2008年9月版

目先内需は引き続き弱いが、輸出がやや立ち直り、消費者物価上昇率にもピーク・アウトの気配

【輸出の立ち直りで7〜9月期はマイナス成長を免れるか】
 日本経済は、4〜6月期に家計消費、設備投資、輸出など主な内外需要項目が揃って減少し、マイナス成長を記録した。他方、消費者物価の前年比上昇率は一段と高まり、日本経済全体としてスタグフレーションの様相を呈していた。
 しかし、最新の計数である7月(一部8月)の景気指標から判断すると、7〜9月期には連続してマイナス成長とはならず、消費者物価の前年比上昇率もピークを打つ蓋然性が高まっているように見える。
 内需は依然として弱いが、輸出に立ち直りの気配が見られるうえ、全国消費者物価に1か月先行する東京23区の消費者物価が、前年比で、8月は7月よりやや上昇率が下がったからである。

【鉱工業生産は引き続き弱含み横這い】
 主な景気指標を見て行くと、まず7月の鉱工業生産は、予測指数の前月比−0.2%の減少とは逆に、同+0.9%の増加となり、出荷も同+1.6%の増加となった。普通乗用車、普通トラック、駆動伝導・操縦装置部品など輸出が立ち直った自動車関連の生産、出荷の増加に負うところが大きい。
 先行き8月の生産予測指数は前月比−2.9%の減少、9月は同+3.4%の増加と一高一低を繰り返す形となっているが、図表1に明らかなように、総じて見れば弱含み横這い圏内の動きである。8、9月の実績が予測通りであったと仮定した場合の7〜9月期の平均も前期比−0.5%と、3四半期連続の小幅減少となる。

【全国消費者物価の謄勢が強まり賃金・所得は実質ベースで減少】
 製造業の生産が弱含みとなっているため、雇用者数(全産業)は医療・福祉とサービス業で伸びているものの、全体としては4〜6月期に前年比横這いのあと、7月は同−0.2%の減少となった(図表2)。
 名目賃金の前年比は、4〜6月期に+0.2%の微増となったあと、7月も+0.3%の増加となった(図表2)。しかし、7月の全国消費者物価は、総合で前年比+2.3%、コア(除く生鮮食品)で+2.4%と6月(同+2.0%、+1.9%)を更に上回る上昇率となっているので、実質ベースの賃金は前年比で2%のマイナスである。
 また7月の可処分所得(勤労者世帯)は、名目でも前年比−1.2%の減少となっているため(図表2)、実質では−4%に近い減少幅となる。

【東京23区の消費者物価上昇率にピーク・アウトの気配】
 7月の家計消費は、猛暑の到来が早かったため、飲料品など夏物の出足が早まり、小売業の販売額は前年比+1.9%と比較的大幅な伸びとなった。家計調査を見ても、7月の名目消費支出(全世帯)は前年比+2.3%と4〜6月期(同−1.0%)とは様変わりの伸びとなった(図表2)。
 しかし、この名目消費の伸びも、消費者物価の上昇で調整した実質ベースでは、若干のマイナスとなる。その上、7月に出足の早まった夏物商品の反動で、8月は伸びが落ちる可能性がある。従って、7〜9月期全体の実質GDP統計における家計消費は、4〜6月期に引き続いて減少する蓋然性が高い。
 実質購買力を喰う大幅な消費者物価上昇は、いつ迄続くのであろうか。国際商品市況を見ると、原油、穀物、鉱石などの市況は世界的な成長減速を反映して本年上期中に相次いでピークを打ち、投機資金の手仕舞いもあって下落している。
 このため、日本国内のガソリン価格も下がり始め、8月の東京都23区の消費者物価前年比は、総合で+1.3%、コアで+1.5%と、いずれも7月の前年比上昇率(両方共に+1.6%)を僅かに下回った。食料品、乗用車などの値上げはまだ続くであろうが、全体としての上昇率は7〜9月期をピークに徐々に低下し、家計の実質購買力が回復して来る可能性が見えてきた。

【設備投資と住宅投資は横這い圏内の動き】
 足許の設備投資と一部の輸出動向を反映する一般資本財出荷は、7月に前月比−3.0%、前年同月比−11.4%と大きく減少した(図表2)。輸出が順調な自動車の動きが含まれていない一般資本財出荷の弱さは、国内の設備投資の弱さを反映しているのかも知れない。
 もっとも、先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+0.6%、前年同期比+5.3%と事前の見通し(夫々−10.3%、−6.6%)を大きく上回って伸びているので(図表2)、年度下期にかけて設備投資が減少していく事態は考えにくい。
 なお、7月の新設住宅着工戸数は、前年同月比+19.0%の大幅上昇となり、季節調整済み着工戸数は4〜6月平均を2.3%上回った。実質GDPベースの住宅投資は4〜6月期に減少したが、今後も減少傾向を辿るとは必ずしも見られない。

【輸出は自動車を中心にEU、中近東、アジアへ伸びる】
 最後に外需を見ると、4〜6月期の純輸出は8四半期振りに増加が止まったが(図表3)、7月には再び増え始めている。
 7月の貿易収支は、国際商品市況の高騰を反映した輸入金額の膨張が続き、4月以降の減少傾向を続けているが、日本銀行が試算した実質ベースで見ると、輸出は前月比+1.2%と輸入の同+0.7%を上回る伸びを示し、実質貿易収支(実質GDP統計の「純輸出」に対応)は前月比+15.0%の増加となった(図表2)。
 前述したように、自動車の伸びが輸出の立ち直りを支えており、地域別にはEU、中国、韓国、中近東などへの伸びが高い。北米市場向けも燃費のよい小型車が伸びている。中南米向けは不振である。

【純輸出の立ち直りが再び成長を支える構図へ】
 以上の7月の動向から判断すると、日本経済は輸出の伸びに支えられて、4〜6月期のマイナス成長から何とか脱しそうである。
 設備投資は横這い圏内の動きにとどまり、成長を支える力には欠ける。
 家計の実質購買力が消費者物価の上昇に喰われているため、家計消費は目先弱含みで推移すると見られる。しかし、消費者物価の上昇率が下がり始める秋口以降には立ち直りもあり得るので、今後の推移が注目される。
 福田内閣の突然の辞任は、次の内閣が、総選挙目当てでどのような政策を打ち出すかによって、経済動向にも影響があるかも知れない。取敢えずは、先行き不透明な要因が一つ増えたという意味で、マイナスである。