2008年3月版

1〜3月期の鉱工業生産の減少は輸出ではなく設備投資の弱さに起因する可能性

【先行き不安から株価は低迷、輸出にはまだネガティブ・インパクトはない】
  株価は低迷を続けている。日本の経済成長が過度に輸出に依存しているため、サブプライム・ローン問題に伴う米国の成長減速とドル安によって、日本の企業業績が大きく悪化するという予想が強いからである。
  しかし、1月の景気指標から判断する限り、実体経済には決定的なネガティブ・インパクトはまだ認められない。家計消費と輸出は増加しているし、急落した住宅投資にも反動的回復の動きが出てきた。ただ、設備投資には弱い動きがある。これが米国の成長減速やドル安の影響かどうかは、まだ断定できない。
  他方、鉱工業生産は、1月に続いて2月も減少する予測が出ており、1〜3月期は前期比マイナスになりそうである。しかし在庫が増えている訳ではないので、3月の予測指数の増加が示唆しているように、短期的調整の可能性もあるが、後述する設備投資の弱さの反映であるとすれば、長引くことも考えられる。

【1〜3月期の生産、出荷は4四半期振りに減少】
  具体的に見て行くと、1月の鉱工業生産は前月比−2.0%と予測指数(同−0.4%)を上回る下落となった。2月の予測指数も同−2.9%の大幅低下となっている(図表1参照)。1〜2月の大幅下落は、主として電子部品・デバイスと一般機械の減産によるものである。
  しかし、これらの業種の在庫は増えておらず、3月の予測指数は電子部品・デバイスと鉄鋼の増産で前月比+2.8%の大幅回復が見込まれている。恐らく、1〜2月の減産は電子部品・デバイスなどの短期的な調整ではないかと見られるが、一般機械の減産が設備投資の弱さによるものであるとすれば、基調的な動きとして注目される。
  実績が予測通りとなれば、1〜3月期は前期比−2.5%と4四半期振りの減産となる。図表1に明らかなように、昨年6月以降一段高となった生産と出荷が、1〜3月期に調整局面を迎えたことは間違いない。

【1月の家計消費は堅調】
  1月の雇用者数は、前年比+0.5%と増加を続けているが、その増加幅はやや縮小した(図表2参照)。これは雇用者全体の約2割を占める製造業の雇用者が、前年比−2.4%の減少となったことが響いている。もっとも、1月の完全失業率は3.8%と前月比横這いを保った(図表2参照)。
  このような雇用動向に加え、1月の名目賃金は、前年比+1.0%と久し振りの大幅増加となったため、家計統計の可処分所得(勤労者家計)は前年比−1.0%と前月(−2.7%)に比して減少幅が縮小した(以上図表2参照)。
  1月の個人消費は、家計統計と販売統計のいずれも好調であった。家計統計では、消費支出(全世帯)が前年比+4.5%と前月(同+3.1%)を更に上回る大幅な伸びとなった(図表2参照)。また販売統計では、1月の小売販売額が、前年比+1.5%、季調済み前月比+3.8%と大幅な伸びを示した。
  自動車、薄型テレビ、携帯電話代、国内パック旅行が消費を牽引しているが、値上げが相次ぐ食料品は落ち、衣料品は春物が寒さの到来で出遅れ、横這いにとどまった。

【住宅投資は1〜3月期から反動的増加へ】
  住宅投資は、建築基準法改正の影響で7〜9月期に前期比−8.3%、10〜12月期に同−9.1%とGDP統計で大きく落ち込んでいたが、1〜3月期から反動的増加に転じそうである。
  住宅着工戸数は、10〜12月期に季調済み年率95万戸(前期比+18.1%増)と底を打ったあと、1月は同119万戸(同+13.3%)とほぼ平常ベースに近付いた。このため、GDP統計でも、住宅投資は1〜3月期からプラスに転じ、以後反動的増加によって、しばらくは成長に一定の寄与をすると見込まれる。

【10〜12月の設備投資は下方修正の見込み】
  設備投資は、10〜12月期のGDP統計で前期比+2.9%(成長への寄与度+0.5%)と大きく伸び、同期の年率3.7%成長に対し56%の寄与率となった。
  しかし、本日(3月5日)発表された「法人企業統計」によると、10〜12月期の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比−2.7%の減少となっている。このため、近く発表される10〜12月期のGDPの2次速報では、設備投資が大きく下方修正され、つれて3.7%の成長率も下方修正されると見られる。その大きさによっては、07暦年の成長率+2.1%が2%を割るかも知れない。
  1月の設備投資動向も、一般資本財出荷の前年比が−1.6%の減少に転じたこと(図表2参照)から見て、確りした動きとは見られない。



【1〜3月期は緩やかなプラス成長か】
 最後に外需の動向を見ると、1月の貿易収支はマイナス794億円と久し振りの赤字となったが、これは輸入金額が資源・エネルギー価格の大幅上昇で膨張したためである。
  日本銀行が推計している実質ベースの動向を見ると、1月は実質輸出が前月比+4.6%の増加となった反面、実質輸入は同+0.6%の増加にとどまり、実質貿易収支の黒字は前月比+12.2%の増加、10〜12月平均比+13.1%の増加と、引き続き拡大して成長と牽引している(図表2参照)。
  以上のように、米国の成長減速とドル安のネガティブ・インパクトは、株価に大きく響いているものの、1月までの輸出にはまだ響いていない。
  しかし、ここへ来て設備投資の足取りがやや弱くなっている。鉱工業生産の下落は、これを反映している可能性もある。個人消費が底固く、住宅投資も回復に向かうので、国内需要全体が落ち込むことはないと見られ、雇用の緩やかな回復も当面は続くと見られる。
  加えて、純輸出がまだ堅調なので、全体として1〜3月期に大きく経済が停滞する気配はない。ただ、10〜12月期の年率+3.7%の高成長が2次速報で大きく下方修正されると、心理的には弱気に振れるかも知れない(図表3参照)。