2010年2月版
貿易収支、家計消費、設備投資の回復で10〜12月期はやや高めの成長

【鉱工業生産は10か月連続の上昇で15か月振りに前年水準を上回る】
 アジア向けを中心とする輸出の増加と、消費性向の上昇を伴う実質個人消費の回復などによって、経済成長率は、10〜12月期には4〜6月期や7〜9月期に比してやや高まったとみられる。
 個々の指標を見ていくと、12月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+2.2%、+1.1%といずれも10か月連続の増加となり、遂に前年の水準を上回るに至った(前年比それぞれ+5.3%、+5.4%)。生産は15か月振り、出荷は17か月振りの前年比プラスである(図表1)。
 1月と2月の生産予測指数は、前月比それぞれ+1.3%、+0.3%と上昇テンポは鈍るものの、増加を続け、2月の前年比は+31.4%まで高まる見込みである。これは前年の生産が2月まで急落したための上昇幅大幅拡大であり、落ち込み前のピーク(08年3月)に比べればまだ−21.6%の低水準である。

【耐久消費財と生産財が回復をリード】
 12月の生産、出荷の前年比を財別にみると、下表の通り、耐久消費財と生産財の増加率が2桁に達しており、突出している。
 耐久消費材の高い伸びは、エコ関連の乗用車と家電製品に対する国内消費の増加が主因であり、またアジア向けの乗用車輸出の伸び(12月の前年比は+71.8%)も加わっている。
 生産財の高い伸びは、主としてアジア向け輸出の伸びによるもので、特に目立つのは、プラスティックなどの化学製品(同+83.2%)、半導体等電子部品(同+42.6%)、自動車部品(同+77.7%)などである。また電子部品と自動車部品は、国内向けも大きく伸びている。
 当面の日本経済の拡大は、実質個人消費とアジア向け輸出に支えられていることが、ここから窺える。


【時間外労働は増えているが雇用と賃金の回復は遅々としている】
 次に雇用情勢をみると、「毎勤」の所定外労働時間(季調済)は4月以降12月まで9か月連続で増加し、通計+11.8%の増加となったが、常用雇用はその間横這いで推移している。これまでのところ企業活動の回復は時間外労働の延長で賄われていており、常用雇用の増加には結びついていないようだ。
 12月の「労調」の就業者と雇用者は、季調済み前月比でそれぞれ+0.2%、+0.3%の微増となったが、前年比ではまだ−0.7%、−1.2%のマイナスである。他方、12月の完全失業者は季調済み前月比で−0.9%の減少となったため、失業率は5.1%と前月比−0.1%ポイントの低下となった(図表2)。
 このように雇用情勢の改善が遅々としている下で、12月の「毎勤」の賃金指数も、前年比名目で−6.1%、実質で−4.4%と下落幅を拡大した(図表2)。12月はボーナス月であるため、特別給与(賞与)の前年比−10.6%が大きく響いたためである。

【可処分所得が回復しない中で実質消費は5か月連続して増加】
 このような雇用と賃金の動向を反映して、「家計調査」の可処分所得(勤労者世帯)は、12月の前年比も、名目で−6.4%、実質で−4.7%とマイナス幅を拡大した(図表2)。しかし消費支出(同)は、名目で−1.7%、実質で+0.1%と可処分所得ほどの落ち込みとはならず、実質では逆にやや増えた。これは、平均消費性向が、前年の44.5%から46.8%へ2.3%ポイント上昇したためである。
 全所帯ベースの実質消費支出をみると、12月は前年比+2.1%(図表2)と勤労者所帯の伸び率(+0.1%)よりもかなり高い。これを季節調整して前月比でみると、下表のように、8月から12月まで5か月連続して増加している。


【エコ関連の家電と乗用車の購入が突出】
 販売統計にも同じ傾向が窺われる。下表のように、小売販売額(名目)は前年を僅かに下回る水準で推移しているが、その下落幅は8月以降消費者物価の下落幅よりも小幅となったので、実質ベースでは前年を僅かに上回っている。
 その中にあって小売販売額中の家電販売額は、下の表の通り、9月以降名目ベースでも前年を上回り続けている。
 また乗用車新車登録台数は、8月以降前年比プラスに転じ、その幅は次第に拡大して11月から1月は20%台の伸びとなっている。
 家計は可処分所得が増えない中で、エコポイント制度のある薄型TVなどの家電と、エコ・カー減税・補助金の対象となる乗用車に対する購入意欲を高め、消費性向を上昇させて消費を増やしているとみられる。


【設備投資は反転増加、住宅投資は底打ち】
 次に投資動向をみると、機械に対する設備投資と機械輸出の動向を示す一般資本財出荷は、昨年6月以降月を追って前年比減少幅を縮小しているが(図表1)、季調済み前期比でみると、7〜9月期の+5.3%に続き、10〜12月期は+11.4%と増加テンポを高めている。一般機械の輸出は12月も−3.5%と伸びていないので、基本的には国内の設備投資の底入れを示す動きとみられる。
 先行指標の機械受注(民需、除電力・海運)は、前年比減少幅を徐々に縮小しており(図表2)、10〜12月期の見通しは季調済み前期比で+1.0%となっている。
 新設住宅着工戸数も、9月以降前年比減少幅を縮小しているが(図表2)、季調済みの年率着工戸数をみると、8月の688千戸をボトムとして反転増加に転じており、10〜12月期は平均791千戸、前期比+11.0%と大きく増加した。住宅投資は底を打ったようだ。
 公共工事請負額は、新政権の予算削減もあって前年比上昇率が徐々に落ちているが(図表2)、それでも10〜12月期は+6.3%であった。公共投資は今後緩やかに減少するとみられる。

【アジア向け輸出の回復を中心に実質貿易収支の黒字は大きく拡大】
 最後に外需の動向をみると、12月の輸出はアジア向けの大幅な伸び(前年比+31.2%)を中心に、前年比+12.1%と08年9月以来15か月振りの前年比プラスに転じた。09年2月のボトムから12月までの10か月間の輸出増加に対する地域・国別の寄与率をみると、アジア向け輸出の寄与率が実に66.1%に達し、米国・EU向け輸出の寄与率は22.6%にとどまっている(詳しくはこのHPの<最新コメント>“日本はアジアの内需を取り込んで発展できる―09年12月の日本の輸出が語るもの”H22.1.9参照)。
 他方、12月の輸入は前年比−5.5%と、まだ前年水準を上回るには至っていない。
 この輸出入を実質ベースに換算すると(日本銀行推計)、輸出は前月比+2.8%、輸入は同−0.1%となり、実質貿易収支は同+13.7%の黒字拡大となる。10〜12月期の前期比では、輸出が+8.9%、輸入が+2.2%、貿易収支が+39.8%の大幅黒字拡大となる(以上図表2)。

【10〜12月期は年率4%前後の成長か】
 以上の諸指標から判断すると、今月15日(月)に公表される予定の10〜12月期の実質GDPは、4〜6月期(年率成長率+2.7%)と7〜9月期(同+1.3%)をやや上回る成長率に達したと思われる(図表3)。
 すなわち、内需では家計消費がやや伸び率を高め、減少してきた設備投資と住宅投資が下げ止まりないしは若干の増加に転じ、反面公共投資はウェイトが3.8%にすぎないのでそのマイナスの寄与度は小さいとみられる。
 外需は、上記の実質貿易収支の動向からみて、かなり大きな増加寄与度となろう。
 この結果、年率換算の成長率は4%前後に達したとみられる。