2003年12月版

─ デフレの止まらない緩やかな成長局面 ─

【9月以降の生産回復傾向は一段とはっきりしてきた】
   10月の鉱工業生産は前月比+0.8%の増加となり、11月と12月の予測指数は夫々+3.1%の増加、−0.9%の減少となった。先月の「月例景気見通し」で述べたように、生産は9月からはっきりと上昇傾向に転じたことがこれで裏付けられた。そのことは、図表1を見ても直観的にうなずけよう。もし11月と12月の実績が予測通りであれば、10〜12月期は前期比+4.9%と最近に例を見ない大幅な上昇となる。
   もっとも、実績が予測を下回る傾向は10月も続いている。10月の予測指数は前月比+2.8%であったのに対して、実績は同+0.8%と大きく下回った。10〜12月期の+4.9%という大幅な上昇についても、下振れの可能性が高い。ただその場合でも、図表1を見れば明らかなように、年初来停滞していた生産活動が、9月から上昇傾向に転じたという判断は間違いないようだ。

【輸出と設備投資の回復を反映し、電気機械、電子部品、一般機械、自動車が好調】
   この生産回復を支えている最終需要項目は、輸出と輸出関連大企業の設備投資である。図表2を見れば明らかなように、実質GDPは01年1〜3月期をピークにマイナス成長に陥ったが、本年(03年)1〜3月期にはようやく01年1〜3月期のピークにまで回復し、その後もプラス成長を続けている。成長を支えているのは、図表2に示したように、純輸出と設備投資である。その反面で個人消費は停滞を続け、公共投資は一貫して減少傾向を辿っている。
   業種別にみると、生産上昇の主力は電子部品・デバイス、電気機械、一般機械、自動車などであり、いずれも輸出の主力商品と設備投資関連の機械である。
   更にその背景には、中国を中心とする東アジアと米国の回復が世界経済の立直りをリードし始めたため、日本とヨーロッパも停滞を脱しつつあるというグローバルな景気回復の動きがある。また世界的にIT産業が在庫と設備の調整を了えて立上がり、そこにデジタル家電の新しい部品・デバイスと完成品(各種の薄型TV、デジタルカメラ、カメラ付携帯電話など)の発展という技術革新の波が重なっている。

【輸出増加は加速化する気配】
   直近のデータを見ていくと、まず実質輸出は10月も前月比+2.9%、7〜9月平均比+6.2%と高い伸びを続けている。反面10月の実質輸入は前月比−3.3%と落込み、7〜9月平均と同水準にとどまっている。このため実質貿易収支の拡大が続いており、10〜12月期も純輸出(外需)が日本の成長を支える構図に変りはなさそうである。
   成長を支えるもう一つの柱である設備投資をみると、10月の一般資本財の出荷は、前月比+5.2%、7〜9月平均比+6.9%と大きく伸びている。この10月の水準は、図表3に示したように、前年同月を+8.2%も上回っている。もっともこれには、一般資本財の輸出好調の影響も混在しているが、10月以降の設備投資の根強さも確かなようだ。

【設備投資は7〜9月期に鈍化したものの先行きは根強い】
   「法人企業統計」によると、7〜9月期の設備投資は前期比−3.8%の減少となった。値下りを続ける資本財の価格でデフレートした実質設備投資はこれ程弱くはないが、7〜9月期のGDP統計では、実質設備投資の一次速報値の前期比+2.8%増が、二次速報では同+0.5%の増加に大きく下方修正された。
   先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10月に前月比+17.4%増、前年同月比+23.1%増(図表3参照)と大きく伸びた。この水準は7〜9月平均比+14.4%増に達している。10〜12月の前期比見通しは+12.0%増となっているが、既に10月の水準が+14.4%増となっていることからみて、達成は十分に可能であろう。
   輸出関連大企業製造業を中心とする設備投資の増加傾向は、7〜9月期にやや鈍化したものの、先行きは根強く続くものと思われる。

【生産の上昇は時間外労働の延長で賄われ雇用改善につながらない】
   「家計調査報告」によれば、個人消費は7〜9月期に引続き10月も冴えない。全世帯の実質消費水準は、図表3に示したように、7〜9月の前年比−1.6%減のあと、10月も同−0.8%減と前年水準を下回り続けている。10月の季節調整済み前月比も−1.2%の減少である。
   企業は生産回復を時間外労働の延長とパートタイマーの増加で賄う傾向を改めていない。10月の所定外労働時間は、前月比+0.8%増加し、図表3に示したように、前年同月比は+4.0%と増加幅を拡大している。このため生産が上昇傾向に転じたにも拘らず、10月の失業率は5.2%と前月よりも悪化した(図表3参照)。

【企業はパート雇用比率を引上げて人件費全体を抑えている】
   また全体の有効求人倍率が10月も0.70と低迷している中にあって、パートタイマーに対する企業の求人が旺盛なため、パートだけの有効求人倍率は10月に1.58倍の求人超に達している。
   常用雇用(全産業)は10月も前年比−0.3%と減少しているが、雇用に占めるパートの比率(全産業)は10月は22.66%と前年平均の21.97%から着実に上昇している。
   企業は賃金が割高で社会保障費負担も大きいフルタイムの常用雇用を減らし、パートタイマーに切替えることによって、生産の回復にも拘らず人件費全体の抑制に努めている。
   生産増加は、当面、雇用・賃金の回復を通じて個人所得、ひいては個人消費と住宅投資の回復に波及しそうもない。

【本年度の成長率が2%台前半ではデフレは止まらない】
   以上のように、9月以降の鉱工業生産回復傾向は一段とはっきりしてきたが、それが雇用・賃金の回復を通じて国内需要、とくに個人消費の立直りを招く因果のチェーンは、依然として切れたままである。
   本年7〜9月期の実質GDPの第2次速報は、設備投資の下方修正を主因に、第1次速報の前期比+0.6%(年率+2.2%)から同+0.3%(同+1.4%)に引下げられた。この水準は02年度の実質GDPの平均に比して+1.7%増の水準である。今後10〜12月期の成長率が、鉱工業生産の回復を支える輸出と設備投資の伸びで年率2%を超えるようなことになれば、本年度の平均成長率も2%台に乗ってくるであろう。
   しかし、日本の潜在成長率はかなり低下したとはいえ、各種の研究によれば2.5%程度はあるので、2%台そこそこの成長率では、GDPベースの大幅なデフレ・ギャップは縮まらない。供給超過の圧力は続くのでデフレ(物価の持続的下落)はなかなか改まらず、来年に向って好況感のない緩やかな回復にとどまるであろう。