2009年9月版
輸出のリバウンドで回復は続いているがテンポはこのところやや鈍化

【生産、出荷の回復は続いているが、まだ戻りは落ち込み幅の半分】
 輸出の落ち込みのリバウンドで、経済活動は緩やかに回復しているが、その水準は落ち込み前の水準よりも遥かに低く、このため雇用の悪化は止まっていない。
 まず鉱工業活動を見ると、7月の生産、出荷はそれぞれ前月比+1.9%、同+2.3%と5か月連続の増加となったが、そのテンポはやや鈍化してきた(図表1)。8月と9月の生産予測指数は、それぞれ前月比+2.4%、+3.2%と回復を持続し、実績が予測通りとなれば7〜9月期は前期比+8.1%と4〜6月期(同+8.3%)とほぼ同じ増加率となる。
 しかし、それでも9月の予測指数の前年同月比は−15.9%であり、昨年10月から本年2月末までの落ち込み幅の51.6%を戻すに過ぎない。
 
【回復の水準が低いため賃金・雇用情勢は引き続き悪化】
 このように鉱工業の活動水準が低いため、7月の完全失業者は前年同月比+103万人(+40.2%)と前月(同+83万人、+31.3%)より一段と増加幅を拡大し、季節調整済み完全失業率は5.7%と前月比0.3%ポイント上昇した(図表2)。
 他方、7月の「労調」の就業者と雇用者は前年比それぞれ−2.1%、−1.4%、「毎勤」の常用雇用は同−0.1%といずれも減少している。業種別にみると、製造業の減少幅拡大を医療・福祉、教育・学習支援、宿泊・飲食サービスなど対個人サービス関係の雇用増加が補い、全体として減少幅の拡大をくい止めている(図表2)。
 また、「毎勤」の7月の現金給与総額は、時間外手当と賞与を中心に前年比−4.8%の減少となったが、賞与の落ち込みが強く響いた前月(同−7.0%)よりも減少幅は縮小した(図表2)。

【7月の実質消費は4〜6月期増加の反動で減少】
 このような雇用、賃金の動向を反映して、「家計調査」の7月の可処分所得(勤労者家計)は、前年比−3.0%と4〜6月期の平均(同−1.8%)を上回る落ち込みとなった(図表2)。
 また、「GDP統計」によると、4〜6月期の雇用者報酬は前年比−4.7%とかなり大幅な減少である。これを背景に、同期の「名目」家計消費支出は前年比−2.7%の減少となった。もっとも、季節調整した同期の「実質」家計消費支出は、消費者物価の下落によって、前期比+0.8%の増加となった(図表3)。この増加には、夏物セール前倒しの影響も響いている。
 しかし、7月はセール前倒しの反動と異常な降雨量、低温の影響から、「家計調査」の消費支出(全世帯)は実質の季調済み前月比で−1.3%、名目の前年同月比では−4.5%(前月は-1.7%)とかなり減少した(図表2)。

【住宅投資と設備投資は引き続き大幅な減少】
 家計の住宅投資と企業の設備投資は引き続き減少している。
 7月の新設住宅着工戸数は前年比−32.1%とほぼ4〜6月(同−31.9%)並みの落ち込みを続けている(図表2)。本年1〜3月期に前期比−5.7%、4〜6月期に同−9.5%と急激に落ち込んでいる住宅投資(実質)は、当分底打ちの見込みはなく、今後も減少を続けるであろう。
 他方、機械に対する設備投資と機械の輸出を反映する一般資本財の出荷は、7月も季調済み前月比で−1.3%、前年同月比で−39.0%となった。季調済みの前月比では5月以降底這い傾向を示しており、前年同月比では5月の−45.2%を大底としてやや縮小した(図表2)。
 しかし、これには機械輸出の回復が寄与していると見られ、足許の設備投資の下げ止まりを示しているとは、必ずしも見られない。
 設備投資に6〜9月先行する機械受注(民需、除船舶・電力)も、4〜6月期まで4四半期連続で前年を大きく下回り、その落ち込み幅が拡大している。7月も季調済み前月比で−9.3%と6月の増加(同+9.7%)を帳消しにする反動減となり、前年同月比は−34.8%と4〜6月平均(同−33.4%)並みの下落となった(図表2)。

【輸出と純輸出の回復テンポはやや鈍化】
 外需(GDPベースの「純輸出」)は4〜6月期に5四半期振りの増加に転じ、実質GDPを前期比+1.6%ポイント押し上げたが(図表3)、日本銀行が試算した7月の実質貿易収支は135.2(05年平均=100の指数)となり、4〜6月平均(108.2)を+25.0%ポイント上回っている(図表2)。
 輸出は、中国、インドなどアジア向けを中心に前年比減少幅が縮んでいるが、回復テンポはやや鈍化している(下表)。このため、実質貿易収支の増加テンポも、7〜9月期にはやや鈍化しそうである。



【7〜9月期の成長率は鈍化する蓋然性が高い】
 4〜6月期の実質GDPは前期比+0.9%(年率+3.7%)と5四半期振りのプラス成長となったが(図表3)、これはもっぱら純輸出が成長率を+1.6%ポイント押し上げたためで、国内需要は前期比−0.7%(成長率に対する寄与度は−0.7%ポイント)と5四半期連続して減少した。
 国内需要の減少は、住宅投資の前期比−9.5%(成長率に対する寄与度−0.3%ポイント)、設備投資の同−4.3%(同−0.6%ポイント)、在庫投資の大幅減少(同−0.5%ポイント)によるもので(合計して実質成長率を−1.4%ポイント引き下げ)、家計消費は同+0.8%(同+0.5%ポイント)、公共投資は同+8.1%(同+0.4%ポイント)の増加であった(図表3)。
 7〜9月期は、設備投資と住宅投資が引き続き減少するほか、家計消費も減少に転じ、純輸出も増加テンポが落ちると見られるため、在庫投資の減少幅は縮小して成長に対してプラスの寄与度に転じるとしても、全体として成長率は低下する蓋然性が高い。