2004年4月版

── 二極分化したままの回復を裏付けた「日銀短観」 ──

【1〜3月の生産は10〜12月に比し増勢鈍化】
   日本経済は、輸出および輸出関連設備投資の好調と、内需関連部門の不振に2極分化したまま、全体として緩やかな回復を続けている。今月もこの構図に基本的な変化はない。月次の景気指標と「日銀短観」(2004年3月調整)の双方がそれを裏付けている。
   まず月次の景気指標から見て行くと、2月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−3.7%、−4.1%の大幅減少となった。図表1を見れば明らかなように、これは前月の大幅増加(それぞれ+3.3%、+2.6%)の反動による面が大きい。1〜2月の生産を平均してみると、10〜12月の平均に比べて+1.2%の緩やかな上昇である。
   また生産予測指数の前月比は、3月に+0.7%と小幅上昇のあと、4月は+4.2%と再び大幅な上昇となっている(図表1参照)。この3月の予測指数を使って1〜3月の平均を試算してみると、10〜12月平均比+0.7%と、この場合は更に小幅の上昇である。

【二極分化を反映し一般資本財はプラス、消費財と建設財はマイナス】
   鉱工業生産は、図表1を見れば明らかなように、2002年5月から2003年8月まで大勢横這いで推移した後、9月から急上昇に転じ、10〜12月期は前期比+3.7%の急伸を示した。しかし、この勢いは無くなってきたようだ。もっとも、4月の予測指数が再び+4.2%の急上昇となっていることから判断すると、このまま頭打ちになることはなく、増勢が鈍化したまま、当分は緩やかな回復を続けると見られる。
   1〜2月平均の10〜12月平均比を財別に調べてみると、一般資本財が+5.3%と大幅に伸びているのに対し、消費財は−1.0%、建設財は−0.5%のそれぞれ減少である。輸出と輸出関連設備投資の好調と、個人消費、住宅投資、公共投資の不振という2極分化の姿が明確に現れている。
   なお生産財は、ほぼ鉱工業生産全体の小幅増加(+1.2%)に見合って、+1.5%の緩やかな上昇となっている。

【3月調査の「日銀短観」も二極分化が明瞭】
   3月調査「日銀短観」の「業況判断DI」では、前回の大企業製造業に続き、今回は中堅企業製造業と大企業非製造業も「良い」超に転じた。
   しかし、国内向けの多い中小企業製造業では、依然として「悪い」超であり、先行きについても改善の見通しがない。また大企業非製造業で「良い」超が大きい業種は、情報サービス、通信、電気・ガス、対事業所サービスなどであり、これらの業種は中堅企業でも「良い」超である。
   大企業と中堅・中小で判断が異なっている業種は、不動産、卸売、小売である。この3業種は、大企業では「良い」超であるが、中堅企業と中小企業では引続き「悪い」超である。
   以上のように、3月調査の「日銀短観」でも、製造業と非製造業、大企業と中堅・中小企業の二極分化は明瞭である。

【不動産、卸売、小売は大企業と中堅・中小企業に大きな差】
   不動産業については、大都市圏の優良商業地の地価が底入れし、小反発している反面、大部分の地方では地価が下がり続けていることからも分かるように、大都市圏の再開発を手がける大企業と、一般の地域の中堅・中小企業との間で、業況に大きな二極分化が現れている。
   卸売業については、貿易に従事する大企業の商社と、国内専門の中堅・中小企業の商社との間の二極分化が、業況の違いにはっきりと反映されている。
   小売業についても、百貨店、スーパーなどの大型小売店の進出と、それに圧迫されてシャッターを降ろす商店街の一般小売店との業況の差が、大企業と中堅・中小企業の「良い」超と「悪い」超の違いとなって現れている。

