2004年12月版

─ 日本経済の失速は決定的となった ─

【勢いよく飛び出したあと失速した今年の日本経済】
   2004年も師走を迎えた。年初は、「日本経済復活の序曲」、「失われた10年からの脱却」などと騒ぐ著名エコノミストやマスコミも居て、明るい幕開けのように見えたかも知れないが、年の瀬も押し迫る今日、景気回復は誰が見ても足踏み状態に入っている。
   この成長減速は突然起こったのではない。年初から予想できたし、その気配は既に年央から出ていた。いま、私がこのHPに書いた「月例景気見通し」のサブタイトルによって確認すれば、以下の通りである(詳細はこのHPの「月例景気見通し」欄を参照)。
   1月  2極分化したままの緩やかな回復
   2月  10〜12月期は7四半期目の連続プラス成長、2003年成長率は2.2〜2.3%に止まる予想
   3月  本年秋頃までは輸出・投資リード型の回復が続く※

※既にこの時点で秋以降の成長減速要因を指摘

   4月  2極化したままの回復を裏付けた「日銀短観」
   5月  トリプル安の背後に景気減速の気配※
※この時点で成長減速の気配を指摘したが、実際に4〜6月期の成長率は年率1.1%に減速した。これが、本年の成長失速の始まりである。

   6月  景気回復の行く手に長期金利上昇の暗雲
   7月  景気は大型化してきたが依然として輸出頼り
   8月  足許の景気は回復しているが先行きに不安材料
   9月  金融市場は成長減速を織り込み始めた※
※この月以降、成長減速が月を追って明らかになって来ることを指摘し続けた。

   10月  一本調子の景気回復に陰りが出てきた
   11月  景気回復は踊り場で足踏み状態に入った

【7〜9月期に続き10〜12月期も生産低下の可能性】
   そして今月、12月のサブタイトルは、「日本経済の失速は決定的となった」である。11月の月例から1ヶ月たって、景気の足踏みは一段とはっきりしてきたからだ。
   まず、10月の鉱工業生産は、予測指数の+0.9%の上昇とは反対に、−1.6%の低下となった。増加の予測とは反対に実績が減少するのは、これで2ヶ月連続である。企業の生産計画が、実行段階で下方修正されているためであり、需要減、在庫増が予想を上回って進んでいることを示している。
   11月と12月の生産予測指数は、+3.7%のあと−2.2%の低下となっている。仮に実績がこの通りになったとしても、図表1を見れば分かる通り、上昇傾向に転じる訳ではない。最近は実績が予測を大きく下回る傾向が続いているので、実際は本年5月をピークとする弱含み傾向が続く形になるのではないか。
   実績が予測通りになったとしても、10〜12月期平均は前期比−0.1%の微減であるが、実際は、7〜9月期の同−0.7%に続き、10〜12月期も2四半期連続のはっきりした生産低下となるのではないか。

【景気動向指数の一致指数は3ヶ月連続して50%割れ】
   景気動向指数の一致指数は、9種類の指標から構成されているが、10月は、既に生産指数を始めとする6指標が3ヶ月前に比して悪化しているので、10月の一致指数の50%割れは決定的である。これで、3ヶ月連続して一致指数が50%を割ることになる。3ヶ月連続の50%割れは、景気後退入りと判断する際の一つの条件を満たしたことになる。
   実際に景気後退と判断する程の失速状態かどうかは、もう少し事態の推移を見なければ分からない。しかし、鉱工業部門を見る限り、図表1に明らかなように、間違いなく調整局面に入っている。生産の背後にある出荷が6月以降明らかに減少傾向にあり、在庫率は2月以降上昇傾向にあるからだ。

【世界的なミニIT不況の影響が大きい】
   業種別にみると、電子部品・デバイス工業の調整が最も大きい。この部門の10月の生産は、既に前年水準を−2.9%下回っているが、出荷が前年水準を更に−3.0%下回っているため、この程度の生産調整では間に合わず、在庫率は前年を62.6%上回って上昇している。
   この在庫率の水準(2000年=100として124.6)は、IT不況の最中の平成13年の平均(156.8)と調整が完了した14年の平均(106.8)の中間である。前回IT不況時程の過剰在庫には達していないが、調整完了までにはあと半年以上かかる水準である。
   このミニIT不況とその調整は世界的な広がりを見せている。日本の半導体装置の受注(輸出を含む)は、昨年秋から本年夏まで順調に拡大してきたが、10月は前年比−21.3%まで落込んでいる。9月に続く2ヶ月連続の前年割れである。過剰在庫を減らす生産調整が、設備投資の調整にも及んで来たことを示している。

