2005年6月版

─ 製造業は引続き停滞、医療福祉の消費・雇用に動き ─

   製造業を中心とする調整局面は続いているが、ここへ来て非製造業の雇用にはやや明るい動きが兆している。

【4〜6月期の鉱工業生産は再び前期比マイナスになる可能性】
   4月の鉱工業生産は前月比+2.2%の増加と、予測指数の同+3.5%増加を大きく下回ったものの、3ヶ月振りの増加となった(図表1参照)。このところ減少気味であった自動車や一般資本財の生産が反動増となったほか、エアコン、冷蔵庫など夏物家電の増産本格化が主因である。電子部品・デバイスの生産調整は依然として続いており、4月の在庫はようやく前年の水準を下回った(但し在庫率はまだ前年を46.1%上回っており、在庫調整はなお続く)。
   生産予測指数は5月に前月比−2.3%、6月に同+1.4%となっており(図表1参照)、仮に実績が予測通りになったとすれば、4〜6月期は前期比+0.2%の微増となる。しかし、実績が予測を大きく下回る傾向が続いているので、4〜6月期の実績は前期を下回る可能性が高いのではないか。

【製造業を中心に調整局面は続いている】
   そうなると、生産は昨年の7〜9月期、10〜12月期と2ヶ月連続して前期比マイナスとなったあと、本年1〜3月期にはプラスに転じたものの、4〜6月期には再びマイナスとなる。図表1からも直観的に分かるが、製造業の生産にはまだ回復の兆は出ていない。
   生産を3ヶ月前に比較すると、4月と5月(予測)はマイナスである。生産動向に大きく左右される景気動向指数の一致系列は、昨年9月に50%ラインを割った後、11月からは1ヶ月ごとに50%ラインを上回ったり下回ったりしているが、4月と5月には続けて50%ラインを割る可能性がある。
   なお、景気動向指数の先行系列は、昨年9月から本年3月まで、本年1月(54.5)を唯一の例外として、50%ラインを下回り続けている。
   製造業の動向に左右され易い景気動向指数を見る限り、当面の景気は依然として調整局面を脱していない。

【完全失業率は平成10年以来、有効求人倍率は平成4年以来の水準へ回復】
   しかし、4月は雇用面にやや明るい動きが出て来た。完全失業率が4.4%と平成10年(1998年)12月以来の水準にまで低下し(図表2参照)、有効求人倍率は0.94と平成4年(1992年)10月以来の水準に上昇した。
   鉱工業生産は、輸出関連を中心に昨年7〜9月期以降調整局面に入っているので、この雇用好転の兆は、もっぱら国内の非製造業を中心とする動きである。
   4月の就業者数は、6352万人と前月比2万人減少したが、その内訳をみると、雇用者数が5390万人と前月比21万人増加(図表2参照)したにも拘らず、潜在化していた失業者が自営業主・家族従業員(4月現在928万人)から吐き出されて新たに雇用されたため、33万人も減少し、就業者全体が増えなかったのである。

【就業者は医療・福祉で増加、製造・建設で減少】
   興味深いのは、就業者の業種別内訳である。増加したのは、医療・福祉(4月現在550万人)で36万人、卸小売(同1127万人)で6万人の2業種のみで、横這いがサービス業(同917万人)である。残りは、製造業(同1105万人)の18万人減少を始め、建設、運輸などすべての業種で減っている。景気は、輸出関連製造業中心の動きから、国内の医療・福祉など高齢化に対応した部門を中心とする動きに変わる兆しが出ている。

【消費支出も保健医療の伸びが高い】
   こうした雇用面の変化を促しているのが、消費支出の動向である。消費水準(勤労者所得)は1〜3月の前年比+1.4%増のあと、4月は同−2.8%減と弱くなっているが、その内訳をみると、保健医療の支出が同+12.3%増と突出して伸びている。この傾向は4月だけではなく、3月も同+10.8%増、2月も同+4.2%増である。

【一時金を中心に賃金・所得面もそこそこの伸び】
   今後の消費動向を左右する所得面の動きをみると、勤労者家計の可処分所得は、10〜12月期に前年比−1.4%減、1〜3月期に同−0.1%減と2四半期連続して低下したあと、4月は同+3.8%と伸びた。1ヶ月だけの動きでは増加に転じたと判断することは出来ないが、名目賃金も、10〜12月期と1〜3月期に前年比0.0%の横這いとなったあと、4月は同+0.6%の増加となった。中身を見ると、所定外(時間外)給与と特別給与(ボーナス)の伸びが高い。
   所定内(定例)給与は、今春闘でもベースアップが厳しく抑えられているので伸びは期待できないが、企業の好収益を反映して夏の一時金の支給(ボーナス)はかなり増加するので、所得面はしばらく微増を続けるかも知れない。

【設備投資と住宅投資は成長を下支える】
   投資関係では、企業の設備投資と個人の住宅投資にやや立直りの気配がある。
   設備投資は昨年7〜9月期と10〜12月期に減少したあと、1〜3月期は前期比+2.0%の増加となったが(図表3参照)、4月の一般資本財出荷は前年比+10.3%と増加幅を拡大している(図表2参照)。
   住宅投資は、住宅減税の効果もあって昨年中は伸び続けたが、その反動から1〜3月期は前期比−1.4%の減少となった。しかし、新設住宅着工戸数は、1〜3月期に前年比+0.8%増となったあと、4月も同+0.6%増となっているので、このまま減少に転じることはなさそうである。

【成長のエンジンは輸出関連製造業から医療福祉関連非製造業に移れるか?】
   外需(純輸出)は昨年7〜9月期、10〜12月期に続いて、1〜3月期もマイナスの成長寄与度となったが(図表3参照)、4月の実質貿易収支も、輸入の伸びが輸出の伸びを上回り、前月比−1.8%の減少となった(図表2参照)。
   以上から判断すると、4〜6月期も、製造業を中心とする輸出リード型の回復が再開する可能性は、いまのところ低い。しかし、雇用面の回復と夏のボーナス増加に支えられて、医療・福祉などの成長分野を中心に消費が伸びると、設備投資と住宅投資の下支えもあり、プラス成長を維持できるのではないか。