2005年1月版

─ 3四半期連続してほぼゼロ成長か ─

【7〜9月期に続き10〜12月期も生産低下の予測】
   日本経済は成長失速のまま越年した。
   年末に公表された11月の鉱工業生産は、前月比+1.5%の増加にとどまり、事前の予測指数(同+3.7%)を大きく下回った。同時に公表された12月と1月の予測指数は、夫々前月比−0.9%、同+2.8%となったが、実績が予測を大きく下回る最近の傾向から判断すると、1月の+2.8%が実現し、生産が回復傾向に転じるとは考えにくい。
   仮に12月の実績が予測通りになったとしても、10〜12月平均は前期比−0.8%となり、7〜9月期(同−0.7%)から2四半期連続の生産低下となる。図表1に示したように、昨年中頃から始まった生産、出荷の低下、在庫率の上昇という傾向は改まらない。
   11月の生産は若干上昇したとはいえ、図表1に明らかなように、3ヶ月前の8月の水準よりは低いので、景気動向指数の一致系列の構成要素としてはマイナスになる。このため、景気動向指数の一致系列は11月も50%割れとなり、4ヶ月連続の50%割れを記録する可能性も出てきた(1月11日発表の11月の一致指数は44.4%となり、予想通り50%割れ。なお、先行指数も3ヶ月連続で50%割れ)。

【IT部門の在庫調整はあまり進んでいない】
   生産、出荷下落の大きな原因の一つである電子部品・デバイス部門の在庫調整は、あまり進んでいない。11月も在庫は前月比+2.1%の増加となった。在庫率は高水準(前年比+49.1%)ではあるが出荷の増加(同+0.9%)に援けられて僅かに減少した(前月比−1.6%)。いわゆるIT部門の在庫調整は、早くても春、遅ければ年央頃までかかり、その間鉱工業生産と出荷は弱含みを続ける可能性が高い。
   しかし、日本経済の成長失速の主因は、このようなミニITバブルの調整によるものではない。純輸出リード型の回復が、賃金・雇用の回復を通じて勤労者所得の回復、ひいては個人消費など国内需要の回復に至らないまま、終わろうとしているからである。

【10〜12月期も純輸出は成長にマイナス寄与の可能性】
   日本銀行の試算によると、11月の実質輸出は前月比+1.9%の増加にとどまり、反面実質輸入は同+3.4%の増加となった。この結果、実質貿易収支は同−3.4%の縮小となった。
   10月と11月の平均を7〜9月平均と比較すると、実質輸出は+2.3%の増加にとどまっているのに対して、実質輸入は+4.6%の増加である。このため、実質貿易収支は−5.1%の悪化となっている。
   12月もこの傾向が続き、10〜12月期の実質貿易収支が悪化すると、実質GDPベースの純輸出(図表2参照)が、7〜9月期に続いて10〜12月期も減少し、成長の足を引張ることになろう。

【雇用・賃金にはっきりした回復の気配はない】
   このように、純輸出リード型回復のエンジンが逆噴射を始めている間に、国内需要に新しい成長のエンジンが出て来ればよいが、その気配はない。
   11月の就業者数は前月比30万人減少して、前年同月と同水準(6322万人)である。総実労働時間は前年を1.0%上回っているが、これは主として所定外労働時間の増加によるものだ。
   11月の定例給与は前年比−0.7%減となっているが、これは所定内給与が同−0.8%と落込んでいるためで、所定外(時間外)給与は同+0.1%であった。所定内給与の低下は、賃金単価の低い非正規雇用(パート、派遣、契約の社員)のウェイトが高まっているためである。

【消費不冴えの下で消費者物価の下げ足は早まる気配】
   このような雇用、賃金の動向を背景に、個人消費は冴えない動きを続けている。11月の勤労者家計の消費水準指数は、前年比−0.7%の減少となった(図表3参照)。
   販売統計も、11月の小売業販売額が前月比−0.6%の減少となった。その中にあって、乗用車の新車登録台数は前月比+6.2%増、前年比+9.6%増(図表3参照)と伸びている。もっとも10〜11月平均の7〜9月平均比は+0.1%とほぼ横這いである。家電販売額は、11月も前年比−13.7%とパソコンを中心に落込みが続いている。
   このような消費不冴えの下で、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比も、10月の全国が−0.2%、11月の東京が−0.4%と前月(夫々−0.1%、−0.3%)に比べて下げ幅を拡大している。デフレ収束の気配はまったくない。

【設備投資と住宅投資に先行き頭打ちの兆】
   最後に投資動向をみると、11月の新設住宅着工戸数は前年水準まで落込み(図表3参照)、10〜11月平均の7〜9月平均比でも−5.7%の低下である。04年1〜3月期から3四半期連続して増加してきた住宅投資(実質GDPベース)も、個人所得が回復しない下では、優遇税制の期限切れと共に落込み始めると見られる。
   設備投資の同時指標である一般資本財出荷は、11月に前月比+1.6%、前年比+13.0%(図表3参照)と伸びたが、10〜11月平均の7〜9月平均比では−1.2%の低下である。増加傾向を辿っている設備投資(図表2参照)が、10〜12月期にどうなるかは、12月の一般資本財出荷や10〜12月期の法人企業統計が出る迄は判断が難しい。
   ただ、先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)が、7〜9月期に前期比−8.4%と減少し、10月も前月比−3.1%、前年比−9.9%(図表3参照)と落込んでいることから判断すると、早晩頭打ち傾向を強めてくるであろう。
   なお公共投資は、公共工事請負額(図表3参照)から判断して、地方事業を中心に、下落傾向(図表2参照)を改めていない。

【3四半期連続のゼロ成長に企業収益が耐えられるか】
   以上の需要動向から判断すると、日本経済の成長率は、昨年4〜6月期の前期比年率−0.6%、7〜9月期の同+0.2%に続いて、10〜12月期もゼロ成長圏内の動きではないか。
   純輸出がマイナスの寄与となるほか、国内需要に大きなプラス寄与となりそうな項目が見当たらないからである。
   3四半期連続して成長失速となると、遅行指標である雇用、賃金への悪影響が出始めて、景気後退への懸念が強まって来る可能性もある。
   鍵を握るのは、企業収益の動向であろう。成長失速の影響で05年度に減益気配が出てくると、景気後退は避けられなくなる。低成長下で収益を維持する体質に変わってきた日本の経営が、この成長失速にどこまで耐えられるかが焦点となってきた。