2004年1月版

── 二極分化したままの緩やかな回復 ──

【生産は前回、前々回のピークに近づく急回復】
11月の鉱工業生産は前月比+0.8%の増加となり、図表1に見るように9月以来3ヶ月連続の上昇となった。生産予測指数は、12月に−0.4%と減少したあと、本年1月は+3.4%の大幅上昇が見込まれている。
仮に予測指数通りになったとすれば、9月から1月までの5ヶ月間に+8.8%(年率+21.1%)の急上昇となる。実際には、11月の実績が予測指数の+3.1%を大きく下回る+0.8%の増加にとどまったように、実績が予測を下回る傾向は続いているので、年率2割の急上昇とはならないであろう。しかし図表1を見れば明らかなように、12月と1月の予測指数をある程度割引いてみても、9月から生産の急回復が始まったという判断は間違いないところであろう。
この結果、2000年(前回)や1996〜97年(前々回)のピークを下回っていた今回の生産水準は、図表1に明らかなように、ようやく前回、前々回のピークに近付いてきた。今年はこのピークを抜くかも知れない。

【米国・中国向け輸出と日本のIT産業復活が主因】
業種別にみると、この急回復をリードしているのは、電子部品・デバイス、電気機械、情報通信機械、一般機械、自動車、鉄鋼などである。
これには、二つの大きな原因がある。一つは、8月頃から個人消費、住宅投資、設備投資が揃って立直ってきた米国経済の堅調と、SARS(流行性肺炎)克服後過熱が心配される程の中国経済の急成長に支えられ、日本の輸出と輸出関連大企業製造業の設備投資が伸びていることである。
もう一つは、パソコンと関連部品の世界的供給超過・不況で低迷していた日本のIT産業が、デジタル家電と関連部品で再び技術的に世界をリードし、復活してきたからである。DVDプレイヤー、デジタル・カメラ、デジカメ付携帯電話、プラズマ・テレビなど薄型テレビ、自動車制御装置などとその部品である。これらが前記の電子部品・デバイス、電気機械、情報通信機械、自動車などに含まれており、これらの部品・デバイスを製造する機械が一般機械の中に含まれている。

【10〜11月の輸出と設備投資は大きな伸び】
ここで最新の輸出と設備投資の指標を確認しておくと、まず10月と11月の実質輸出の平均は、前期比+3.8%の増加となった7〜9月期の平均を、更に+6.3%も上回って伸び続けている。他方実質輸入は、同じベースで+1.6%の増加にとどまっているので、10〜11月平均の実質貿易収支の黒字は、7〜9月期平均を+27.1%も上回っている。
次に足許の設備投資動向と一部輸出の動きを反映している一般資本財の出荷をみると、10〜11月平均は前期比+2.9%増となった7〜9月期平均を更に+7.0%上回る水準にある。このため、前年同月比で7〜9月期に−0.2%と前年水準を僅かに下回っていた一般資本財出荷は、図表2に示したように、9月以降11月まで、前年水準を大きく上回って推移している。

【個人消費、住宅投資、公共投資など国内需要は低迷したまま】
このように、輸出と輸出関連大企業製造業の設備投資にリードされて生産は急上昇しているが、これらの回復が内需関連企業の底打ちに波及する動きは依然として絶たれたままである。これは輸出関連大企業が引続き人件費総額(社会保障負担を含む)を圧縮するため、常用雇用を抑えてパートと時間外労働に頼り、また賃金を抑制しているためである。
製造業の常用雇用は11月も前年比−1.8%と減り続けており、反面パートの有効求人倍率は10月の1.58倍から11月は1.63倍と求人超過傾向を強めている。
また経団連調べの大手216社の昨年末ボーナスの支給額は、夏期ボーナスの支給額に比べて−0.44%の減少となっており、賃金抑制の姿勢を崩していない。
このような個人所得の動向を反映して、11月の百貨店・スーパーの売上高合計は前年比−5.6%の減少と低迷している。11月の新設住宅着工戸数も年率110.9万戸にとどまり、図表2の通り前年水準を−0.3%下回った。
公共投資は、同じく図表2の公共工事請負総額が11月も前年比−23.0%減と急落していることから分かるように、7〜9月期までの大幅な減少(図表3参照)を10〜12月期も続けている。

【二極分化したまま高失業率とデフレを背負った緩やかな成長】
以上のように、日本経済は引続き二極分化したままである。輸出関連製造業とその立地が多い首都圏など大都市の経済が立直り、反面内需関連産業中心の地方経済は深刻な不況のままである。
日本経済を全体としてみると、世界の最先端を行く輸出関連産業に働く就業者は、全体の1割にすぎない。実質GDPベースでみても、製造業のシェアは4分の1であり、その半分程が輸出関連である。GDPに占める輸出のシェアも11%だ。
残りの9割弱は、個人消費、住宅投資、公共投資に関係の深い製造業と非製造業(サービス、流通、建設、不動産など)である。9割弱を占めるこの分野が停滞したままなので、失業率は11月も5.2%と高水準のままであり、デフレ(物価の持続的下落)は止まらないのだ。しかも、1割弱の好況分野から9割弱の不況分野へ好影響が波及する因果の鎖は、大企業の人件費抑制の経営戦略によって絶たれたままだ。
この9割弱の内需分野の投資機会、雇用機会を増やす規制撤廃を強力に進めない限り、日本経済の二極分化は続き、全体の立直りは無理であろう。
10〜12月期も、高失業率(図表2参照)とデフレを背負った7〜9月期並みの小幅なプラス成長(図表3参照)が続いているのではないか。