2009年8月版
内需は横這いながら輸出の反動増で4〜6月、7〜9月はプラス成長へ
【生産、出荷は引き続き回復】
鉱工業生産、出荷のリバウンドは、テンポを緩めながらも根強く続いている。
6月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々+2.4%、+3.5%と4、5月(同+5.9%、+5.7%)に比べればややスピードは落ちてきたが着実に上昇しており、7月と8月の生産予測指数も前月比夫々+1.6%、+3.3%と根強く上昇する見通しである(図表1)。この結果、生産は4〜6月期の前期比+8.3%に続き、7〜8月の予測指数平均も4〜6月平均比+6.8%と大きく上昇する見込みである。
生産調整の進捗に伴い、生産者の製品在庫率は1月から6月まで6か月連続して減少し、通計−13.0%の下落となった。他方、出荷は3月から毎月上昇しているため、在庫率は2月をピークに6月まで−18.5%の低下となった(図表1)。
もっとも今回景気後退前の水準に比べると、生産と出荷の水準はまだ低く、在庫率の水準はまだ高い。例えば、昨年5月のピークから本年2月のボトムまでの生産の落ち込み幅−36.4%であるが、8月の予測指数はその4割弱まで戻すに過ぎない。
また、6月の在庫率は前年同月をまだ+22.7%も上回っている(図表1)。
【一般資本財の出荷に下げ止まりの気配】
生産、出荷のリバウンドをリードしている業種は、引き続き電子部品・デバイス、乗用車、鉄鋼など輸出の落ち込みとその反動増が大きい業種であるが、7、8月の生産予測指数では、一般機械の反動増が生産全体の上昇に大きく寄与し始めたことが注目される。これが輸出回復の反映だけなのか、あるいは国内の設備投資にも下げ止まりの動きが出てきたのかによって、経済全体の先行き見通しも変わってくる。
設備投資の一致指数である一般資本財の出荷は、5月まで一貫して前年比減少幅を拡大してきたが、6月は前年比−39.5%と久し振りに前月(−45.2%)より縮小した(図表2)。
これを季節調整すると、前月比+1.2%と僅かに増加し、在庫率は前月比−13.0%とやや大きく低下した。
【遅行指標の雇用は依然として悪化】
生産の落ち込み幅縮小は、遅行指標である雇用にはまだ響いていない。
6月の「労調」の就業者数とその内訳である雇用者数は、前年比夫々−2.3%、−2.0%と減少幅を拡大している(図表2)。「毎勤」の常用雇用も、前年比−0.1%と2か月連続して前年を下回った。
他方、「労調」の完全失業者は前年比+31.3%と増加幅を拡大しており、6月の完全失業率(季節調整済み)は5.4%と前月比0.2%ポイント上昇した。
就業者数の業種別内訳を見ると、全体の減少(前年比−151万人)に最も大きく寄与しているのは、製造業(同−91万人)である。他方、医療・福祉は同+21万人増、宿泊業・飲食サービス業は同+24万人増と不況下でも増加を続けている。これは最終需要の構造変化を反映したものであり、内需主導型回復の道筋を示唆しているように見える。
【4〜6月期の可処分所得は実労働時間の回復を反映して前年比下落幅を縮小】
次に、賃金・所得の動向を見ると、「毎勤」の現金給与総額は4〜6月期に前年比−4.2%と1〜3月期(同−2.9%)に比して減少幅を拡大したが、これはもっぱら6月の前年比が−7.1%と大きく落ち込んだためである(図表2)。この落ち込みは、09年3月期の決算悪化を反映して、6月の特別に支払われる給与(賞与)が前年比−14.5%と大きく下落したためである。
決まって支給する給与(賞与を除く給与)は、3月の前年比−2.9%を底に減少幅を縮小しており、6月は同−1.8%となった。これは、労働時間の回復を反映して、所定外(時間外)給与が3月の同−21.3%から6月は−17.7%へ落ち込み幅を縮小したためである。
この傾向は、「家計調査」の可処分所得(勤労者世帯)にも見られる。6月の可処分所得は前年比−5.3%の大幅落ち込みとなったが、4〜6月期をくくると、同−1.8%と1〜3月期(同−2.1%)よりも減少幅が縮小している(図表2)。
