2007年8月版

4〜6月期の成長は純輸出の足踏みで鈍化、雇用と設備投資は着実に増加

【米国の経済動向に弱い日本の株価と円相場】
  2月末の上海発世界同時株安の折、日本の株価は日経平均で1万8千円台から急落して1万7千円を割り込み、円の対米ドル相場は122円台から115円台まで円高となったが、その後5か月間の間に、一高一低のうちに株価は急落前の1万8千円台に戻り、円相場は一時124円台まで円安となっていた。
  ところが、7月末に今度は米国発の世界同時株安が発生し、今回も株価は日経平均で再び1万7千円を割り、円キャリ取引の一部巻き戻しで円相場は一時117円台まで円高となった。
  米国では、サブプライム・ローンの焦げ付きに伴う金融不安で、経済の先行きに不透明感が台頭し、それが、株のようなリスク資産から国債のような安全資産への資金逃避を起こしたのだ。

【日本の国内に格別不安要因はない】
  日本の株式市場や円相場は、どうしてこんなに米国の経済動向に敏感なのであろうか。外国人投資家が米国株の値下がり損を埋めるため、日本株の利益確定売りをして来るのは分るが、何故国内投資家がチャンスと見て値下がりした株に買い向かわないのだろうか。いまの景気が対米輸出に支えられている面を、過大に見ているのではないか。今日の世界経済の持続的拡大を支えているのは、米国というよりは中国、インドなど東アジアとEUであり、この二地域が順調に拡大している限り、日本の輸出も安定して伸びることを忘れてはいないか。
  次々に発表されている4〜6月期の日本企業の業績は、総じて好調であり、株価の上昇材料にはなっても、下落材料とは言い難い。参院選の結果自民・公明の与党が大敗したことも、それで経済の先行きに不安が発生する理由にはならない。むしろ、民主党が政権を担いうる責任政党に育つならば、日本は他の先進国と同じような政権交替可能な議会制民主主義となり、真の民主主義国として安定性を増すであろう。

【電子部品・デバイスと情報通信機械の調整完了で鉱工業生産はようやく上向きへ】
  直近の経済指標を見ると、ここにも株価が急落するような不安材料は見当たらない。
  6月の鉱工業生産は、前月比+1.2%と4か月振りの上昇となり、出荷は同+0.7%と3か月連続の増加となった。在庫は同−0.3%と2か月連続の減少である。
  3ヶ月連続の生産下落は、電子部品デバイス(メモリ、CCD、電子回路基板など)と情報通信機械(デジカメ、パソコンなど)の生産調整が主因であったが、この二つの業界の在庫調整は終わり、6月以降増産体制に入った。
  このため、7月と8月の生産予測指数は、この二つの業界と、一般機械、乗用車などの増産により、夫々前月比+1.8%、同+4.9%の大幅上昇となっている(以上図表1参照)。
  実績は、この予測指数ほど急上昇にはならないとしても、今年に入って足踏み状態にあった製造業の生産活動は、ようやく上向き始めたようである。

【雇用増加に伴い勤労者所得は緩やかな上昇傾向を持続】
  雇用動向を見ると、雇用者数(全企業)の前年比は6月も+0.9%と着実に増加しており、4〜6月期では+1.1%の伸びとなった(図表2参照)。完全失業率も、4月と5月に3.8%と横這いになったあと、6月は3.7%と0.1%ポイント低下した(図表2参照)。
  他方、名目賃金(全産業)の前年比は、6月も−1.1%、4〜6月期も−0.6%と低下を続けている(図表2参照)。団塊の世代の退職に伴う平均年齢の低下が響いていると見られる。
  このように賃金は低下しているが、一方で雇用が賃金の低下を帳消しにして増えているため、雇用者の所得全体は少しずつ増加している(4〜6月期は+1.1%−0.6%=+0.5%)。因みに勤労者世帯の可処分所得は、6月に前年比+7.4%と大きく伸び、4〜6月期としては同+3.5%の増加となった(図表2参照)。

【家計消費と設備投資は4〜6月期も増勢持続】
  こうした所得動向を背景に、全世帯の消費支出は、4〜6月期も前年比+0.5%と、1〜3月期(同+0.6%)に引続き上向いている(図表2参照)。
  もっとも、物の消費は伸びていないようで、4〜6月期の小売販売額は、前期比−0.7%、前年同期比−0.3%の微減となっている。
  今月中に公表される4〜6月期のGDP統計では、10〜12月期、1〜3月期に続き実質家計消費の伸びが、プラス成長を支える形となろう(図表3参照)。
  内需のもう一つの柱である設備投資は、「日銀短観」などの本年度計画段階では昨年度(+7.9%増)並の伸びとなっており、4〜6月期の一般資本財出荷(季節調整指数)は、前期比+2.1%の増加となった。

【4〜6月期は純輸出の足踏みで成長率はやや鈍化】
  日本銀行の推計による実質輸出入動向を見ると、4〜6月期は実質輸出が前期比−0.3%の微減、実質輸入は同+0.7%の小幅増加となり、実質貿易収支は同−2.6%の悪化となった。
  1〜3月期の実質貿易収支が同+9.3%の大幅好転となった反動と見られるが、1〜3月期の実質成長率(+0.8%)に対し+0.5%の寄与度となった純輸出は、4〜6月期には若干のマイナス寄与になるかも知れない。
  以上の結果、年率で10〜12月期+5.4%、1〜3月期+3.3%と高い成長を続けてきた日本経済(図表3参照)は、4〜6月期には、家計消費と設備投資という内需の支えはあるものの、純輸出がゼロないしは若干のマイナスとなるため、全体として成長率は年率1%前後に鈍化するのではないか。
  しかし、世界経済の拡大基調から見て、純輸出の頭打ちは一時的であり、雇用と設備投資の増加に主導された内需の着実な拡大もあって、年後半も成長は緩やかに持続すると見られる。