能な2月までの経済指標では、大震災直前まで、日本経済が順調に回復していたことを示す指標が揃っている。

【1〜3月期の生産、出荷は高い伸び】
 2月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+0.4%、+1.7%と4か月連続で上昇した。製造業生産予測調査によると、3月は+1.4%と震災の影響は殆んど認められず、4月になって−1.3%と低下している。実績が予測通りであれば、1〜3月期の生産は前期比+4.5%と3四半期振りの、しかも大幅な増加となる(以上図表1)。
 恐らく、この予測調査には、大震災の影響が十分には織り込まれていないのであろう。業種別に見ても、2月までの生産上昇をリードしていた乗用車が3月も増産する予測となっているが、乗用車は部品不足で生産ラインが一時止まったことを考えると、整合的ではないように見える。
 しかし、大震災前の1〜2月の実績平均で、10〜12月平均比、生産は+4.0%、出荷は+3.1%と大きく上昇しているので、3月の実績が予測を下回っても、1〜3月期の生産、出荷は前期比プラスとなる公算が高いと思われる。

【雇用、賃金の立ち直り続く】
 雇用と賃金の緩やかな立ち直りも、2月までは続いている。「労調」の就業者数と雇用者数、「毎勤」の常用雇用者数は、前年比それぞれ+0.6%、+1.3%、+0.7%と揃って増加し、前年比増加幅もやや広がっている。他方、「労調」の完全失業者数は前年比−7.4%、季調済み前月比−5.9%と大きく減少した。この結果、完全失業率は4.6%と、前月比−0.3%ポイントの大幅低下となった(以上図表2)。
 この雇用の回復傾向が、大震災の影響でどの程度あと戻りするかが注目される。
 2月の現金給与総額は、前年比+0.3%となったが、帰属家賃を除く消費者物価指数が前年比プラスとなったため、実質賃金指数は前年比+0.1%にとどまった(図表2)。

【可処分所得、消費支出も立ち直り傾向】
 雇用、賃金の回復傾向を反映して、2月の「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比+1.4%とやや大きく上昇した。
 他方、2月の消費水準指数(全世帯)は、前年比0.0%にとどまった(以上図表2)。
 もっとも「販売統計」によって季調済み前月比の動向を見ると、2月の小売販売額は+0.8%と前月(+4.0%)に続いて増加している。12月にエコポイント制変更の影響で落ち込んだ家電販売額は、1月+5.3%、2月+7.2%と順調に回復している。またエコカー補助金打ち切りの関係で10〜12月期に落ち込んだ乗用車新車登録台数は、1月に前月比+9.6%、2月も同+5.3%とやや立ち直り、1〜2月平均の12月平均比は+15.0%となった。
 このような耐久消費財の売れ行きの立ち直りが、今後大震災の影響でどうなるかが注目される。

【住宅投資と設備投資は回復持続】
 投資動向を見ると、2月の新設住宅着工戸数は年率872万戸と前月比+3.0%増加し、1〜2月平均は10〜12月平均を+2.3%上回った。住宅投資は2四半期連続して回復したが、1〜3月期も増加を続けると見られる。大震災の影響が3月以降の着工統計にどう出てくるかが注目される。
 5四半期連続して緩やかな増加を続けている設備投資は、1〜3月期も小幅の増加となったと見られる。因みに2月の資本財(除輸送機械)の総供給は、前月比で国産が+8.4%、輸入が+4.6%、合計+7.6%とやや大きく伸び、1〜2月平均の10〜12月平均比は合計で+1.9%増となった。
 先行きを示す機械受注(民需、除く船舶・電力・携帯電話)は、10〜12月期に前期比−5.8%と落ちたあと、1月は前月比+6.6%とやや大きく伸びた。因みに見通し調査によると、民需、除く船舶・電力の1〜3月期は前期比+2.7%となっている。大震災直前まで、このベースの機械受注は緩やかな増加傾向を維持していたとみられる。
 なお、3月調査「日銀短観」によると、全産業と金融業を合計した設備投資(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)は2010年度に前年比+1.1%の増加見込みとなっている。

【2月の輸出はアジア向けを中心に回復】

 最後に外需の動向を見ると、春節明けの経済活動正常化を反映して、2月の輸出は中国向け(前年比+29.1%)を中心にアジア向けが大きく伸びたため、前月比+4.4%の増加となり、輸入は同−0.6%の減少となったため、貿易収支は前月の赤字から大幅な黒字に戻った。
 これを実質値に換算すると(日本銀行推計)、輸出は前月比+4.5%、輸入は同−3.3%となり、実質貿易収支は10〜12月平均を+13.3%上回る水準となった(図表2)。

【4〜6月期落ち込みのあと、7〜9月期の回復は電力供給次第】
 以上のように、東日本大震災が発生する直前の2月までは、内需は家計消費、住宅投資、設備投資を中心に緩やかな回復を続け、10〜12月期に足踏み状態となった外需(純輸出、図表3)も、1月を底に立ち直り始めていた。
 3月の景気指標はまだ出ていないが、1〜3月期は、3月の落ち込みはあるものの、2月までの動向から見て、ゼロ成長圏内の動きにとどまったのではないかと思われる。
 本格的な落ち込みは、4〜6月期であろう。しかし、民間の復興意欲と数次の補正予算による需要回復によって、7〜9月期からは経済活動が活発化し、プラス成長に転じる公算が高い。ただしリスクは、夏の電力需要ピーク時の供給制約である。
 東京電力の安全停止中の9基(出力958.4kw)の原発を再稼働できるかどうかが、鍵を握っている。