2004年8月版

─ 足許の景気は回復しているが先行きに不安材料 ─

【景気回復にも拘らず株価は冴えない動き】
   足許の景気は回復を続けており、4〜6月期の企業業績の発表も順調であるが、この1ヶ月間株価は冴えない動きをしている。日経平均で1万2千円の大台を回復するどころか、1万1千円台の前半で足踏みをしており、一時的に1万1千円を割ることもある。前日の米国の株価が反発しても、日本の株価は下落する日が少なくない。単純に米国の株価の影響で弱いのだとは言い切れない。
   年末から来年にかけて、日本経済の前途にはいくつかの不安要因がある。恐らく市場は、それを気にして様子見をしているのではないか。

【原油価格高騰などで輸入コスト・プッシュ強まる】
   第1に、中東の地政学的リスクを背景に、原油価格は第2次石油ショック時のピークを超えて上昇してきた。中国の基礎資材のボトルネックを反映した国際原料品市況の上昇と相まって、日本の輸入物価指数は、契約通貨ベースで6月に前年比+11.7%まで上昇している。7月には更に大きく上昇したと見られる。日本の国内では、大幅な需給ギャップを反映してなかなか製品価格を引上げられないので、企業は原料高製品安によるプロフィット・スクイーズに悩まされている。

【金利上昇と超緩和政策修正の予感】
   第2に先行きの金利上昇不安がある。米国の公定歩合とフェデラル・ファンド・レートは、6月30日に2年振りに0.25%幅で引上げられたが、年末までには8月を含めてあと3回0.25%幅で引上げられるという見方が多い。他方、日本国内では、前述の輸入コスト・プッシュ・インフレの影響で、CPI(生鮮食品を除く)の前年比も早晩プラスに転じるのではないかという見方が徐々に広がっている。
   その結果、日本銀行の超金融緩和政策からの出口が、現実の問題として俎上にのぼってきた。ゼロ金利政策の修正とそれに伴なう中・長期市場金利の上昇は、株式と債券の価格を下落させ、金融機関と企業の純資産を減少させるので、当然貸出と投資に悪影響を及ぼす。

【本年度下期以降増収率と増益率は共に鈍化の予想】
   第3に、本年度の企業の増益率が、02年度と03年度の大幅な2桁増益率に比べて大きく鈍化する可能性が強まっている。いわゆるリストラの効果(損益分岐点操業率の低下)が出尽くした所へ、前述の輸入コスト・プッシュと金利上昇の不安が重なってきたからである。
   更に、第4に、増収率の方も、現在の景気をリードしている輸出と輸出関連設備投資の減速で、04年度下期以降には鈍化するのではないかという不安が強まっている。
   輸出鈍化の主因は、本年下期以降の米国成長率の鈍化予想である。大統領選挙で共和、民主のいずれが勝つにせよ、深刻な双子の赤字に対処するため、05年の財政緊縮は避けられず、前述した利上げの影響も加わって、成長率は大幅減税の効果が消える本年下期以降明年に向って、鈍化するだろうという予想が多い。
   また国内の輸出関連設備投資も、本年度の大企業製造業の設備投資計画(日銀短観ベース)が前年比+15.3%(上期+34.1%、下期−0.2%)の大幅な伸びを示していることから判断すると、設備ストックの調整原理が働いて、来年度の増勢鈍化は避けられないであろう。

【足許の生産は回復傾向を持続】
   以上、第1〜4の不安もあって、日本の株価は冴えない動きとなっているが、足許の景気は引続き回復の歩みを続けている。
   6月の鉱工業生産の実績は、前月比−1.3%の減少と予測指数の同−0.1%を上回る減少となったが、4〜6月期を平均すると前期比+2.6%の上昇である。7月と8月の予測指数も、同+1.6%と同+1.0%の上昇となっており、実績が予想を下回るとしても、大勢として生産の回復傾向は続いている(図表1参照)。3、4、5月にやや上昇した在庫率も、6月には低水準に戻った(同)。
   回復をリードしている輸出と設備投資の動向を反映して、一般資本財出荷も引続き堅調である。図表2に示したように、前年比でみて、6月は+18.9%、4〜6月期は+17.6%と前年比増加幅を拡大している。

【非正社員を中心に雇用は回復しているが賃金は増えていない】
   生産の回復持続を反映して、6月の求人倍率(新規と有効)はジリジリと上昇を続け、また常用雇用者数も7年振りに前年比プラスに転じた本年4月(+0.5%)以降、5月は+0.3%、6月は+0.4%と微増を続けている。もっとも、増えているのは企業の社会保険料負担がなく、賃金単価の低いパートなど非正社員で、正社員は相変わらず減り続けている。
   社会保険料負担の追加が発生しないという意味で、企業の時間外労働依存も続いている。図表2に示した通り、所定外労働時間は前年比+4%前後のペースで増え続けている。
   このような企業の雇用態度を反映して、現金給与総額は、前年比でみて、名目が−1.2%、実質が−1.0%と依然として減少を続けている。基本賃金とボーナスが減少しているためで、時間外手当は増えている。

【4〜6月期の成長率は減速か】
   雇用者報酬が減り続けている下で、個人消費は貯蓄率の低下を伴なって増えている(図表2の消費水準指数参照)。もっとも、乗用車新車登録台数(図表2参照)、家電販売額、小売業販売額などの販売統計は、4〜6月平均の前年比でみて、夫々−3.3%、−16.0%、−2.0%の減少である。家計統計と販売額統計のギャップは、後者がサービス支出(例えば旅行取扱高の前年比は4月+27.7%、5月+26.8%)と好調なインターネット販売を含んでいないこと、前者ではサンプル替えの誤差が大きいこと、などによるものと見られる。
   消費の実勢は両者の中間であろう。
   以上を総括すると、4〜6月期のGDP統計は、純輸出、設備投資、在庫投資、個人消費がプラス、公共投資、住宅投資がマイナスというこれ迄の傾向に変わりはないが、純輸出、在庫投資、個人消費の増勢がやや鈍化し、10〜12月期の前期比+1.8%、1〜3月期の同+1.5%(図表3参照)よりは成長率が低下するのではないか。