2008年6月版

設備投資の弱踏みに加え、家計消費と純輸出にも下振れのリスク

【1〜3月期の法人企業は製造業、非製造業とも減収減益】
 景気の息切れを示す指標が増えてきた。
 本日(6月4日)発表された「法人企業統計調査」によると、全産業ベースで、1〜3月期の売上高は季節調整済み前期比−2.2%の減少、経常利益は同−9.2%の減少となった。とくに製造業の経常利益は、同−11.2%の大幅減少である。資源・エネルギー価格の大幅上昇で収益を圧迫されている鉄鋼、化学、金属製品など素材業種の減益幅が大きい。


【鉱工業生産は3月急落のあと4月も低下】
 4月に入ってからも、弱い指標が目立っている。
 4月の鉱工業生産は前月比−0.3%と2か月連続で低下し、その水準は昨年10〜12月期の平均を−2.7%下回って、昨年上期頃の水準と並んでいる(図表1参照)。
 生産予測指数によると、5月は前月比+4.7%と急回復し、6月は同−0.9%の微減となっている。実績がこの予測通りになれば、4〜6月期は前期比+0.7%となるが、実績が予測を下回る最近の傾向から考えると、1〜3月期に続き、4〜6月期も2四半期連続の低下となる可能性もある。
 下落を主導している業種は、輸送機械、情報通信機械、電気機械、電子部品・デバイス、一般機械などの輸出主力業種と設備投資関連である。予測指数の4月急回復と5月微減の主役も、輸送機械、情報通信機械、電気機械、一般機械などである。これらの業種の4月の在庫率は、輸送機械を除いてまだ高目なので、5月から予測指数通りには回復しないリスクが高いのではないか。

【雇用情勢は製造業を中心に徐々に悪化】
 雇用情勢も、製造業を中心に、やや悪化している。4月の総実労働時間は、前年比0.0%と前年水準並みとなったが、このうち製造業は同−4.1%の減少(季調済み前月比では−3.7%の減少)となっている。4月の雇用者数も前月比−0.1%と3か月連続して前年水準を僅かに下回った(図表2参照)。
 この結果、4月の完全失業率は4.0%と2%ポイント上昇し、昨年1〜3月期の水準に戻った(図表2参照)。また、昨年12月に1倍を割り込んだ有効求人倍率は、4月に0.93倍まで低下した。昨年6月の1.07倍から10か月連続の低下である。

【消費者物価の上昇で家計の所得、消費は実質ベースで弱含み】
 このような雇用情勢に加え、このところ食料品やガソリンを中心とする消費者物価の上昇が家計を直撃している。4月の全国消費者物価は前年比+0.8%の上昇、5月の東京消費者物価は同+0.9%の上昇と、昨年10月以来、毎月前年を上回って上昇している。


 4月の現金給与総額(名目賃金、図表2参照)は、前年比+0.6%の増加となり、可処分所得(勤労者世帯、名目、同)は同−4.5%の減少となった。また消費支出(全世帯、同)は、同−1.7%の減少となった。
 しかし、これを消費者物価の上昇で調整して実質の賃金、所得、消費を見ると、下表の通り、プラスの賃金はマイナスとなり、前年比減少の家計所得と家計消費の減少幅は更に拡大する。これ迄景気を下支えてきた家計消費が、今後は弱含みに転じる可能性が出てきた。



【住宅投資は頭打ちの気配】
 このような家計動向を背景に、住宅投資の回復にも足踏み状態が見られる。
 GDPベースの実質住宅投資は、建築基準法改正に伴う大幅な落ち込みが一巡し、1〜3月期には前期比+4.6%と5四半期振りの上昇に転じた。
 しかし、先行指標である新設住宅着工戸数の前年比は、4月も−8.7%と、回復は足踏みしている(図表2参照)。また季節調整済みの着工戸数(年率)で見ても、4月は115.1万戸と1〜3月平均(114.7万戸)に比してほぼ横這いである。
 回復がとくに遅いのは分譲住宅である。家計の住宅購入意欲もやや衰えを見せ始めているのかも知れない。

【設備投資は年初来の弱含み傾向が改まっていない】
 企業の設備投資は、1〜3月期の実質GDP統計で、前期比−0.9%と3四半期振りの減少となり、前年同期比では−2.4%と実に22四半期振り(02年7〜9月期以来)のマイナスとなった。
 足許の設備投資と一部輸出の動向を反映している一般資本財出荷は、4月に前年比−4.8%と減少幅を拡大した(図表2参照)。季節調整済み指数で見ると、4月は1〜3月比−2.3%の減少である。
 設備投資は1〜3月期に続き、弱含みで推移している可能性が高い。
 なお、公共投資は実質GDP統計では10〜12月期(前期比+0.6%)、1〜3月期(同+1.5%)と2四半期続けて微増したが(図表3参照)、公共工事請負額の前年比が、1〜3月期−5.2%、4月−4.7%と引き続き前年をかなり下回っていること(図表2参照)から判断して、4〜6月期以降にかけて、再び減少傾向が表面化してくると思われる。

【成長を支えてきた純輸出に4月以降変化が出るか】
 1〜3月期のGDP統計によると、実質輸出は前期比+4.5%の増加となったのに対し、実質輸入は同+2.0%の増加にとどまったため、純輸出は好転して+0.5%の大幅な成長寄与度を示した。これは成長率+0.8%に対して、62.5%の成長寄与率である。
 しかし、4月にはこの傾向が逆転したようである。通関統計によると、輸出は前月比−3.2%の減少となったのに対し、輸入は同−2.0%の減少にとどまった。これを実質ベースに換算すると(日銀統計)、輸出入とも前月比−5.4%の減少となり、実質貿易収支は前月比−5.4%の悪化となる(図表2参照)。
 1か月の動向だけで判断するのは早計であるが、成長を支えてきた純輸出の4〜6月期以降の下振れリスクには、十分な注意を払う必要があろう。

【4〜6月期の成長減速の蓋然性が高まってきた】
 以上を総括すると、まだ4月の指標までしか得られないので速断は出来ないが、07年10〜12月期、08年1〜3月期と比較的高目の成長を続けてきた日本経済は(図表3参照)、4〜6月期に大きく減速(場合によってはマイナス成長)する蓋然性が高くなってきた。
 設備投資の弱含みが続き、加えて1〜3月期の成長にプラスの寄与をした家計消費、純輸出、住宅投資、公共投資がマイナス、ないしは小幅増加にとどまる可能性が出てきたからである。
 このような実体経済の動きは、このところ底値を固めているかに見える株価の動向とは、やや違和感がある。しかし株価が6か月程度の先行指標であると見れば、整合性があるとの見方が出来るのかも知れない。いずれにせよ、日本経済の実態と、米国経済の情報に一喜一憂する株価の動向との乖離には、しばらくの間注意を払う必要があろう。