2010年7月版
1〜3月期までの急回復のあと4〜6月期以降の成長テンポは鈍化

【鉱工業生産、出荷の回復テンポに鈍化の傾向】
 リーマン・ショックによる落ち込みからのリバウンドで始まった今回の急速な回復(09年4〜6月期から10年1〜3月期までの1年間に+4.6%成長)は、4〜6月期に入って減速し、巡航速度に変わってきたようである。
 まず、5月の鉱工業生産、出荷は、前月比それぞれ−0.1%、−1.7%と3か月振りの減少となった(図表1)。5月の生産予測指数は同+0.4%であったから、予測に比べて実績は0.5%ポイントの下振れである。
 6月と7月の生産予測指数は前月比それぞれ+0.4%、+1.0%の上昇持続となっているので、回復の基調は崩れていないようだ。しかし、6月の実績が予想通りであったとしても、4〜6月期の前期比は+1.9%となり、09年4〜6月期から10年1〜3月期までの毎期+5.3〜+7.0%の高い伸び率に比べると、増勢は明らかに鈍化する見通しとなっている。
 図表1をみれば明らかなように、月々の動きをならしてみても、本年2月以降、増勢は明らかに鈍化している。この増勢鈍化は、以下でみるように、主として内需で起こっている。

【5月の家計消費はやや減少】
 まず国内需要からみると、5月の「家計調査」の実質消費支出(一般世帯)は、前年比−0.7%と2か月連続で前年を下回った(図表1)。季調済みの実質消費支出をみると、4〜5月の平均が1〜3月の平均に比し−2.8%の減少となっている。
 他方、「販売統計」では、5月の小売販売額は前年比+2.8%と5か月連続して前年を上回ったが、増加幅は縮小した。これを季節調整すると、5月は前月比−2.0%と5か月振りに前月を下った。
 エコポイント対象の機種が絞られたため、家電販額の前月比が4月−2.1%、5月−7.9%、と4か月振りに2か月連続で減少し、前年比は4月の+13.8%から5月は+5.8%と増加幅を大きく縮めた。他方、エコカー減税などの政策的恩恵を受けている乗用車の新車登録台数は、5月も季調済み前月比+1.3%、前年比
+23.0%と好調を持続している。

【5月の雇用・賃金の持ち直しは足踏み】
 背後にある雇用、賃金の動向をみると、5月の「労調」の就業者、雇用者は前月比、前年比ともに減少した。完全失業率は5.2%と前月比+0.1%ポイントの上昇となり、09年12月の水準に戻った(図表2)。他方、5月の「毎勤」の常用雇用は、前月比横這いとなり、前年比は前年同月がやや大きく減少していたため、+0.4%の増加となった。
 総じてみると、鉱工業生産の増勢鈍化もあって、このところ雇用情勢の持ち直しは足踏みしている。
 次に「毎勤」の実質賃金をみると、5月は前年比+0.7%と5か月連続して前年を上回った。今年の夏期賞与は、10年3月期の増益転換を反映し、前年水準を上回ると予想されるため、夏に向かって賃金水準はやや高まってくると予想される、
 最後に5月の「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−5.3%と4か月振りに前年をやや大きく下回り、消費性向は大きく上昇した。

【設備投資は緩やかに増加】
 次に投資動向をみると、足許の設備投資動向を反映する5月の国内向け資本財総供給(除輸送機械)は、前月比−4.6%と2か月連続して減少した(図表2)。このため、4〜5月の平均水準は1〜3月平均比−0.2%とほぼ横這いとなった。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力・携帯電話)は、5月に前月比−13.3%とやや大きく減少したが、これは3月(同+4.1%)と4月(同+6.5%)に急増した反動とみられる(図表2)。4〜5月平均の1〜3月平均比は+0.4%である。
 なお、6月調査「日銀短観」では、本年度の設備投資計画(製造業・非製造業・金融機関の合計、ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)は、3月調査に比べて+2.1%ポイント上方修正され、前年比+4.2%の増加であった。

【住宅投資は早くも頭打ち傾向】
 次に住宅投資は、昨年10〜12月期以降の住宅着工戸数の持ち直しを反映して、本年1〜3月期に前期比+04%と5四半期振りに増加となった。しかし、4月と5月の住宅着工戸数はそれぞれ前月比−7.1%、−7.1%の減少となり、4〜5月平均の1〜3月平均比も−13.8%と落ち込んでいる(図表2)。4〜6月期の住宅投資は早くも頭打ち傾向となる蓋然性が高い。
 他方、公共投資は、昨年7〜9月期から3期連続して減少しているが、公共工事請負額が公共事業予算の抑制を反映して1月から5月まで毎月前年を下回っていることから判断して、引き続き減勢を辿ってくるとみられる。

【外需は引き続き堅調】
 最後に外需の動向をみると、5月の実質輸出(日銀試算、以下同じ)は前月急増(前月比+6.6%)の反動から同+0.9%の増加にとどまり、他方実質輸入は同+7.5%の増加となったため、実質貿易収支は同−15.0%の減少となった(図表2)。
 しかし、4〜5月平均の1〜3月平均比をみると、実質輸出は+9.4%増、実質輸入は+5.1%増、実質貿易収支は+23.1%増となり、実質GDPベースの「純輸出」の拡大は続いているとみられる。
 名目輸出の前年比は、2月の+45.3%をピークに上昇幅を縮め、5月は+32.2%となっているが、国別にみると、アジア向けの伸び(同+34.4%)が全体をリードしている形は変わりはなく、米国向け(同+17.7%)、EU向け(同+17.4%)など先進国向けの伸びは相対的に低い(下図参照)。またアジア向けの中では、中国向け(同+25.3%)よりもASEAN向け(同47.3%)やインド向け(同+52.1%)の方が伸びが高くなってきた。


【1〜3月期までの1年間4.6%成長に比し、4〜6月期以降の成長率は鈍化】
 以上の分析から判断すると、09年4〜6月期から10年1〜3月期までの1年間に+4.6%の急成長を示した実質GDPは、4〜6月期に入り、外需は堅調に推移しているものの、家計消費を中心に内需の伸びがやや鈍っているため、成長率はやや低下している蓋然性が高い。
 もっとも家計消費は、10年3月期の企業業績の回復を反映して、夏期賞与が前年を上回るため、このまま低迷していくとは思われない。成長のスピードは緩やかになるものの、一定の巡航速度に軟着陸するのではないかと思われる。