2010年5月版
日本経済の成長経路は政府見通しを0.5%程度上回って推移している
【生産・出荷の回復続く】
これまでにほとんど出揃った3月の主な景気指標から判断すると、アジア向けを中心とする輸出の増勢持続に、家計消費の底固い回復と設備投資・住宅投資の持ち直しも加わって、1〜3月期は前期(年率+3.8%成長)を上回る+5%前後の高目の成長を遂げたとみられる。
これに伴い、平成21年度の成長率は、政府見通しの−2.6%よりも減少幅を縮小し、−2.1%程度になったと思われる(因みに日本銀行政策委員の本年4月改定見通しは−2.2〜−2.1%<中央値−2.2%)。
まず鉱工業生産、出荷から見ていくと、3月は前月比それぞれ+0.3%、+1.6%の増加となり、1〜3月期の前期比増加率は+6.7%、+7.1%と10〜12月期(+5.9%、+5.9%)よりも伸び率を高めた(図表1)。
また4月の生産予測指数は、前月比+3.7%の大幅な伸びとなり、5月はその反動で−0.3%となっている。図表1をみれば明らかなように、大勢としては生産、出荷の増勢に変化はない。しかし、水準としては、08年10月から09年2月までの急激な落ち込みの7割を戻した程度である。
持ち直しをリードしている業種は、輸出好調の各種機械類と消費好調の薄型テレビ、乗用車などの耐久消費財である。
【雇用と賃金の回復が所得を支える兆し】
経済の着実な拡大を反映し、3月の「労調」の雇用者数と「毎勤」の常用雇用は、それぞれ前年比+0.3%、+0.2%と共にほぼ1年振りのプラスとなった(図表2)。
また「毎勤」の3月の実質賃金は、前年比+2.1%と3か月連続で前年を上回った。この結果、1〜3月期は前年比+1.3%と8四半期振りに前年比プラスとなった。
このような雇用・賃金の持ち直しを反映して、3月の「家計調査」でも、実質ベースの勤労者世帯の実収入が前年比+0.4%、可処分所得が同+0.3%、消費支出が同+3.6%と揃って前年を上回った。
また3月の全世帯の実質消費支出は、前年比+4.4%(図表2)、前月比+5.9%と大きく伸びた。
【家電と乗用車の売り上げが引き続き好調】
「販売統計」も好調である。小売販売額の前年比は、3月+4.7%、1〜3月+3.7%と共に大きく伸びた。1〜3月期の前年比プラスは6四半期振りである。季調済み前期比でも、1〜3月期は+2.7%の大幅増加となった。
なかでも、エコポイント制度の対象製品が4月から絞られる薄型テレビなどの家電販売額は、3月に前年比+13.0%、前月比+6.9%と著しく伸びた。
またエコカー減税の対象となっている乗用車の販売も引き続き好調で、3月は前年比+25.2%、1〜3月期は同+24.1%(軽乗用車を除くと、それぞれ+40.7%、+40.8%)と、著しく高い伸びを続けている。
【設備投資は緩やかなに持ち直し、住宅投資は底入れ】
次に投資動向に目を転じると、3月の新設住宅着工戸数は、前年比−2.4%と引き続き前年比減少幅を縮小しており(図表2)、1〜3月期の季調済み前期比は+5.8%と2四半期連続して上昇した。GDP統計の住宅投資は10〜12月期まで4四半期連続で落ち込んでいるが、住宅着工統計が10〜12月期、1〜3月期と2四半期連続して前期比で増加したことから判断すると、GDP統計ベースの住宅投資は1〜3月期に底入れし、上昇に転じるとみられる。
他方、足許の機械に対する設備投資と機械輸出の動向を示す一般資本財出荷は、2月に前月比+12.2%と急増した反動で3月は−0.5%となったが、1〜3月期をならしてみると、前期比+14.0%と著増した。これには機械輸出の増加も寄与しているが、10〜12月期に7四半期振りに増加したGDPベースの設備投資が、1〜3月期も緩やかに増加したことを示しているとみられる。
この間公共投資関連では、公共事業予算の削減を背景に、1〜3月期の公共工事請負額が5四半期振りに前年比−11.8%のマイナスに落ち込んだ(図表2)。このことから判断して、2四半期続けて微減したGDPベースの公共投資は、今後、減少幅を拡大していく思われる、
【3月の実質貿易収支黒字は07年のピークに迫る】
最後に外需の動向をみると、日本銀行が試算した実質ベースでみて、輸出は3月に前月比+2.8%、1〜3月期に前期比+5.2%と引き続き中国(3月の名目前年比+47.7%)、インド(同+37.3%)、ASEAN(同+63.5%)、アジアNIEs(同+51.9%)向けを中心に好調を持続している。
他方、輸入は3月の前月比が−3.9%、1〜3月期の前期比が+2.5%にとどまった。この結果、3月の実質貿易収支の黒字は07年のピークに迫る水準に達し、1〜3月期全体では前期比+14.6%の大幅増加となった(図表2)。
【生産・雇用・賃金の好循環が始まるか?】
以上を総括すると、1〜3月期は外需が過去3四半期に引き続いて大きく成長に寄与したほか、内需も家計消費が過去3四半期同様の底固い回復を持続し、設備投資も前期に続いて持ち直し、住宅投資は底入れするとみられる(図表3)。このため、公共投資はやや下落幅を大きくするものの、比重は小さいので(GDPの3.7%)、全体として1〜3月期は10〜12月期を上回る成長率を達成したものと思われる。
今後は、3月に見られた雇用と賃金の回復が本格化し、雇用者報酬の持ち直しを実現することとなれば、内需の自律的回復も次第に定着し、成長率は政府見通し(21年度−2.6%、22年度+1.4%)を少なくとも+0.5%程度上回る経路で推移することとなろう。