2008年1月版

マーケットは波乱の幕開け、実体経済は先行き不透明感を強めつつも引き続き緩やかな回復

【原油高、ドル安・円高、同時株安と波乱の幕開け】
  2008年の日本経済は、波乱の幕開けとなった。1月2日のニューヨーク市場で、原油、金、穀物などの商品先物相場が急騰し、株価とドル相場が急落したため、1月4日の東京株式市場の大発会では、日経平均株価の終値が14,691円と昨年末の大納会の終値に比べて616円安の大暴落となり、為替市場では、円が年末の終値よりも4円以上高い108円台へ急騰した。
  ニューヨーク市場の波乱は、ナイジェリアなどの政情不安に伴って商品需給の逼迫感が高まり、株式市場など金融市場から国際商品市場へ、資金が急激にシフトしたためと見られている。
  続いて1月4日に発表された昨年12月の米国雇用統計(季節調整済み)では、非農業部門の雇用者数が、雇用回復の目安とされる10〜15万人増を大幅に下回る1.8万人増にとどまり、4年4か月振りの低い伸びとなった。これに伴い失業率は前月比+0.3%ポイントと大きく上昇し、5.0%となった。2年1か月振りの高水準である。

【米国の年末商戦は尻すぼみ】
  また、11月に前月比+1.1%増と出足の良かった年末商戦の個人消費支出は、12月に入って百貨店やディスカウント・ショップなどで客足が鈍り、尻つぼみになったと伝えられる。
  住宅価格の下落に伴うサブプライム・ローンの焦げ付き問題が発生して以来、住宅投資のみならず、個人消費も不動産価格下落の逆資産効果から伸びが鈍り、少なくとも本年中頃迄は米国景気が減速することは、かねて想定されていた。
  しかし、想定内の出来事とは言え、現実に起こって来ると、米国の消費者心理や日本の企業家心理に改めて悪影響を与えているようである。それが日米同時株安と円高・ドル安を引き起こしている。

【鉱工業生産、出荷は一高一低のうちに緩やかな増加傾向】
  株式市場や為替市場が波乱の幕開けとなった日本では、不透明感の強まりから景気の先行き感が悪化していると思われるが、目先発表されている昨年11月を中心とした景気指標には、格別の変化は認められない。
  鉱工業生産と出荷は、昨年8月に一段高となったあと、月毎に一高一低を繰り返しており、10月の増加(前月比で生産+1.7%、出荷+2.4%)のあと、11月は生産が同−1.6%、出荷が同−1.7%と減少した。しかし、図表1に明らかなように、8月以来の一段高の水準は保っている。
  生産予測指数では12月に同+4.0%、1月に同0.0%と見込まれており、仮に実績が予測通りになるとすれば、10〜12月期は前期比+2.1%となる。実際には、実績が予測を下回るとしても、緩やかな上昇傾向は続いていると見てよい。
  生産・出荷の一高一低と緩やかな増勢は、主として乗用車、一般機械、電子部品・デバイスなどの輸出と設備投資に関連した業種の動きによるものである。

【雇用の伸びはサービス業を中心に高まり失業率は低下】
  需要動向を見ると、11月の個人消費は販売統計では好調、家計統計では頭打ちとなった。小売業販売額の前年比は、百貨店、スーパーを中心に、11月は+1.6%と前3か月(それぞれ+0.5%、+0.5%、+0.8%)より伸び率を高めた。寒気の到来から、冬物家電の動きが良かったようだ。
  家計統計を見ると、11月の可処分所得(勤労者家計)は前年比−1.9%減と3か月振りに前年水準を下回り、消費支出(全世帯)も同0.0%と頭打ちとなった(図表2参照)。
  労働統計を見ると、11月の名目賃金(全産業)は前年比−0.2%と再び前年水準を下回った。しかし、11月の雇用は、常用雇用が前年比+2.2%増、雇用者全体が同+1.2%増といずれも前年比増加率を高めた。このため完全失業率は2か月続いた4.0%から、再び3.8%へ低下した(以上図表2参照)。
  業種別に見ると、サービス業、飲食店・宿泊業の雇用の伸びが高い。

【尾を引く建築基準法改正の悪影響】
  建築基準法の改正に伴う業者と行政双方の混乱から、住宅着工戸数と建築物着工数(民間、非居住用)が落ち込み、7〜9月期以降の住宅投資と建築投資に遅れが生じ、成長減速の一因となっているが、ようやく最悪の時期は過ぎつつあるようである。
  11月の新設住宅着工戸数の前年比は、−27.0%減と減少幅を縮めており(図表2参照)、前月比では+14.1%と前月(同+18.1%)に続いて徐々に回復している。
  他方、11月の建築物着工額(民間、非住居用)も、前年比−7.6%と前月(同−38.6%)や前々月(同−54.2%)に比して減少幅を大幅に縮め、前月比では+60.5%と前月(同+28.9%)よりも更に急速に回復している。
  10〜12月期のGDP統計の住宅投資と設備投資には、まだ混乱の悪影響が残ると思われるが、本年1〜3月期以降は、逆に反動増となる可能性もある。

【設備投資の動きは「短観」の計画ほど強くはない】
  設備投資は昨年1〜3月期と4〜6月期に減少し、7〜9月期に3四半期振りに増加するなど、やや頭打ちの気配がある(図表3参照)。
  しかし、12月調査「日銀短観」の設備投資計画(全規模全産業)では、中小企業の計画が年度下期に前年を下回るものの、大企業と中堅企業の計画は、むしろ下期の方が上期より前年比増加率が高まり、各規模合計としても下期に増加率が高まる形となっている。
  上期の設備投資の遅れが下期にずれ込んでいる可能性もあり、機械受注(民需、除く船舶・電力)を見ても、昨年7〜9月期から一貫して前年を下回っていた受注額が、昨年の10月(前年比+3.3%)と10〜12月期見通し(同+2.5%)では、前年を上回る形となっている(図表2参照)。
  10〜12月期全体の設備動向はまだ予断を許さないが、一般資本財出荷は10月に前年を上回ったあと、11月には再び前年を下回った(図表2参照)。

【10〜12月期は小幅のプラス成長か】
  以上のように、国内需要は、消費も投資も横這い圏内の動きで、はっきり増加しているとは言えないが、外需(GDPの純輸出)は7〜9月期(図表3参照)に続いて、10〜12月期も増加しそうである。
  日本銀行の推計によれば、10〜11月の実質輸出平均は、7〜9月期平均に比して+1.2%増、同時期の実質輸入は同−0.9%減となっており、差し引き実質貿易収支は+5.6%の好転となっている。
  以上を総合して判断すると、10〜12月期の実質成長率は、12月の計数によってまだ振れる可能性はあるものの、外需に支えられた小幅のプラス成長にとどまる公算が高い。