2007年11月版

世界経済の根強い拡大基調を背景に日本経済は底固い動き

【国際金融面の動揺をよそに国内の鉱工業生産は確りした上昇傾向】
  サブプライム・ローン問題に端を発する金融システムと株式市場の国際的動揺は、3か月たった現在、まだ続いているが、その世界経済拡大に対する影響は、今のところ表面化していない。日本経済も、4〜6月期に小幅のマイナス成長となったあと、7〜9月期には再び潜在成長率(2%弱)をやや上回るテンポで拡大したと見られる。
  最新の景気指標を見て行くと、まず9月の鉱工業生産の前月比は、前月に+3.3%の大幅上昇となった反動で、−1.4%の下落となったが、7〜9月期の平均では前期比+2.2%の増加となった。前期(+0.2%増)や前々期(−1.3%減)に比べ、上昇の勢いが強まっている。
  生産予測指数の前月比も、10月は+3.8%の大幅上昇、11月は−0.7%の小幅反動減となっており、10〜11月平均の7〜9月平均比は+3.6%と大きく上昇する形である。
  実績はこの予測程大きく増えないとしても、7〜9月期以降年末に向かって、鉱工業生産と出荷の上昇テンポが強まってきたことは、図表1から見てもはっきりと確認出来る。

【IT部品の調整完了、輸出好調、設備投資堅調が支え】
  このような鉱工業生産、出荷の立ち直りの一因は、電子部品・デバイスの在庫調整が一巡したことである。電子部品・デバイスの生産は、6〜9月の4か月間に、+12.9%も増加したが、出荷は同じ期間に+16.8%と生産を更に上回る伸びとなった。このため、5月時点で前年を+19.2%上回っていた在庫率は、9月には前年とほぼ同水準(−0.4%)に下がった。10月以降も、電子部品・デバイスの増産が、鉱工業生産上昇を支える一因となろう。
  また、輸出と設備投資の堅調を反映して、一般機械、精密機械、乗用車などの生産、出荷が順調に拡大しており、これも確りした生産の上昇傾向を支えている。

【設備投資の増加率は前年度並みの計画】
  国内需要を見ると、まず足許の設備投資動向を示す一般資本財出荷は、7〜9月期に前期比+2.3%の増加となった。「法人企業統計」の中小企業サンプル替えに伴うバイアスから、4〜6月期のGDP統計2次速報では、設備投資が前期比プラスからマイナスに変わったが(図表3参照)、7〜9月期の設備投資は再び上昇トレンドに戻ると見られる。
  先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)の7〜8月平均は、4〜6月平均比+6.5%増の水準にある。9月調査「日銀短観」の本年度設備投資計画(全産業+金融機関、ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、前年比+7.6%増と、前年の前々年比(+7.8%増)とほぼ同じ伸びとなっている。業種別には、非製造業の伸び(+6.0%増)が前年実績(+5.0%増)を上回っているのが特色で、製造業の伸びは前年度の+13.2%増から本年度の+8.2%増へ鈍化している。
  本年度の設備投資は、輸出関連製造業から内需関連非製造業へ裾野を広げながら、底固く推移すると見られる。

【家計消費は底固いが住宅投資は一時急落の見込み】
  家計統計の消費支出(全世帯)は、7〜9月期に前年比+1.3%増と4〜6月期(同+0.5%)に比して伸び率を高めた。他方、可処分所得(勤労者世帯)は、同−2.6%と前年を下回っている。勤労統計では、雇用者が同+0.8%と増加を続けているが、名目賃金は同−0.6%と引き続き下落しており、可処分所得減少の原因となっている(以上、図表2参照)。
  内需では、公共投資と並んで、住宅投資が大きく落ち込んでいるのが目立つ。7〜9月期の新設住宅着工戸数は、前年比−37.0%の大幅下落となった(図表2参照)。これは安全基準の偽装防止のため、建築確認審査が厳しくなったことに伴う一時的な動きで、いずれ反動的な回復が起きると予想される。

【7〜9月期以降再び輸出主導型成長へ】
  4〜6月期に横這いとなった外需(純輸出)は、7〜9月期には再び大きく伸び、成長に寄与したと見られる。
  日本銀行の推計によると、7〜9月期の実質輸出は前期比+6.1%と大きく増加したのに対し、実質輸入は同+1.7%の増加にとどまり、実質貿易収支は同+15.8%の大幅好転となった(図表2参照)。
  米国内や欧州の一部では、サブプライム・ローン焦げ付きに伴う金融機関の収益悪化が表面化しているが、今のところ実体経済への深刻な影響は出ていない。
  米国では住宅投資が減少し、不動産価格も下落しているが、その影響は個人消費と設備投資にはまだ現れていない。またユーロ圏とアジアへの輸出が好調なため、7〜9月期現在、住宅投資不振の影響は成長率にはあまり響いていない。10月現在、雇用も予想を上回って拡大している。
  10〜12月期以降、個人消費と設備投資に影響が出始め、明年中頃迄成長が減速することは予想されているが、景気後退の可能性は小さいと見られる。世界経済全体としては、BRICsを中心とする新興国の拡大とユーロ圏の底固さが拡大を支えており、サブプライム・ローンの実体経済への影響は限定されている。

【世界経済の根強い拡大基調が金融面動揺の影響を限定的に】
  以上の結果、今月発表となる7〜9月期の実質GDPの1次速報値では、住宅投資と公共投資は減少するものの、家計消費と設備投資の増加で内需が伸び、外需も大きく増加するため、潜在成長率(+2%弱)を上回るプラス成長となる可能性が高い。
  米国や欧州の金融システムに対するサブプライム・ローン問題のダメージは、まだ全容が明らかになっていない感がある。また原油価格高騰の行方からも、目が離せない。内外の株式市場のナーバスな動きは続くであろう。
  しかし、このような不透明感の中で、世界経済の拡大は底堅く続く可能性が高い。