200311月版

─ 輸出に支えられて生産は9月以降上昇傾向に転じた ─

【電子部品等の増産で生産は9月以降上昇に転じた】
    年初来停滞していた鉱工業生産が、9月からかなりのテンポで上昇し始めた(図表1参照)。9月に前月比+3.8%の大幅増加となったあと、生産予測指数も10月+2.8%、11月+2.5%と大幅な上昇が続く。もっとも、実績が予測指数通りになるかどうかは分からないが、しかし割引いてみても、9月以降上昇傾向に転じたと判断して間違いなさそうである。11月の予測値は前年比+8.8%に達する。この水準は、図表1を見れば明らかなように、2000年のピークに近い。
    9月は出荷も前月比+3.8%の大幅増加であった。生産と出荷に共通している増加品目は、電子部品・デバイス工業と一般機械工業である。この2品目は、10月と11月の生産予測指数でも増加している。デジタルカメラ、カメラ付携帯電話、プラズマTVなど薄型液晶TV等デジタル家電の部品と完成品が、輸出や国内消費で好調を続けているためである。

【景気回復に今一つ自信がなく株価は足踏み】
    しかし、最終需要項目を見ると、確りしているのは輸出だけで、設備投資は勢いに欠け、個人消費、住宅投資、公共投資は相変わらず停滞ないしは減少を続けている。果してこのような国内最終需要の動向で、先行きの生産増加にマッチしていけるのか、やや気懸りである。
    本日発表になった7〜9月期GDPの実質成長率も、年率2.2%と4〜6月期の年率3.5%から大きく鈍化した(図表2参照)。株価が足踏みを続けているのも、一つには景気回復の持続に今一つ自信が持てないからであろう。
    米国と中国の成長に支えられた輸出と、IT関連電子工業の復活だけに支えられた生産回復では、景気の先行きに不安は残る。

【輸出は好調、設備投資は増勢鈍化】
    最終需要項目を見て行くと、実質輸出の前月比は7月から3ヶ月連続で増加し、7〜9月期は前期比+3.8%の増加となった。この間実質輸入は+1.3%の増加にとどまったので、実質貿易収支は大きく好転した。7〜9月期の実質成長率は、純輸出に大きく支えられた形となっている(図表2参照)。
    設備投資はここへ来て少し勢いを失っている。図表3に示したように、一般資本財出荷は、輸出が好調であるにも拘らず、7〜9月期は前年比でマイナスに転じた。国内の設備投資関連の出荷が弱いからであろう。7〜9月期GDP統計の設備投資(実質)も、4〜6月期の前期比+4.7%から同2.8%へ鈍化した(図表2参照)。
    先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)も、図表3に示したように、期を追って前年比プラス幅が縮小しており、前期比では7〜9月期に−2.9%と落込んだ。月別にみても、3ヶ月連続して前月比マイナスとなっている。

【生産増加の影響は家計に及ばず個人消費は弱い】
    家計調査によれば、7〜9月期の実質消費水準(全世帯)は、前期比−0.3%のマイナスとなった。前年比でみても、図表3に示したように、7〜9月期は−1.6%とマイナス幅を拡大した。
    同じ傾向は、百貨店とスーパーの売上高合計にも出ており、7〜9月期は前期比−1.9%、前年同期比−4.2%(前期は−3.4%)となった。GDP統計でも個人消費(実質)は7〜9月期に横這いとなった(図表2参照)。
    その中で乗用車だけは、秋の新型車売出しの効果もあって、7〜9月期に前期比+3.4%と増加した。もっとも、4〜6月期の同−7.9%減少の反動という面もあり、前年同期比では図表3に示した通り−2.1%と前年水準を下回っている。
    9月の生産増加は取敢えず時間外労働で賄われた面が大きく、雇用者数、とくに常用雇用は増えていない。9月の失業率も図表3の通り、5.1%で横這いである。生産急回復の動きは、まだ家計面に影響を及ぼしていない。

【本年度の実質成長率は2.5%に届くかどうか】
    7〜9月期の新設住宅着工は、年率111.5万戸にとどまり、図表3に示したように、前年水準を下回っている。年末に期限切れとなる住宅減税を当て込み、4〜6月期には駆け込み着工が出たが、再び低水準に戻った。7〜9月期GDP統計の住宅投資(実質)は、4〜6月期の駆け込み着工が工事ベースで尾を引いているためプラスとなったが、この先は落ちてくるであろう。
    公共工事請負額は、図表3に示した通り、前年比大幅なマイナスが続いている。国の公共事業予算が削減されているうえ、税収の落込みで地方の単独事業も抑えられているためである。7〜9月期GDP統計でも公共投資の減少が続いている(図表2参照)。
    以上の最終需要の動きを総括すると、輸出と設備投資に支えられた成長は続くものの、個人消費、住宅投資、公共投資が引続き弱いため、本年度の成長率は2.5%に届くかどうかという程度の緩やかな回復であろう。