20066月版

内需主導の緩やかな成長が続く
―米国経済は曲がり角へ―

17年度は実質+3.0%、名目+1.7%の成長】
 本年13月期の実質成長率は前期比+0.5%(年率+1.9%)となり(図表1参照)、その結果平成17年度(2005年度)の平均成長率は+3.0%に達した。これは、バブルの崩壊に伴って景気後退に陥った平成3年度(1991年度)以降、初めて3%に届いた成長率の記録である。
 また、橋本内閣の平成9年度(1997年度)超緊縮予算によって日本経済がデフレのドロ沼に陥って以来、年度平均の名目成長率は−2.1%〜+1.2%の間で低迷し、名目GDP500兆円を割り込んでいたが、平成17年度の名目成長率は+1.7%となり、名目GDPはようやく504.6兆円まで回復した(ピークは平成9年度の510.4兆円)。

GDPの国内需要デフレーターが前年比プラスに転じるのは時間の問題】
 GDPデフレーターはまだ下落しているが、国内需要デフレーターは本年13月期に前年比ゼロ%と、ようやく下げ止まった。
 図表1に示したように、05年度13月期から始まった民間消費、設備投資リード型の成長テンポ(5四半期平均して年率3.6%)は潜在成長率(1.5%〜2.0%)を大きく上回っており、GDPベースの需給ギャップは急速に改善している。コアCPIの前年比は、昨年11月以降一貫してプラスとなり、既にデフレは解消しているが、GDP国内需要デフレーターの前年比でもデフレが解消するのは、時間の問題であろう。
 GDPデフレーター全体の前年比がプラスに転じるためには、原油価格の高騰に伴って上昇している輸入デフレーター(本年13月期現在前年比+15.1%)の上昇が止まり、他方国内需要デフレーターがもう少し上昇率を高めるまでは無理であろう。
 しかし、国内経済の需給と物価動向に関する限り、デフレはほぼ解消しつつあると見て良い。

【鉱工業生産はピークを更新しながら緩やかに上昇】
 新年度に入り、4月の鉱工業生産は前月比+1.5%の上昇となって最高水準を更新し、5月と6月の予測指数もそれぞれ+0.2%、+1.3%と更に上昇を続ける形となっている(図表2参照)。実績は予測指数ほどには増えない可能性が高いと思われるが、生産は1月、2月の足踏みのあと、再び緩やかな上昇軌道に乗ってきたことは間違いないと見られる。在庫率にも格別上昇の気配はなく、出荷と見合った生産の回復となっている(第2図参照)。
 上昇をリードしている業種では、一般機械と自動車の増加が目立つ。電子部品・デバイスと鉄鋼は4月に減少したが、5月には再び上昇する予測となっている。設備投資と輸出の増加がこれら業種の生産動向の背景にあるとみられる。

【設備投資の緩やかな上昇が生産をリード】
 図表1に見られるように、GDPベースの設備投資の上昇は昨年第3四半期以降やや勢いに欠けるが、年度替りの4月の一般資本財出荷は、前月比+14.0%と大きく立ち直り、前年同月比も+6.4%と増加幅を拡大した(図表3参照)。
 まだ、1か月の動きでは判断できないが、日経新聞社が1498社を対象に調べた結果によると、設備投資は05年の前年比+12.9%増(実績見込み)に引続き、06年度の当初計画も同+14.5%の二桁増加と報じられている。より広い範囲の企業を対象とした6月調査「日銀短観」の整備投資計画調査を待たなければ判断できないが、現時点で設備投資上昇の勢いが早くも落ちてきたとは、いえないように思われる。

【雇用と賃金の回復から勤労者所得の緩やかな回復が続く】
 民間消費は、13月期も前期比+0.5%と緩やかな上昇を続けているが(図表1参照)、4月の小売販売額は、前年比−0.6%の減少(図表3参照)、勤労者家計の消費支出は、前年比−3.9%の減少となった。
 背後の勤労者所得の動向をみると、13月の雇用者報酬の前年比は、名目で+1.9%、実質で+2.0%となった。名目では0546月期、実質では0479月期から始まった回復傾向の線上にある動きとみられる。
 4月の雇用者は前年比+1.3%の増加、名目賃金は同+0.3%の増加となっており(図表3参照)、勤労者所得の回復傾向が続いている。
 このような所得の回復と住宅価格・住宅ローン金利の先高予想を背景に、13月期の住宅投資は前期比+1.1%と3四半期連続の増加となっている。4月の新設住宅着工戸数も13月平均比+5.5%増の134万戸(年率)となり、前年比+15.0%増となっている。分譲住宅の伸びが特に目立っている。

【米国の成長減速、利上げ打止め、ドル安の兆】
 最後に外需の動向をみると、13月期の純輸出は前期比0.0%と頭打ちになり、13月期の成長がもっぱら内需主導であることを示している(図表1参照)。
 4月の輸出も3月に続いて前月比マイナスとなっており、純輸出に対応する実質貿易収支も前月比−11.0%と大きく減少した(図表3参照)。
 このような大幅な落込みは一時的と見られるが、米国経済の減速傾向は住宅投資を中心に徐々にはっきりして来るとみられる。日本の輸出環境に変化が出ていることは見逃せない。5月の米国雇用者数の増加は75千人にとどまり、雇用回復の目安とされる15万人と市場予測の平均17万人をともに大きく下回った。
 このためインフレ懸念と6月の利上げ予想が後退し、短期先物金利と長期金利が下がった。こうした動きが定着してくると、米国の株価は回復するが、ドル安円高傾向が強まり、日本にも影響が及んでくるであろう。それがいつ表面化するかは早断できないが、米国経済が曲がり角に近付いていることは間違いない。