2009年11月版
設備投資と雇用の悪化に底打ちの気配、家計消費の増加もあって7〜9月期の内需は6四半期振りにプラスに転じた可能性

【生産、出荷は9か月連続して上昇し、12月以降前年を上回る可能性】
 世界景気の底打ちと現地在庫の調整進捗に伴い、輸出の緩やかな回復が続く中、国内でも政策効果と輸入物価の下落で実質ベースの家計消費が持ち直し、設備投資も下げ止まってきた。このため7〜9月期は内外需が揃って増加し、4〜6月期(年率成長率+2.3%)を上回るプラス成長となった蓋然性が高い。
 まず9月の鉱工業生産は、予測指数(前月比+1.1%)を上回る同+1.4%の増加となり、出荷は更に同+3.4%の大幅増加となった。これで生産、出荷の増加は7か月連続しているが、10月と11月の生産予測指数も、それぞれ同+3.1%、同+1.9%と更に上昇を続ける見込みである(以上図表1)。
 リーマン・ショックに伴う生産急落が前年の10月から始まっているため、回復を続ける生産、出荷は本年12月以降、前年水準を上回ることとなろう。しかし、急落前の9月の水準に比べると、11月の生産予測指数も−13.7%とまだかなり低い水準である。
 
【生産回復の中心は耐久財消費財とその部品】
 四半期ベースで見ると、4〜6月期と7〜9月期の前期比は、生産が+8.3%と+7.2%、出荷が+6.4%と+8.1%といずれもかなりのテンポで上昇しており、10〜11月の生産予測指数の平均も7〜9月平均比+5.6%とこのテンポを維持している。この間在庫率の前期比は、二つの四半期に−9.6%、−12.3%と大きく低下し、在庫調整は着実に進んでいる。
 このような回復をリードしている品目を調べるため、1〜3月期と7〜9月期の生産を財別に比較してみると、下表の通り、耐久消費財が+36.2%、生産財が+27.8%と大きく増加している反面、資本財と建設資材は小幅の減少にとどまっている。エコ・カー減税、エコ・ポイント制度などの政策効果と新興国・途上国向け輸出の回復に伴う普通乗用車、小型乗用車、液晶テレビなどとそれらの部品の増産が、全体をリードしていることが分かる。



【雇用情勢の悪化に底打ちの気配】
 このような鉱工業生産の回復を伴う4〜6月期と7〜9月期のプラス成長は、遅行指標である雇用情勢にも、ようやく好影響を及ぼし始めた。
 「労調」の就業者数(季調済み)は07年12月をピークに減り始め、完全失業者数(同)は同じく07年12月をボトムに増え始めたため、完全失業率(同)はこの時の3.7%をボトムに上昇してきた。しかし、下表の通り、本年の8月と9月に就業者数は増加に転じ、完全失業者数は減少に転じたため、完全失業率は本年7月の5.7%をピークに、8月は5.5%、9月は5.3%と2か月連続して僅かに低下した(図表2)。
 またこれまで低下の一途を辿ってきた有効求人倍率(季調済み)と新規求人倍率(同)も、9月には揃って上昇した。
 これらが雇用情勢好転の始りかどうかは、もう少し見ないと断定できないが、これまで一貫して就業者が増えてきた医療・福祉を始めとする対個人サービス業に加え、9月には製造業の就業者の前年同月比減少率が−7.1%と、前月(同−9.3%)よりも縮小したことは注目される。



【消費者物価の下落に伴い実質ベースの賃金と可処分所得の前年比減少幅は縮小】
 「毎勤」統計を見ると、上記の雇用情勢の変化は、所定外(時間外)労働時間や常勤労働者の前年比減少幅の縮小を通じて、現金給与総額の前年比減少幅の縮小に反映され始めた。9月の現金給与総額は前年比−1.6%と6月(同−7.0%)、7月(同−5.6%)、8月(同−2.7%)に比べ3か月連続の縮小をみた。季調済み前期比は増加に転じたと見られる。
 他方、9月の全国消費者物価は、石油、穀物などの国際商品市況の前年比大幅下落と円高によって輸入物価が大きく下がっているため、前年比−2.2%の下落となっている。この結果、9月の実質賃金は前年比+0.9%の増加に転じ、7〜9月期も前年比−1.0%と前期(同−3.5%)に比し、減少幅を大きく縮小した(図表2)。季節調整後の前期比は、プラスに転じたとみられる。
 「家計調査」の可処分所得(勤労者世帯)も、実質ベースの前年比でみると、9月は−0.4%と大きく減少幅を縮小した(図表2)。

