2011年3月版
国内需要の着実な回復から1〜3月期は再びプラス成長へ
【鉱工業生産は3月まで5か月間連続して上昇し、生産調整前のピークを3%上回る予想】
日本経済は10年10〜12月期の足踏み状態(前期比−0.3%成長)を脱し、再び回復軌道に乗ってきた。鉱工業生産は、10年6〜10月までの5か月間の生産調整(通計−5.4%)のあと、11月から11年1月までの3か月間に大きく上昇した(同+6.8%)。昨秋来の雇用の回復傾向も続いている。
1月を中心に直近の景気指標をみていくと、まず1月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+2.4%、+1.1%と3か月連続して上昇した。製造工業生産予測調査によると、2月は前月比+0.1%、3月は同+1.9%と引き続き上昇を続ける(図表1)。仮に鉱工業生産の実績が製造業生産予測指数通りになると仮定すると、1〜3月期は前期比+5.7%の大幅上昇となる。
3月の生産予測の水準は、生産調整前のピーク(10年5月)を+3.0%上回る。もっともリーマン・ショック直前のピーク(08年9月)に比べると、まだ1割低い(図表1)。
【1月は国内需要の増加が鉱工業出荷と輸入の増加を誘発】
最近の生産回復を主導している業種は、輸出好調の乗用車、一般機械、電子部品・デバイスなどである。これらの業種は、昨年5〜10月に生産調整の中心となった業種である。
1月の鉱工業出荷を内外需に分けると、国内向けが+2.3%、輸出向けが同+0.4%と、内需の伸びの方が高い。しかし、最近の傾向をみるために1月の水準を10〜12月期と比較すると、国内向けが+2.7%、輸出向けが+6.2%となり、輸出主導型の回復傾向がみられる。
他方、輸入を含む国内向け出荷全体の伸びをみると、1月は前月比+4.1%、10〜12月比+3.5%と比較的高い伸びとなっている。国内向け出荷(上述の前月比+2.3%)に加え、輸入が前月比+7.1%、10〜12月比+3.8%とやや大きく伸びたためである。
このような輸入の伸びは、資本財(除、輸送機械)、消費財、生産財で目立っている。
以上のことから、最近の鉱工業出荷の回復は内外需の双方に支えられており、1月には内需の増加が国内生産ばかりではなく、輸入の増加をかなり誘発したことが分かる。
【1月の家計消費は乗用車と家電を中心に前年水準を下回っているが前月比では回復】
需要項目を順次みていくと、1月の家計消費は前年と同水準、ないしやや下回ったが、季調済み前月比では増加した。「家計調査」では、1月の消費水準指数(全世帯)が、前年比−0.8%(図表2)、前月比+2.0%となり、「販売統計」では、小売業販売額が前年比+0.1%、前月比+4.1%となった。これは、乗用車と家電の需要変動に左右された面が大きいとみられる。
即ち、エコカー補助金と広汎なエコポイント制度の適用が行われていた前年に比べ、乗用車と家電の本年の需要水準は低くなっているが、買い急ぎの反動減の底は過ぎ、落ち込み幅は徐々に縮小している。これが、消費全体の前月比増加に反映されているようだ。因みに1月の乗用車新車登録台数は、前年比−19.0%、前月比+9.6%、1月の家電販売額は前年比−9.2%、前月比+3.9%となっている。
【雇用情勢は引き続き緩やかに改善】
1月の「家計調査」の実質可処分所得は、前年比−3.4%とやや大きく低下したが(図表2)、これは1月の雇用者数(前年比+0.3%)と実質賃金(同+0.1%)が前年を上回って増加していることと平仄が合わない(図表2)。「家計調査」のサンプル替えによる歪みではないか。
「労調」によると、1月の就業者は前年比−0.1%、前月比+0.3%、雇用者は同+0.3%(図表2)、同+0.5%、完全失業者数同−4.3%、同−0.6%となった。また「毎勤」の1月の常用雇用者は、前年比+0.8%であった。雇用情勢は引き続き緩やかに改善している。
【住宅投資、設備投資、在庫投資は増加傾向】
住宅投資は、10年7〜9月期、10〜12月期と2四半期連続して回復したが、新設住宅着工戸数の増加傾向からみて、年明け後も着実な増勢を続けているとみられる。1月の新設住宅着工戸数は、前月比−1.6%の減少となったが、10〜12月平均比では+0.8%増の水準にある。
設備投資は、機械に対する足許の投資傾向を示す1月の資本財(除輸送機械)の総供給(国内向け出荷+輸入)は前月比−0.1%の微減となった(図表2)。もっとも、この計数は10〜12月期も前期比−1.4%となっており、GDPベースの設備投資の増加とは反対に減少している。
因みに、10〜12月期GDP(1次速報値)では、設備投資の前期比が実質で+0.9%、名目で+0.6%となっている。また10〜12月期の「法人企業統計」でも、設備投資は前期比+1.7%となっている。
同統計によると、10〜12月期の在庫投資が仕掛品在庫を中心に前年比+76.4%の高い伸びとなった。生産回復期の在庫積み増しの影響であろう。
【原油高騰による輸入増加と春節控えのアジア向け輸出の停滞で1月の貿易収支は1年10か月振りの赤字】
最後に外需の動向をみると、既に鉱工業出荷内訳と鉱工業総供給でみた通り、1月は輸出より輸入の伸びの方が高かった。これを日本銀行の推計による通関ベースの実質輸出入でみると、1月の実質輸出は前月比−5.8%減、実質輸入は同+3.5%増となり、実質貿易収支は大きく悪化した(図表2)。
名目ベースでみると、1月の貿易収支は1年10か月振りの赤字に転じた。
これは、原油価格高騰の影響で輸入額が前年比+12.4%と大きく伸びた反面、輸出額は2月上旬の春節の大型連休を前にアジア向けが同+0.4%増にとどまり、また経済が停滞気味のEU向けも同−0.7%減となったため、全体で同+1.4%の微増にとどまったことによる。
2月以降は新興国・資源国向けの輸出が回復し、実質貿易収支の増加が再び成長に寄与するとみられる。加えて国内需要の回復傾向もあり、1〜3月期は再びプラス調整に戻るとみられる(図表3)。
【原油高騰によるデフレ解消は日本経済にとってマイナス要因】
上記の原油価格高騰の影響は、日本の国内物価にもでてきた。1月の全国消費者物価(除、生鮮食品)は前年比−0.2%と下落幅を縮小したが、これはガソリンなど石油製品の高騰によるところが大きい。
1月の企業物価のうち、輸入物価(契約通貨ベース)が原油等の上昇で前年比+14.0%と高騰し、国内の消費者物価に波及してきたのである。
これによって国内のデフレ解消は早まるとみられるが、輸入コスト・プッシュ型の物価上昇は企業収益を圧迫し、それが販売価格に転嫁されると実質ベースの消費購買力を削減するので、景気にはマイナスとなる。
またマクロ的にみると、輸出物価の上昇率(1月は企業物価の契約ベースで前年比+4.2%)よりも輸入物価の上昇率が高くなって、日本の交易条件が悪化し、日本の所得が海外に奪われることを意味する。
GDPデフレーターでは、国内需要デフレーターは上昇するものの、その上昇率を上回って輸入デフレーターが上昇するため、たとえ国内のデフレが解消しても、GDPデフレーターは下落し、GDPの名実逆転は続くことになる。
石油価格高騰によるデフレの解消は、日本経済にとってプラス要因にはならない。