【個人消費は乗用車、パソコンの不振を除けばまずまずの動き】
   1月と2月の個人消費指標は、2月が閏年の関係で例年より1日(3.6%)多い関係もあって、10〜12月よりはよい。
   勤労者家計の個人消費(図表2参照)や小売販売業の売上高は、昨年中、四半期ベースで一貫して前年を下回っていたが、1月と2月は2ヶ月連続で前年水準を上回った。もっとも、乗用車新車登録台数(図表2参照)は、閏年であるにも拘らず2月は前年水準並みにとどまり、家電販売額に至っては、前年比で1月−13.3%、2月−18.4%の大幅な落込みを示している。
   前述のように、1〜2月の消費財生産も10〜12月比−1.0%の減少となっているが、これは普通乗用車とパソコンの落込みが大きく響いたものである。
   このように個人消費は、統計によってやや区区の動きをしているので、3月の統計が出る迄は、1〜3月期の基調判断を控えた方がよさそうである。

【設備投資は足許も2004年度の展望も確りしている】
   設備投資は年明け後も確りしている。一般資本財出荷は、図表2に示したように、前年比で1月+12.2%、2月+15.8%と10〜12月期(+7.4%)に比して上昇幅を拡大している。季節調整済みの1〜2月平均は、10〜12月平均に比して+6.2%の大幅上昇となった。3月は期末月でもあるので、1〜3月期の設備投資はかなり強そうである。
   設備投資関連の物価が下がり続けていることを考えると、実質GDPベースでは更に高い伸びとなるであろう。
   なお、2004年度の設備投資計画(同)についても、全規模製造業は前年比+7.1%の大幅増加、全規模全産業では同+0.9%の増加にとどまる。これは、年度開始前の計画(3月調査)としては、2003年度よりも高い伸びとなっている。経済が順調に推移すれば、計画は上方修正され、2004年度の設備投資は引続き堅調であろう。

【1〜3月の純輸出も成長に対してかなりのプラス寄与】
   設備投資と並んで景気を支えている輸出の動向をみると、季調済み実質ベースでみて、2月は前月比−1.4%の減少となった。もっとも、輸入も同−6.5%と更に大きく落込んだため、貿易収支は同+15.2%の大幅好転となった。
   1〜2月の平均を10〜12月の平均と比べてみると、輸出は+3.9%の増加、輸入は+0.5%の増加、差し引き貿易収支は+15.4%の好転である。
   3月の計数に大きな変化が現れない限り、1〜3月の実質GDPベースの純輸出も、成長に対してかなり大きなプラスの寄与となることは間違いなさそうである。

【1〜3月期プラス成長の大きさは3月の個人消費次第】
   その他のGDP項目では、新設住宅着工戸数(図表2参照)が、10〜12月期に引続き、1月と2月も前年水準を上回っている。
   季節調整済みの着工戸数を見ると、前期比+4.9%と大きく伸びた10〜12月期に比較しても、1〜2月平均は更に+3.4%の増加となっている。
   GDPベースの住宅投資は、10〜12月期に前期比−1.0%の減少と発表されているが、住宅着工統計が若干の先行指標であることを考慮すると、10〜12月と1〜2月の着工増加が1〜3月のGDP統計に反映され、前期比プラスに転じる可能性が高い。
   なお、公共投資は、図表2の公共工事請負額が前年比大幅なマイナスを続けていることにも示されているように、引続き減少傾向を辿るであろう。
   以上を総括すると、前期比年率6.4%の高成長となった昨年の10〜12月期(図表3参照)に続いて、本年の1〜3月期もプラス成長となることは、ほぼ間違いなさそうである。
   設備投資と純輸出の増加がプラス成長に大きく寄与し、住宅投資も若干のプラス寄与になると思われるからだ。しかし、1〜3月の成長率の大きさを大きく左右する未知の要因は、3月の個人消費である。これが1〜2月の伸びを帳消しにしなければ、1〜3月期の成長率はかなり高めになるが、そうでない場合は、10〜12月期に比して大きく鈍化しよう。