2004年9月版
─ 金融市場は成長減速を織り込み始めた ─
【4〜6月期に続き7月も成長減速の傾向】
4〜6月期の経済成長率は、先月のこの欄(月例景気見通し8月版)で予想した通り減速し、前期比+0.4%(年率1.7%)にとどまった。減速の主因は、個人消費、設備投資、在庫投資など国内民間支出の増勢鈍化である(図表1参照)。
7月に入っても、この減速傾向は続いているようだ。7月の鉱工業生産は前月比横這いとなり、予測指数の前月比+1.6%を大きく下回った。8月と9月の予測指数は前月比それぞれ+1.5%、+0.6%と増勢を持続する形となっているが、実績がこれらの予測指数通りになったとしても、7〜9月期の前期比は+0.6%にとどまり、4〜6月期の同+2.6%を大きく下回る(図表2参照)。実際は、実績が予測を下回る傾向が続いているので、7〜9月期は前期比ほぼ横這いになるのではないか。
図表2の生産、出荷の推移を見ても、ここへ来て増勢にやや頭打ち傾向が出ていることが直観的に見てとれる。
【7月の失業率は上昇、新規求人倍率は低下】
このような減速傾向を反映して、新規求人の前年比増加率は、1〜3月期+16.7%、4〜6月期+13.9%と増加幅を縮小したあと、7月も+10.5%と更に縮小傾向を続けている。上昇を続けてきた新規求人倍率も、7月は前月比0.01%ポイント低下した。
完全失業率も7月は前月比9万人増加し、完全失業率は前月比0.3%ポイント上昇して4.9%となった。
1ヶ月の動きでは、労働力需給が再び悪化し始めたとは速断できないが、改善傾向が足踏みを始めたことは確かであろう。
企業内では、7月の総実労働時間が前月比−0.6%の減少(6月は+0.2%の増加)となり、7月の常用雇用は正社員が前年比−0.6%の減少と80ヶ月連続の減少となった。しかし、時間外労働とパートタイマーの雇用は、7月も前年比それぞれ+3.0%の増加(図表3参照)、+4.6%の増加となっており、企業は相変わらず社会保険料負担の発生しない時間外労働とパートタイマーに頼る傾向を改めていない。
【猛暑効果で7月の消費は増えたが所得の裏付けはない】
このため7月の賃金は、時間外手当てが前年比+4.5%の増加となっているものの、全体としては前年比−0.4%の減少と減り続けている。
しかし、7月は月初から猛暑となったため、夏物の消費は活発であった。7月の小売販売額は、3〜6月と前年水準を下回ったあと、7月はコンビニの清涼飲料水などを中心に前年比+0.8%と久方振りの増加に転じた。家計統計でも、7月の勤労者の消費支出は前年比+2.7%の増加となった(図表3参照)。
もっともこの傾向は、賃金所得面の裏付けを欠いているので、8月も猛暑が続いたとは言え、長続きすることは無理であろう。恐らく秋物の売れ行きが落ちるのではないか。
【輸出と設備投資の景気牽引力も落ち始めるか】
景気回復をリードしている輸出と設備投資についても、減速の兆ではないかと思われる動きはある。両者を反映した7月の一般資本財出荷は、前年比では+21.2%の増加(図表3参照)と伸び率を高めているが、季節調整済指数でみると、7月は前月比+0.9%の増加にとどまり、4〜6月の前期比+5.6%の増加に比して鈍化した。
7月の実質輸出も、4〜6月期に前期比+3.3%と増加したあと、7月は前月比−2.4%の減少となった。
これらの動きは、7月1ヶ月だけの動きなので、これだけで基調を判断するのは早計である。
しかし、4〜6月のGDP統計でも、設備投資は前期比横這いとなり(図表1参照)、また輸出は前期比+3.5%の増加と、1〜3月期(同+4.5%増加)や昨年10〜12月期(同+5.2%増加)に比して鈍化している。
大きな流れとしては、本年度上期を境として設備投資と輸出の景気牽引力は落ちて行くのではないか。
【成長減速予想で株価は冴えず長期金利は低下】
こうした経済成長の減速傾向を、金融市場は早くも読み込み始めたようである。
株価は8月中冴えない動きを続け、日経平均でしばらくの間1万1千円台を割っていた。ここへ来て1万1千円台を回復したものの、上値の重い展開となっている。
長期国債市場では、市場利回りが6月に一時1.9%台にまで上昇し、7月から8月初めまでは1.8%前後で推移していた。しかし、この1ヶ月間は急落して、最近では1.5%を割っている。これは、景気回復の減速に伴なって日本銀行の量的緩和政策からの出口が遠のいた、という見方が強まっているためである。
実際、消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比は、7月の全国も、8月の東京も、共に−0.2%とむしろ下落幅を僅かに拡大しており、量的緩和政策解除の条件は遠のいている。