【輸出鈍化の反面輸入の伸びが高まり10月も純輸出は減少】
   経済全体をみると、このようなミニIT不況の影響だけではなく、今回の回復のリード役である純輸出と輸出関連設備投資の牽引力が全体として落ちてきたことが分かる。
   日本銀行が試算した実質貿易収支(2000=100の指数)によると、7〜9月期(138.4)は前期比−6.1%の縮小となったが、10月も134.3と7〜9月平均を更に−3.0%下回った。海外経済の減速で実質輸出の伸びが落ちている反面、実質輸入の伸びは素材産業の原料と原油を中心に逆に高まっているためだ。
   図表2に明らかなように、急増してきた「純輸出」が7〜9月期に減少に転じて成長の足を引張ったが、10〜12月期も同じ傾向が続くのではないか。

【10月の設備投資、住宅投資、個人消費は揃って冴えない】
   国内の需要項目も、10月は勢いがない。図表3によって10月の前年比を順次見ていくと、まず設備投資関連指標の一般資本財出荷は、7月の+21.2%をピークにプラス幅を縮小し、10月は+6.2%まで落ちた。住宅投資関連指標の新設住宅着工も、7〜9月平均の+9.8%から10月は+1.5%に縮小している。公共投資関連の公共工事請負額は、10月に−22.4%まで落込み幅が拡大した。
   7〜9月期の成長を下支えた個人消費(図表2参照)関連指標では、消費水準指数(勤労者世帯)が10月は+0.2%と7〜9月平均の+0.9%から大きく縮小した。
   これらの前年比の縮小は、いうまでもなく前期(月)ベースではマイナスを意味する。

【遅行指標の雇用にも成長失速の悪影響が及び始めた】
   好転の兆を見せていた雇用情勢も、10月は冴えない。成長失速の影響が遅行指標である雇用にも響いてきたと見られる。就業者は9月(26万人減)に続いて10月も17万人減少し、10月の完全失業者は逆に2万人増加した。このため完全失業率は4.7%と0.1ポイント悪化した。
   前年を大きく上回り続けていた所定外労働時間(図表3)も、10月はとうとう前年比ゼロとなった。生産低下を反映して総労働時間が前年比−3.0%にまで落込んだためである。
   10月の賃金(現金給与総額)は、名目で前年比−0.5%、実質で同−1.1%である。
   これ迄は、一人当り賃金が減少を続けていても、春頃から雇用が緩やかに増え始めたため、減り続けてきた勤労者所得は下げ止まりの気配を見せていた。しかし、10月の動きから見る限り、勤労者所得は再び下がり始め、成長を唯一支えてきた個人消費の力が落ちて行く可能性が出てきた。

【今回の景気回復には1度も3%台成長は無かった】
   実質GDP統計は、来る12月8日に大きく改訂されて下方修正されるようであるが、現在のベースで見て、今年度の成長率は3%台に届きそうもない。届くためには、10〜12月期と来年1〜3月期が、前期比年率2.8%以上で成長しなければならないが、純輸出と設備投資という二つの成長主導要因に勢いが無くなり、代って個人消費が成長を力強く引張る可能性も消えてきたので、まず不可能だからである。
   また来年度にも、現在の成長失速状態が続き、平均成長率は2%にも届かないのではないか。
   更に、実質GDPが改訂されると、設備投資が大きく下方修正されるので、2003年度(現在+3.2%成長)は2%成長程度となり、結局、今回の景気回復では2003、2004、2005の各年度を通じ、1回も3%台成長は無かったことになろう。
   年初の「日本経済復活の序曲」「失われた10年からの脱却」という空騒ぎが、師走の寒さの中で、侘しく思い出される年越しとなろう。