2005年11月版

足許は内需が弱く成長は鈍化しているが雇用・賃金は着実に回復

【上期の高成長のあと下期入りの7〜9月期は成長鈍化】
   7〜9月期の主なマクロ経済指標がほぼ出揃い、11日(金)には7〜9月期のGDP統計の公表が予定されている。1〜3月期+5.8%成長(年率)、4〜6月期+3.3%成長(同)と内需主導で平均4%台の高成長を遂げた上期の日本経済(図表1参照)は、下期に入り、7〜9月期には大きく成長が鈍化したようである。内需、とくに個人消費が弱くなったためである。
   しかし、雇用・賃金の緩やかな回復基調は崩れていないので、消費の弱さは一時的と思われる。また住宅投資は先行きむしろ強まる兆しをみせている。
   7〜9月期は純輸出が増加すると見られるので、内需の弱さにも拘らず、マイナス成長になる可能性は低い。

【IT部品の在庫調整完了で鉱工業生産は今後緩やかに上昇】
   9月の鉱工業生産は前月比+0.2%と予測(+3.0%)を大きく下回る微増にとどまり、7〜9月の平均は前期比−0.3%と2四半期連続の減少となった。もっとも、予測指数は10月+2.4%、11月+1.9%と2ヶ月連続の上昇(10〜11月平均の7〜9月平均比は+3.9%)となっているので、実績は予測指数程大幅な上昇にはならないとしても、生産水準がこのまま下がり続けることはなさそうである(図表2参照)。
   9月の生産実績の上昇と、10月、11月の生産予測の上昇を一貫してリードしている業種は、在庫調整の完了した電子部品・デバイス工業である。世界的なIT部品の在庫調整完了から、6〜9月の4ヶ月間に出荷が+20.8%も伸びているため、同じ期間に生産も+15.7%回復したが、なお在庫率は−6.5%の低下となっている。

【対個人サービス業に続き製造業でも雇用回復の動き】
   9月調査の「日銀短観」によると、10年以上にわたって「過剰」超を続けていた製造業の「雇用人員判断」DIが、先行きについて初めて3%ポイントの「不足」超に転じた。長期にわたった雇用調整の完了と、今後の緩やかな生産上昇の期待によるものであろう。
   9月の就業者数を見ると、これ迄前年を下回り続けていた製造業が、初めて前年を5万人上回る1163万人となった。これ迄雇用回復をリードしていた医療・福祉(559万人、前年比+26万人)とサービス業(930万人、同+39万人)でも引続き就業者数が増えている。このため全体として9月の就業者数は、前年比68万人増(+1.1%)となり、うち雇用者数は同101万人増(+1.9%)の5454万人となった。いずれも前月より増加率を高めている(図表3参照)。
   雇用の回復と並んで、名目賃金(全産業)の前年比増加率も、9月は+0.8%と緩やかな回復を続けている(図表3参照)。
   このような雇用と賃金の回復を反映して、勤労者の所得は緩やかながら着実に回復していると見られる。

【7〜9月期の個人消費は冴えない】
   しかし、所得の回復にも拘らず当面9月の個人消費は冴えず、7〜9月期全体としても弱かった。
   9月の勤労者消費水準指数は前月比0.0%、前年比+0.2%増にとどまり、7〜9月期全体では前期比−3.2%減、前年比−1.1%減となった(図表3参照)。全世帯消費支出(実質)も、9月は前月比−0.4%の減少、7〜9月は前期比−1.7%の減少となった。また9月の小売業販売額も、前月比−0.8%減、前年比+0.1%増となり、7〜9月期全体では前期比−1.9%減、前年比+0.8%増である。
   所得の緩やかな回復の下での消費不冴えは、9月の残暑が厳しく、秋冬物の動きが遅れたことなど一時的要因によると見られる。また、長期的な所得の予想と関係の深い住宅投資は、7〜9月期の新設住宅着工戸数が分譲住宅を中心に前年比増加率を高めていること(図表3参照)からみて、必ずしも弱くはない。

【設備投資は足許よりも先行指標が強い】
   内需のもう一本の柱である設備投資も、一般資本財出荷の前年比増加率が9月はマイナスとなり、7〜9月期全体でも増加率が低下していること(図表3参照)からみて、当面はあまり強くない。
   しかし、機械受注(民需、除船舶・電力)の前年比増加率が7月(+10.0%増)と8月(+13.4%増)に高まっていること(図表3参照)や、9月調査「日銀短観」の本年度設備計画が前年度の伸び(+5.1%増)を上回る+9.6%の増加となっていることから判断すると、先行きは確りして来るのではないかと思われる。
   なお公共投資は、公共工事請負額(図表3参照)や出来高が前年比マイナスを続けていることからみて減少傾向に変わりはないが、このところ前年比マイナス幅はやや縮小している。

【7〜9月期は内需が一時的に弱く外需がプラス寄与】
   7〜9月期の成長率は、内需が一時的に弱い反面、昨年7〜9月期から成長の足を引張っていた純輸出が、逆にプラスの寄与をしそうである。
   最近の輸入原油価格の上昇もあって、名目でみた貿易収支の黒字幅は縮小しているが、価格調整をした実質でみると、7〜9月期は輸出の伸び(前期比+3.3%増)が輸入の伸び(同+2.1%増)を上回るところまで回復しており、実質貿易収支の黒字は前期比拡大している(+7.4%、図表3参照)。9月調査「日銀短観」にも現れている下期の輸出回復期待の走りかも知れない。

【05年度の平均成長率は2%台中頃の見込み】
   以上の結果、11日(金)に公表される予定のGDP統計では、一時的に内需主導型が後退し、純輸出に支えられた小幅のプラス成長となる可能性が高い。
   他方、雇用者報酬は、4〜6月期に続いて7〜9月期も回復傾向を鮮明にするであろう。これは目先7〜9月期の成長鈍化にも拘らず、経済の回復傾向が崩れていないことを示すものである。
   10〜12月以降来年にかけて、日本経済の動向を左右するリスク要因は、原油価格の影響を含む海外経済の動向であり、その日本の輸出への影響である。これがあまり大きくなければ、05年度の日本経済は、03年度(+2.0%成長)や04年度(+1.9%成長)を上回る2%台中頃の成長を達成するであろう。05年度は、4〜6月期現在で、既に+1.95%のゲタを履いていることを見逃してはならない。