生産の回復傾向、ひいては成長率のマイナスからプラスへの転換(後述)は、雇用にはまだ反映されていないが、労働時間の増加を通じて賃金・所得の回復に反映され始めている。因みに「毎勤」の実労働時間は、1〜3月期の前年比−3.8%から4〜6月期の同−2.5%へ、減少幅を縮小した。
【4〜6月期の実質消費支出は増加】
このような賃金・所得の動向を反映して、「家計調査」の消費支出(全世帯)も、6月に前年比−1.7%と減少幅を拡大したものの、4〜6月期をくくってみると同−1.2%と1〜3月期(同−3.3%)よりも減少幅を縮小している。
また、昨年のガソリンや食料品などの値上がりの反動で、全国消費者物価は5月(前年比−1.1%)、6月(同−1.8%)と前年比で下落しているため、消費支出(全世帯)は名目ベースでは減少しているものの(図表2)、実質ベースでは5月同+0.3%、6月同+0.2%と前年比微増している。
他方、「販売統計」を見ると、百貨店の中元セールが6月に前倒しされたこともあって、4〜6月期の小売業販売額は前年比−2.9%と1〜3月期(同−3.9%)よりも減少幅を縮小した。
また乗用車新車登録台数は、エコカー減税の影響もあって、4〜6月は360.5万台(季節調整済み)と前期比+4.0%の増加となった。
【設備投資と住宅投資は減少持続、公共投資は大幅増加】
次に投資動向を見ると、民間部門と公共部門が対称的な動きを見せている。
民間の設備投資は、前述のように、一般資本財出荷に下げ止まりの気配があるものの、これには輸出回復の影響も入っており、設備投資の下げ止まりかどうかは、もう少し判断を保留する必要があろう。先行指標である機械受注を見る限り、まだ前年比減少幅が拡大している(図表2)。
新設住宅着工戸数も、4〜6月は前年比−31.9%と大きく減少しており(図表2)、住宅投資の回復は当分見込めない。
これに対して、公共工事請負額は、相次ぐ補正予算の執行と予算の前倒し執行を反映して前年比増加幅を拡大しており、4〜6月期は前年比+13.0%に達した(図表2)。公共投資は4〜6月期以降、加速的に増加してくるであろう。
【輸入の伸びが輸出の伸びをかなり下回り実質貿易収支は大幅な改善】
最後に外需の動向を見ると、6月の通関輸出は前年比−35.7%と2月(同−49.4%)の底からかなり減少幅を縮小した。しかしその水準(季節調整済み)は、2月比+7.0%の回復にすぎず、昨年12月の水準にも戻っていない。
国・地域別に見ると、中国向けの減少幅縮小が−45.2%から−23.7%と最も大きく、アジア全体でも−46.7%から−30.1%に縮小した。他方、米国向けは−58.4%から−37.6%、EU向けは−54.7%から−41.4%と縮小テンポは緩やかである。
実質GDP統計の「純輸出」に対応する実質ベースの輸出入を日本銀行の推計によって見ると、ボトムの2月から6月までの間に、実質輸出は+19.8%の回復、実質輸入は+5.7%の回復となった。輸入の伸びが低いのは昨年10〜12月期(年率成長率−13.5%)と本年1〜3月期(同−14.2%)の大幅なマイナス成長(図表3)によるものである。
この結果、4〜6月期の実質貿易収支(2005年平均=100)は108.1となり、1〜3月期(23.1)に比し大きく改善した(図表2)。
【4〜6月期と7〜9月期はプラス成長の蓋然性が高い】
以上を総合すると、8月17日(月)に公表される4〜6月期の実質GDP(1次速報値)は5四半期振り(図表3)のプラス成長となるのは確実である。
国内需要では、設備投資と住宅投資のかなりのマイナスが家計消費の小幅増加と公共投資の大幅増加によってほとんど相殺される形となろう。
しかし、外需(純輸出)が成長に大きく寄与する結果、前期比+1%(年率+4%)前後の比較的高い成長率となる蓋然性が高い。
7〜9月期もプラス成長転換を背景とする家計所得の底固い動きと消費者物価の下落に支えられて実質家計消費が小幅の増加を続け、外需のプラス寄与も続くと見られるため、設備投資と住宅投資は弱いものの、引き続きプラスの成長が維持される蓋然性が高い。