【エコカー・エコポイントなどの政策効果もあり7〜9月期の消費はかなりの増加】
 このような雇用・賃金の動向を背景に、9月の実質消費支出(全世帯)は8月の前年比+2.6%に続いて同+1.0%と2か月連続して前年水準を上回り、7〜9月期全体としては同+0.5%と前期(同−0.3%)までのマイナスからプラスに転じた(図表2)。
 販売統計をみても、7〜9月期の小売業販売額は前年比−1.9%と前期(同−2.8%)に比較して減少幅を縮小し、季調済み前期比では増加したとみられる。
 また乗用車新車登録台数(季調済み)も、7〜9月期は425.7万台、前期比+18.1%とこれまでの減少傾向から転じて大きく増加した。
 このような7〜9月期の消費増加は、エコカー減税、エコポイント制度などによる乗用車や液晶TVなどの購入増加と消費者物価下落に伴う実質消費購買力の高まりによるものとみられる。

【設備投資の悪化は止まる気配】
 次に投資動向を見ると、機械に対する設備投資と機械輸出の動きを反映する一般資本財出荷の前年比減少幅は、図表2に示したように、5月の−44.5%をボトムに徐々に縮小し、9月は−32.2%となった。
 これを季節調整指数でみると、5月から7月まで底を這ったあと、8月は前月比+6.9%、9月は同+6.0%と2か月続けて大きく上昇した。実質輸出は8月(前期比+1.3%)と9月(同+5.4%)にこれほど大きく伸びていないので、この一般資本財出荷の上昇は設備投資の底打ちを示す動きと見られる。
 他方、新設住宅着工戸数は9月になってようやく前年比減少幅の拡大が止まり(図表2)、季調済み前月比では+3.3%と僅かに増加した。これが住宅着工の下げ止まりかどうかは、もう少し見ないと断定出来ない。いずれにせよ、GDPベースの住宅投資は、住宅着工に遅行するので、7〜9月期も住宅投資は下落を続けるであろう。
 この間、公共工事請負額は、9月も前年比+22.1%と大きく伸びており(図表2)、GDPベースの公共投資の増勢(図表3)は当分続くと思われる。

【アジア向け輸出を中心に外需は引き続き拡大】
 最後に外需の動向を見ると、日本銀行の試算した7〜9月期の実質輸出は前期比+11.0%の増加、実質輸入は同+8.5%の増加となり、実質GDPベースの純輸出に対応する実質貿易収支(図表2)は、同+24.7%の拡大となった。4〜6月期に5四半期振りにプラスに転じた外需(純輸出、図表3の実質貿易収支)は、7〜9月期にも引き続き増加し、成長にプラスの寄与をしている。
 日本の輸出は、リーマン・ショック後、昨年の10月から前年比がマイナスに転じ、そのマイナス幅は本年2月まで拡大して−49.4%とほぼ半減したが、3月以降は縮小し始め、9月現在−30.7%となっている。
 これを季節調整すると、9月の輸出は2月比+44.8%増加したが、この増加に対する地域別寄与率は、下表の通り、対アジア向け輸出が+64.6%に達しており、対米国・EU向けは24.5%にとどまっている。増加率を見ても、対アジアが57.2%であるのに対し、対米国・EUは4+37.0%にとどまる。
 日本の輸出、ひいては景気の立ち直りが、先進国よりも、アジアに大きく依存していることが分かる。


【7〜9月期は内外需揃ってプラスに転じる可能性】
 以上を総括すると、来る11月16日(月)公表予定の7〜9月期の実質成長率は、外需が前期に引き続いてプラスの寄与となるほか、前期まで5四半期連続してマイナスの寄与を続けてきた国内需要が、家計消費のかなりの増加、公共投資の増勢持続、設備投資の下げ止まりによって押し上げられ、住宅投資と在庫投資のマイナスはあるものの、成長に対して6四半期振りにプラスに転じた蓋然性が高いと見られる。
 この結果、7〜9月期の実質成長率は、前期の年率+2.3%を上回るプラス成長となる可能性が高い。