2010年12月版
家計消費の反動減・海外経済の減速から回復の足取りは鈍化、設備投資の底固さと雇用・賃金の回復が下支え

【本年の成長率は米欧を大きく上回る4%台に】
 本年7〜9月期の実質成長率(2次速報値)は、年率+4.5%と1次速報値の同+3.9%から0.6%ポイント上方修正された。この結果、仮に10〜12月期がゼロ成長であっても、本年の成長率は+4.5%と米国の2%台、ユーロ圏の1%台を大きく上回ることになる。
 10〜12月期については、エコカー補助金の終了など政策効果の息切れ、猛暑効果や値上がり前のタバコ買い溜め効果の反動、海外経済の成長減速などから、マイナス成長になるとの予測が一般的である。しかし、以下の分析で述べるように、雇用・賃金の立ち直りで雇用者報酬が増え、消費性向に消費先喰い的なハネ上がりは見られないし、設備投資の回復も次第に底固さを増しているので、必ずしも10〜12月期がマイナス成長になるとは限らない。仮に若干のマイナス成長になったとしても、本年の成長率が4%台となり、米欧をかなり上回ることには変わりはないと思われる。

【5か月続いた生産調整は底を打ち、11月から再上昇の可能性】
 さて、10月の景気指標をみて行くと、まず10月の鉱工業生産は前月比−1.8%と、5か月連続の下落となったが、事前の製造工業生産予測調査(10月は同−3.6%)よりは小幅の下落にとどまった。
 また、11月と12月の製造工業生産予測調査によると、前月比それぞれ+1.4%、+1.5%と2か月連続の上昇となっている。5か月間続いた生産調整は底を打ち、11月から再上昇に転じる可能性が強まってきた(以上図表1)。
 これは、これ迄の下落を主導してきた乗用車と電子部品・デバイスのうち、乗用車の生産が11月から反転上昇するほか、一般機械などの資本財(除輸送機械)が引き続き根強い上昇傾向を続けているためである。

【設備投資は足許、先行き共に底固い増勢】
 10月の資本財(除輸送機械)の国内向け出荷は、前月比+2.4%、7〜9月平均比+2.3%の増加となり、11月の生産予測調査でも増加する予測となっている。国内の設備投資は、着実に拡大しているとみられる。
 因みに、下表の通り、実質GDP統計と「法人企業統計」の設備投資の動向、および先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力・携帯電話)(図表2)は、設備投資の足許と先行きの増勢がかなり底固いことを示している。



【10月の家計消費は乗用車とタバコの反動減から減少】
 10月の家計消費は、予想通り、エコカー補助金の終了(9月10日)とタバコ値上げ(10月1日)に伴う駆け込み需要の反動を主因に減少した。
 小売販売額は、本年1月から9月まで、毎月前年水準を上回っていたが、10月は前年比−0.2%と僅かながら10か月振りのマイナスとなった。
 また「家計調査」の消費水準指数(全世帯)も、10月は前年比−0.3%と5か月振りの減少となった(図表2)。
 この間、10月の乗用車新車登録台数は、前月比−17.7%、7〜9月平均比−31.9%、前年比−25.9%といずれも大幅な落ち込みを示した。またタバコ買い溜めの反動は、コンビニエンスストアの売上額が9月の前年比+12.2%のあと、10月は同−6.0%に落ち込んだことに現れている。

【10〜12月期の消費反動減の大きさはまだ計り難い】
 もっとも、これらの動向をみて、10〜12月期の成長率がマイナスになる程同期の家計消費が落ち込むとみるのは早計であろう。
 10月の小売販売額は前年比−0.2%と僅かなマイナスとなったが、季調済み前月比+8.4%と大きく伸びている。11月は、この伸びを更に上回ったようだ。これは、12月から家電エコポイントがほぼ半減される前の薄型テレビ、エアコン、冷蔵庫に対する駆け込み需要があったからである。
 この反動減が12月以降にでるとみられるものの、10〜11月の大幅増加が10〜12月期の家計消費の合計を押し上げることは間違いない。
 更に、10〜12月期の家計消費がそれ程落ち込まないとみるもっと基本的な理由がある。
 それは、さまざまの駆け込み需要がその品目に対する将来の需要の先喰いにはなっているものの、家計消費全体の先喰いにはなっていない事だ。何故なら、乗用車やタバコなどの買い急ぎによって、家計全体の消費性向が極端に高まり、その反動がでる状況にはないからだ。

【7〜9月期の一時的な消費性向の高まりは大きくない】
 10月の「家計調査」で、消費水準指数は5か月振りに前年を下回ったが、実質可処分所得(勤労者家計)に前年比+8.1%、季調済み前月比+6.6%と大きく伸びているので、平均消費性向は前年比−2.8%ポイント、前月比−4.7%ポイントの大幅低下となっている。
 また、下表の通り、季調済みの平均消費性向は、確かに7〜9月期にやや高まったが、それ程大幅ではなく、むしろ10月の低下の方が大幅である。
 またGDP統計によって家計消費の雇用者報酬に対する比率をみても、下表の通り、7〜9月期は1〜3月期以前に比べて大きく飛び上がっている訳ではない。
 以上のことから判断すると、7〜9月期に乗用車、タバコなどの需要の先喰いはあったが、可処分所得との対比で消費全体の先喰いがあった訳ではない。冬物需要の購買力は温存されている。暖冬でない限り、11〜12月には相応の冬物需要がでるのではないかと思われる。



【雇用と賃金の回復で所得は緩やかに増加】
 実質雇用者報酬は本年1〜3月期から3四半期連続して前期比(季調済み)で増加しており、実質可処分所得の前月比(同)は月による振れはあるものの、8〜10月の3か月は連続して増加している。これは雇用と実質賃金が、ジリジリと回復しているためである。
 雇用の動向を前年比でみると、「労調」の雇用者は本年7月以降(図表2)、「毎勤」の常用雇用者は本年2月以降、増加を続けている。
 また「毎勤」の実質賃金は、本年1月から前年水準を上回っている(図表2)。
 この傾向は10月も続いており、10月の可処分所得の増加を支えている。

【10月の実質輸出、実質貿易収支は減少】
 最後に外需の動向をみると、10月の通関輸出は前年比+7.8%と引き続き鈍化傾向が続いている。地域別にみると、EU向けが同−1.9%と11か月振りにマイナスとなったほか、米国向けも同+4.8%と増加幅を大きく縮小した。先進国の成長減速の影響は、かなりはっきりでている。
 他方、アジア向けも同+11.3%と増加幅を縮めているが、その中にあって、中国向けは同+17.5%と伸びを高め、インド向けとインドネシア向けもそれぞれ同+28.9%、同+36.2%と高い伸びを維持している。
 通関ベースの輸出入を実質値に換算すると(日銀推計)、輸出は前月比−1.2%、輸入は同−0.5%、実質貿易収支は同−3.4%、7〜9月平均比−7.3%となった。11〜12月も実質輸出の減少傾向が続くと、10〜12月期の外需(純輸出)は7四半期振りにマイナスに転じるかもしれない。