2009年3月版

輸出と鉱工業生産の下落幅は引き続き拡大しているが3〜5月頃からは在庫調整の一巡で縮小に転じる可能性

【前年比3割超の生産圧縮の結果、在庫調整完了の目途がつき、3月の鉱工業生産は増加の予測】
 厳しい景気後退が続いている。
 10〜12月期の実質GDP(図表3)は、前期比年率−12.7%と主要先進国中最大の落ち込みとなった。これで09暦年は−2.9%のゲタをはいたので、08暦年の−0.7%に続いて、09暦年もマイナス成長となり、2年連続のマイナス成長という戦後最悪の記録になる蓋然性が高い。
 鉱工業生産は、10〜12月期に前期比−12.0%(前年比−14.8%)の減少となったあと、1月も前月比−10.0%(前年比−30.8%)と予測(同−9.1%)をやや上回る落ち込みとなった。1月の出荷も、前月比−11.4%(前年比−30.6%)と生産同様の落ち込み幅である。図表1は、この急落振りの異常さを物語って余りある。
 生産、出荷下落の中心は、輸出主力製品の乗用車、電子部品・デバイス、一般機械などである。
 このような大規模な生産調整の結果、1月の生産者在庫は前月比−2.0%と5か月振りに減少した。生産予測指数によると、2月は前月比−8.3%(前年比−36.8%)と更に生産圧縮が図られる計画となっているが、このような異常な幅の生産調整の甲斐があったのか、3月は+2.8%(同−32.8%)と6か月振りの増産に転じる予測である。自動車産業のトヨタやホンダなどでは、間もなく在庫調整は完了し、3〜5月頃から増産に転じるとの企業情報も流れている。

【雇用情勢はジリジリと悪化】
 1月の総労働時間は、前年比−1.0%の減少にとどまったが、所定外(時間外)労働時間は同−15.2%と大きく減少し、所定外給与も同−14.1%の大幅下落となった。このため、給与総額(図表2の名目賃金)は10〜12月期の同−0.9%に続き、1月は同−1.3%と下落幅をやや拡大した。
 他方、雇用は「労調」の雇用者が前年比+0.1%(図表2)、「毎勤」の雇用者が同+1.0%と、前年比で見る限り減少していない。しかし「労調」の就業者は前年比−25万人(−0.5%)、完全失業者は同+21万人(+8.2%)となり、雇用情勢の悪化は明らかである。

【家計消費は節約可能なサービス支出を中心に減少】
 「家計調査」では、可処分所得(勤労者世帯)が前年比+0.6%の増加となったが、消費支出(全世帯)は10〜12月期の前年比−2.0%に続き、1月も同−5.9%と下落幅を大きく拡大した。
 他方、販売統計では、1月の小売業販売額が前年比−2.4%と前月(同−2.7%)よりも下落幅を縮小し、季調済み前月比では+0.6%と僅かに増加した。また、鉱工業出荷では、季調済み前月比で全体が−11.4%と大きく下落している中にあって、非耐久消費財の出荷だけは+1.1%の小幅増加となった。
 家計は景気の先行不安から消費支出を抑えているが、その内訳を見ると、大きく落ちているのは交通・通信(自動車関係費、通信費など)、光熱・水道(ガス代、上下水道代など)、食費(外食、調理食品など)など節約可能なサービス支出で、逆に増えているのは教養娯楽(教養娯楽用耐久財、教養娯楽用品)、家具・家事用品(家庭用耐久財)の2項目で、いずれも商品の購入である。

【設備投資は引き続き減少】
 設備投資は冷え込んでいる。10〜12月期の実質GDP統計では、設備投資は前期比−5.3%と4四半期連続で低下している(図表3)。
 足許の機械への設備投資と輸出の動向を示す1月の一般資本財出荷も、前月比−10.9%、前年比−30.3%(図表2)と大きく落ち込んでいる。
 6〜9か月の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)も、季調済み前月比で10月−4.4%、11月−16.2%、12月−1.7%と3か月連続して減少し、12月の前年比は−26.8%の大幅な落ち込みとなっている(図表2)。本年1〜3月の見通しは、大きく水準が下がったあとだけに、前期比+4.1%、前年比−22.5%と底を打つ形になっている。
 なお、建築物着工(民間のうち非住居用)は、昨年11月に前年比−22.4%まで落ちたあと、12月は同−17.7%、1月は同−3.5%と下落幅を縮小している。

【輸出の落ち込み幅は更に拡大】
 最後に輸出動向を見ると、鉱工業生産・出荷の急落から分かるように、12月の前年比−35.0%に続き、1月も同−45.7%と下落幅を更に拡大した。
 地域別に見ても、対米国、対EUだけではなく、対アジアも、米国・EUへの輸出依存度の高いアジアNIEs向けと、対米輸出の中継基地的性格を持つ中国向けが、同じような下落幅となっている。
 反面、比較的落ち込み幅が小さいのは、対ASEAN、対インド、および対中東である(下表参照)。



 現地の最終需要が、このように4〜5割も落ちている筈はないので、この落ち込みは現地の過剰在庫の調整によるものである。多くの日本の輸出企業が、昨年の初め頃まで、海外生産拠点での生産では間に合わず、日本から大量に輸出していたため、世界同時不況の急激な進行に伴い、現地在庫を大きく膨らましてしまったと見られる。
 この現地過剰在庫の圧縮が、輸出と国内生産の大幅な落ち込みを招いているのである。

【現地の過剰在庫調整がいつ終わるかが景気見通しのポイント】
 この在庫調整がいつ頃終わり、日本からの輸出と日本の国内生産の増加率が、現地、とくにマイナス成長に陥っていないASEAN、中国、インド、中東の最終需要並みの増加率に戻るかが、先行き見通しの需要なポイントである。
 鉱工業生産の予測指数が3月にプラスになっていることなどから判断すると、ターニング・ポイントは3〜5月頃ではないか。
 そして、7〜9月期から、日本経済はプラス成長に戻る可能性がある。