2004年11月版

─ 景気回復は踊り場で足踏み状態に入った ─

【7〜9月期は生産と出荷が共に前期比マイナス、在庫は増加】
   9月の鉱工業生産は、予測指数の前月比+1.3%を大きく下回り、逆に同−0.7%の減少となった。この結果、7〜9月の平均生産水準は、前期比−0.8%の低下となり、前月の「月例景気見通し」で予想したとおり、5四半期振りの落込みとなった。10月と11月の予測指数は、前月比それぞれ+0.9%、+1.6%と2ヶ月連続で上昇する形となっているが、実績が予測を大きく下回る最近の傾向を考慮すると、10〜12月期から再び上昇に転じるかどうかは、予断を許さない。
   図表1を見れば明らかなように、生産の実績は本年5月をピークに弱含み横這い傾向にあり、10月と11月に若干上昇するとしても、大勢は横這い圏内の動きにとどまる。
   同じ図表1に明らかなように、5月以降の下落傾向が生産よりも顕著に出ているのが出荷である。また在庫率も、7、8、9月と3ヶ月連続して上昇した。
   明らかに製造業の動向に異変が生じている。

【9月は景気動向指数の一致指数と先行指数が共に50%を割った】
   景気動向指数も、景気が踊り場に来ていることを示している。まず一致指数は、8月、9月と2ヶ月連続して50%を割った。3ヶ月連続して50%を割れば、景気が下落に転じたと判断する有力な根拠になる。
   また先行指数も、9月は50%を割り込んだ。一致指数と先行指数が同時に50%を割ったのは、前回景気後退局面末期の01年12月以来、2年9ヶ月振りである。換言すれば、今回の景気回復局面では初めてのことである。
   このまま景気後退に陥るかどうかはまだ分からないが、回復が少なくとも足踏みし始めたのは確かである。
   街角の景況感を示す「景気ウォッチャー調査」(内閣府)も、8、9、10月と3ヶ月連続して悪化している。

【7〜9月期の実質GDPは+0.1%とほぼ横這い】
   景気が足踏み状態となった理由は、公共投資の落込みを帳消しにして今回の景気回復をリードしてきた輸出と輸出関連設備投資の両方に異変が生じているためである。この二つの需要項目の影響をまともに受ける鉱工業生産と出荷がマイナスとなったのは、そのためである。
   本日(11月12日)発表になった7〜9月期の実質GDPは、前期比+0.1%(年率+0.3%)と、ほぼ横這い圏内の動きにとどまったが、中身を見ると、純輸出(寄与度−0.2%)、公共投資(同−0.2%)、設備投資(同−0.0%)の減少が成長の足を引っ張っている(図表2参照)。これらの需要項目の落込みや停滞が、7〜9月期の鉱工業生産の減少を招いたのである。
   反面、サービス需要を多く含む個人消費は、7〜9月期も前期比+0.9%(寄与度+0.5%)となったため、実質GDPはかろうじて前期比マイナスを免れた。

【輸出リード型回復は転換点を迎えた】
   日本銀行が通関輸出入金額から試算した実質輸出をみると、7〜9月期は前期比+0.1%とほぼ横這いにとどまった。反面、実質輸入は、7〜9月期も同+2.1%と伸び続けている。この結果、7〜9月の実質貿易収支は同−6.1%と大きく悪化した。
   実質GDPベースで見ても(図表2参照)、7〜9月期は輸出が前期比+0.4%、輸入が同+2.7%となり、純輸出は前述の通り寄与度−0.2%の悪化となった。
   純輸出の成長寄与度がマイナスになるのは、02年7〜9月の一時的なマイナスを除くと、01年10〜12月期以来のこととなる。これは、前述した景気動向指数の変調が01年12月以来であることと、一致している。
   米国と中国の高成長に依存して輸出主導で回復してきた今回の景気も、新しい局面に入ろうとしている。因みに米国では、11月10日(水)に本年4回目の利上げを決定し、成長の行き過ぎにブレーキをかけている。双子の赤字を抱えて2期目に入るブッシュ大統領も、積極財政政策を採る余地は残されていない。

【7〜9月期は設備投資と機械受注が共に減少】
   輸出と並んで変調を示しているのが、設備投資である。
   一般資本財出荷は、8月、9月と2ヶ月連続して前月比減少し(夫々−2.3%、−3.5%)、7〜9月期の前期比は+1.3%の増加にとどまった。
   本日発表の実質GDP統計では、7〜9月期の設備投資は前期比−0.2%の減少である(図表2)。これは、03年7〜9月期の同−0.1%の減少を除くと、02年4〜6月期以来の減少となる。
   04年度の設備投資計画がプラスであることから考えて、7〜9月期の設備投資のマイナスは一時的と見られるが、設備投資の増加テンポが鈍ってきたことは確かである。
   設備投資の先行きを示す機械受注(民需、除船舶、電力)をみると、9月は前月比−1.9%の減少となり、その結果7〜9月期は、8月時点の予想(前期比+1.8%)を下回り、同−8.4%の大幅減少となった。前年同期比の増加率も+3.8%まで縮小した(図表3参照)。
   10〜12月期の予想は、前期比+1.8%の小幅上昇とほぼ横這い圏内の動きである。来年度に向って、設備投資の伸びは大きく鈍化して来るであろう。この主因は、輸出関連設備投資が峠を越えて来るからである。

【個人消費を支える雇用回復はいつ迄続くか】
   回復リード役の輸出と設備投資が転換点に差しかかる中で、7〜9月期の成長を何とか支えたのは個人消費である。実質GDPベースで、個人消費は前期比+0.9%の増加となった。
   7〜9月期の現金給与総額は、前期比名目−0.2%、実質−0.1%と引続き減少している。しかし、4〜6月期に数年振りの前年比プラスに転じた常用雇用者数(厚労省調べ)と雇用者数(総務省調べ)が、共に7〜9月期もプラスを維持した(夫々+0.6%、+0.4%)。完全失業率も、9月は4.6%へ低下した(図表3参照)。1人当りの賃金は引続き抑えられているが、雇用の回復傾向が個人所得を下支えている。7〜9月の勤労者世帯の可処分所得は、前年比+1.8%の増加となり、前述した消費を支えている。
   輸出と設備投資に変調が現れている現在、今後の景気動向はこの雇用とそれに支えられた個人消費に懸かってきた。しかし、鉱工業生産や実質GDPの足踏み傾向から判断すると、遅行指標の雇用にもいずれは悪影響が出て来るであろう。
   このHPで春頃から予測していたように、今回の景気回復の持続性には疑問があり、来年に向って転換期を迎えようとしている。