2009年1月版

輸出の急落に伴い鉱工業生産と出荷は急減、問題は今後の経済全体への波及

【鉱工業生産と出荷が急落】
 先進各国の金融安定化対策によって、世界の株価は下げ止まり、大手金融機関の新たな破綻も聞かれなくなったが、金融危機の実体経済に対する影響がいよいよ本格的に現れてきた。
 日本では、11月の鉱工業生産と出荷が前月比それぞれ−8.1%、−8.4%の急落となり(図表1)、前年同月比もそれぞれ−10.1%、−9.7%と1割程の下落となった。
 更に生産予測指数によると、12月も前月比−8.0%の急落が続き、本年1月も同−2.1%と下げ止まらない見込みである(図表1)。もし実績が予測指数通りの急落を続けると、10〜12月期は前期比−11.2%と最近では例を見ない大幅な下落となり、また1月の前年比は−21.9%と2割の水準低下となる。
 激しく生産が落ち込んでいる業種は、電子部品・デバイス(11月の前年比−23.1%)、乗用車を中心とする輸送機械(同−24.9%)、一般機械(同−20.8%)、鉄鋼(同−13.1%)など、日本の輸出の大宗を占める製品の製造部門である。

【生産急落にも拘らず一般機械、電子部品・デバイスの在庫率は高水準】
 このような大幅な生産調整にも拘らず、鉱工業生産者在庫率は、11月に前月比+12.4%、前年同月比+25.1%の大幅上昇となっている(図表1)。生産者在庫率が極めて高い業種は、電子部品・デバイス(前年同月比+100.7%)と一般機械(同+36.2%)である。他方、生産調整の結果在庫率が比較的低く抑えられている業種は、輸送機械(同−0.2%)、鉄鋼(同+16.6%)などである。
 12月と1月の生産予測指数の大幅続落を主導するのは、在庫率の極めて高い電子部品・デバイスと一般機械であり、輸送機械も出荷の更なる落ち込みが見込まれるためか生産水準はまだ下がる見込みとなっている。

【北米、西欧向けの輸出は前年比3割の急減】
 輸出の主力製品を中心とする鉱工業生産の急落は、いうまでもなく、金融危機を引き金とする世界同時不況の波が、輸出を通じていよいよ日本に波及してきたためである。
 通関実績の速報によると、11月の輸出は前年比−26.7%の大幅下落となり、下落幅は前月(同−7.8%)に比べて一段と拡大した。
 11月の落ち込みを輸出先別に見ると、最も大幅な落ち込みを示しているのは、金融危機と景気後退の震源地である米国(同−33.8%)と西欧(同−30.6%)であり、また米欧に対する依存度の高いアジアNIEs(同−32.8%)である。
 次いで対米輸出中継基地の性格を持った中国も、同−24.5%の落ち込みとなっている。
 これに対して、落ち込み幅が比較的小さい地域は、中東(同−0.4%)、ASEAN(同−16.0%)、中東欧・ロシア等(同−16.9%)、中南米(同−17.9%)である。
 米国発の金融危機による世界同時不況は、国により地域により、濃淡の差はあるものの、今のところかなり広範に広がっている。

【輸出急減がとくに目立つのは一般機械、電気電子機器、乗用車】
 次に、11月の輸出の落ち込みを商品別にみると、鉱工業生産、出荷の急落を招いている一般機械(同−23.3%)、電気・電子機器(同−29.7%)、乗用車(同−34.5%)の落ち込みがやはり目立つ。
 その中にあって、前年比で増えているのは、鉄鋼(同+3.7%)、船舶(同+3.1%)、鉱物性燃料<石油製品>(同+8.4%)の3品目である。
 これらの地域別、商品別の輸出動向が、今後いつまで続くのか、どう変化して行くのかが景気後退の深度を左右する要因として注目される。

【設備投資関連は冷え込んでいるが、非耐久消費財の出荷はほぼ横這い】
 輸出と並んで、鉱工業部門の急激な落ち込みを招いているのは、企業マインドの冷え込みによる設備投資の慎重化である。
 11月の一般資本財出荷は、輸出と設備投資の双方の後退を反映して、前月比−10.0%、前年同月比−21.4%の大幅下落となった(図表2)。
 機械に対する設備投資に6〜9か月先行する機械受注(民需、除船舶・電力)は、見通しによれば10〜12月に前期比+1.2%の増加とほぼ横這いとなっているが、実績は10月に前月比−4.4%、前年同月比−15.5%の減少となった(図表2)。これは7〜9月平均比−6.1%の減少であり、10〜12月期の実績が見通し通り(7〜9月平均比+1.2%)ほぼ横這いとなるかどうかが危ぶまれる。
 輸出と設備投資関連が不振を極める中にあって、11月の非耐久消費財の生産と出荷は、前月比それぞれ−2.6%、−0.3%とほぼ横這い圏内の小幅減少にとどまり、前年同月比もそれぞれ−1.5%、−3.4%と僅かな低下にとどまっている。非耐久消費財部門に対する景気後退の影響は、今のところ小さいようである。

【製造業の失業は増えているものの家計の所得・消費の悪化は緩やか】
 11月の労働市場にも、これらの部門別の違いがはっきり現れている。労働力調査によれば、11月の雇用者数は前年比−0.2%の減少となったが(図表2)、前年に比べて減っているのは製造業、建設業などで、サービス業、卸小売業、医療・福祉などは増えている。
 しかし全体として、11月の完全失業者が前月比+7.8%、前年同月比+4.1%の増加となったため、失業率は前月比0.2%ポイント上昇して3.9%となった(図表2)。
 11月の現金給与総額は、前年比−1.9%の減少となったが(図表2)、これは主として所定外給与(時間外手当)が製造業の前年比−16.8%減を中心に全体で同−6.8%の落ち込みを見たためである。
 他方、家計統計によると、11月の勤労者家計の可処分所得は、前年比+0.3%の微増となった(図表2)。また、11月の全世帯消費支出は、前月比+0.7%の増加となった(図表2)。もっとも、11月の全国消費者物価(除く生鮮食品)は、なお前年比+1.0%の上昇となっているので、実質ベースでは家計統計の所得と消費は、いずれも前年比マイナスである。

【家計部門や非製造業の支えがあるため鉱工業の悪化が示す程の急激な景気後退ではない】
 消費動向やその背景を示す所得、賃金、雇用の動向は、労働力調査(総務省)、家計調査(同)、毎月勤労統計調査(厚生労働省)などによって区々な動きをしているが、総じて見れば景気後退の影響は失業者の増加などに見られるものの、鉱工業部門の生産、出荷のような急激な悪化は見られない。
 10〜12月期の実質GDPは、輸出の急減と設備投資の減少によって、7〜9月期(図表3)に続いてマイナス成長になったと見られるが、鉱工業生産・出荷の急落や、輸出部門の失業増加が示す程の大幅なマイナス成長にはなっていないと思われる。家計部門や非製造業の悪化が緩やかだからである。
 しかし、経済全体の悪化が止まる要因は今のところまったく見当たらず、景気後退は長引くと思われる。後退が止まってくるとすれば、消費者物価の上昇幅縮小が実質ベースの所得・消費を押し上げることと、輸入数量の減少で実質ベースの「純輸出」が成長の足を引っ張らなくなることであろう。これらの動きが、1〜3月期、4〜6月期にどう出てくるかが注目される。