2009年6月版

外需と在庫投資の回復、公共投資の政策的拡大で、成長は4〜6月期から緩やかなプラスへ

【アジア向けを中心に輸出は底打ち、4〜6月期の外需はプラスに】
 輸出と鉱工業生産・出荷の底打ちが、一段とはっきりしてきた。
4月の通関輸出は、前年比−39.1%と、前月(同−45.6%)や前々月(同−49.4%)に比して減少幅を縮小した。通関輸出を季節調整すると、08年1月をピークに09年2月のボトムまで−47.7%下落した後、4月までに+5.3%回復した。落ち込みに比べれば、まだ回復は小幅であるが、世界同時不況による最終需要の減退に、現地の在庫調整も加わって生じた急激な輸出減少が底を打ったことは間違いない。
 日本銀行が作成した季節調整済みの実質輸出は、2月のボトムに対し、4月は+7.9%回復したが、この間に実質輸入は+2.0%しか増加していないので、実質貿易収支(実質GDP統計の「純輸出」に対応)も好転している。4〜6月期から、成長に対する外需の寄与はプラスに転じるであろう。
 



【資本財を除く各財の生産・出荷が底打ち】
輸出の底打ちに伴い、鉱工業生産・出荷の回復と生産者在庫・在庫率の低下もはっきりしてきた(図表1)。
4月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+5.2%、+2.3%と2か月連続で増加し、5月と6月の生産予測指数は、それぞれ+8.8%、+2.7%とかなり大幅に上昇している。仮に実績が予測通りになると、4〜6月期の生産は前期比+9.8%と5四半期振りの大幅上昇となり、6月の前年比は−22.5%とボトムの2月(同−38.4%)に比してかなり下落幅が縮小する。
回復の中心は、2月まで大きく落ち込んできた電子部品・デバイス、乗用車、化学(除医薬品)、情報通信機械、鉄鋼など輸出の主力業種である。
また財別にみると、資本財だけがまだ減少しており、消費財(耐久・非耐久)、建設財、生産財はいずれも回復に転じた。

【遅行指標の雇用情勢は引き続き悪化】
 このような輸出と鉱工業生産の底打ちとは裏腹に、遅行指標である雇用情勢は依然として悪化を続けている。4月の「労調」の就業者と雇用者は前年比それぞれ−1.7%、−1.3%と前月(同−1.4%、−0.9%)に比して下落幅を拡大し、完全失業者は前年比71万人(+25.8%)増え、完全失業率は5.0%と遂に5%台に達した(図表2)。
 他方、4月の「毎勤」によると、総労働時間の前年比減少率は−2.7%と前月(−4.5%)や前々月(−5.4%)に比して縮小した。これは、生産・出荷の底打ちを反映して製造業の労働時間の減少率が−7.6%と前月(−10.9%)や前々月(−10.3%)に比してやや大きく縮小したことが響いている。これを反映して、4月の現金給与総額は前年比−2.5%と1〜3月期(−2.9%)に比して下落幅を縮小した(図表2)。
 また、4月の「家計調査」における可処分所得(勤労者家計)も、前年比+1.3%と1〜3月期の−2.1%の減少から増加に変わった(図表2)。

【家計消費には底打ちの気配】
 1〜3月期の家計消費は、雇用・賃金の悪化を反映して前期比名目−1.8%、実質−1.1%の減少となったが、4月に入りやや変化の兆しも見られる。4月の「家計調査」の消費支出(全世帯)は前年比−1.4%と1〜3月期(−3.3%)よりは減少幅が縮小した(図表2)。
 「販売統計」でも、4月の小売業販売額が前年比−2.9%と1〜3月期(−3.9%)よりは減少幅を縮小し、季節調整済み前月比では+0.6%の増加となった。また乗用車新車登録台数の4〜5月平均は、1〜3月平均比+2.4%となり、4〜6月期は5四半期振りの増加となる可能性が出てきた。
 このように、4〜6月期の消費には底打ちの気配があるが、実質ベースでは、全国消費者物価(1〜3月期は前年比−0.1%の下落)が当分微落を続ける可能性が高い(4月の前年比は−0.1%)ことも、消費の下支え要因である。

【設備投資と住宅投資の減少は続く】
 国内民間需要で引き続き弱いのは、設備投資と住宅投資である。
 足許の機械に対する設備投資の動向を反映する一般資本財出荷は、資本財以外の各財が増加し始めている中で、依然として落ち込んでいる。4月は前月比−14.7%と大きく落ち込み、前年同月比は−39.8%と下落幅を拡大した(図表2)。一般資本財出荷には輸出の動向も反映されているが、このところ輸出は緩やかに増加していることから判断すると、この落ち込みは足許の設備投資の弱さを反映しているものと思われる。
 先行指標の機会受注(民需、除船舶・電力)も、1〜3月期は前年同期比−29.4%と前期(−23.7%)よりも落ち込み幅を広げ、4〜6月期の見通しも同−38.7%と更に下落幅が拡大する予想となっている。輸出や鉱工業生産・出荷の底打ちは、いまのところ企業の投資マインドを立てなおす程の効果はないようだ。
 新設住宅着工戸数も、4月は前年比−32.4%と1〜3月期(−21.4%)よりも減少幅を拡大した(図表2)。GDPベースの実質住宅投資は、1〜3月期に前期比−5.4%となり、3四半期振りに減少に転じたが、4〜6月期以降も当分減少を続けると見られる。

【公共投資と企業在庫投資は増勢に転じる】
 このような民間投資動向に対して、公共投資は平成20年度第1次、第2次補正予算の執行と平成21年度予算の前倒し執行を反映して、4〜6月期から増勢に転じそうである。公共工事請負額の前年比は、3月+15.3%、4月+20.5%と急激に伸び始めている(図表2)。
 公共投資と並んで4〜6月期以降の内需拡大に寄与しそうな項目は、企業の在庫投資である。下表のように、法人企業統計によると、法人企業の在庫投資は製品・商品、仕掛品、原材料の各段階で1〜3月期に大きく減少したので、4〜6月期以降は減少幅の縮小、ないしは小幅増加に転じ、内需の拡大にプラスの寄与をすると思われる。



【4〜6月期に実質GDPは底を打ち、若干のプラス成長となる可能性が大】
 以上を総括すると、20年10〜12月期(前期比年率−14.4%)、21年1〜3月期(同−15.2%)と大きく落ち込んだ実質GDPは(図表3)、4〜6月期には底を打ち、若干のプラス成長に転じる可能性が高くなってきた。
 プラス成長に寄与する項目は、回復し始めた純輸出(外需)、政策効果がでてきた公共投資、調整が一巡した在庫投資である。中立的な動きは家計消費であろう。これに対してマイナスの成長要因は、設備投資と住宅投資である。
 プラスの成長要因の方がマイナスの成長要因よりも大きいと思われるので、4〜6月期は若干のプラス成長になる可能性が高いと思われる。