2003年10月版
─ 中小企業、非製造業、地方経済を置き去りにした緩やかな回復の兆 ─
【電子部品・デバイス、情報通信機械、電気機械などが好調】
「輸出」と輸出関連大企業・製造業の「設備投資」にリードされて景気回復の気配が出ているが、今のところその足取りは極めて緩やかである。
8月の鉱工業生産は、予測指数の前月比+2.0%とは反対に、同−0.5%の低下となり、7月から生産が上向くのではないかという期待は裏切られた。もっとも、9月と10月の予測指数は夫々前月比+2.7%、同+1.4%の大幅上昇となっており、図表1に示したように、秋口からの回復を期待させる形となっている。これはあくまで予測なので、8月のように実績が予測を大きく下回ることはあり得る。
しかし業種別のなかみを見ると、輸出・投資リード型の回復を思わせる形となっている。すなわち、電子部品・デバイス、情報通信機械、電気機械、自動車などは、全体が落ちた8月を含め、8〜10月と一貫して上昇傾向を示している。
【輸出と設備投資の増加傾向が続く】
輸出と設備投資の動向を反映する一般資本財出荷をみると、7〜8月平均は4〜6月期の平均に比して+1.3%の水準にある。
また7〜8月の実質輸出の平均は、4〜6月期の平均に比して+2.1%の増加となった。同じ時期の実質輸入は、逆に−0.5%の減少となっているので、実質貿易収支は同じ時期に+15.2%の拡大となった。本年下期の米国景気の加速に伴なう日本の純輸出の増加が、本格化する兆と見られる。
他方、設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)をみると、本年1〜3月に前期比+5.8%、4〜6月期に同+3.4%となったあと、7月は4〜6月平均比+0.5%となり、増勢を保っている。
9月調査の「日銀短観」によると、本年度の設備投資計画の前年比は、大企業・製造業で+11.1%の大幅増加となった。また全規模・全産業でも、製造業が前年比+5.9%となっているため、全体も同+2.2%の増加に転じた。
【中堅・中小企業、非製造業を置き去りにした回復】
しかし、「輸出」と輸出関連大企業・製造業の「設備投資」を除くと、回復の兆はなく、いわば中堅・中小企業、非製造業、地方経済、個人家計を置き去りにした回復という形になっている。
9月調査の「日銀短観」における「業況判断DI」をみると、大企業・製造業は僅か1ポイントではあるが3年振りの「良い」超に転じた。しかし、製造業でも、中堅企業と中小企業は夫々−10、−23の「悪い」超であり、非製造業は大企業でも−13、中堅企業と中小企業は夫々−25、−31の大幅な「悪い」超となっている。
これは、国内の個人消費、住宅投資、公共投資など中堅・中小企業や非製造業に関係の深い需要項目に立直りの兆がないためである。輸出産業の少ない地方経済も、同様に停滞したままである。
【個人消費、住宅投資、公共投資は弱いまま】
7月の個人消費は、冷夏の影響を受けて家計統計(図表2の「実質消費水準」参照)も大型小売店統計も揃って不振である。ただ、乗用車新車登録台数は、新型車投入の効果もあって、4〜6月の前期比−7.9%の落込みから7〜9月は一転して同+3.4%の増加となった。しかし、依然として前年水準を下回っていることに変りはなく(図表2参照)、基調は弱い。
8月の新設住宅着工は、図表2に見られるように、再び前年を下回った。7〜8月の平均は4〜6月平均比−7.3%の減少である。これは、年末に期限切れとなる住宅減税の影響で、4〜6月に駆け込み着工があったことの反動とみられ、基調は引続き弱いままだ。
公共事業も、図表2に示した公共工事請負額にみられるように、前年を1割以上下回り、減少を続けている。
【政府見通しの2.1%成長は緩やかな回復の範囲内】
以上のように、本年下期に向けた回復の兆しは、輸出関連の大企業・製造業に偏っており、経済全体としては明るさはみられない。8月の就業者数、雇用者数、常用雇用は、いずれも前年水準を下回っている。
株価が日経平均で1万円の大台、TOPIXで1000の大台を維持しているのは、1部上場企業の約半分が大企業・製造業で占められているためである。
4〜6月期の実質GDPが2次速報値で上方修正され、年率+3.9%の成長となったため、本年度の成長率は+1.9%のゲタをはいた。これを受けて政府は、本年度の成長率見通しを+0.6%から+2.1%に上方修正した。
しかし、95年度以降、3%台成長をした年が3回もあることから分かるように、2.1%は決して高い成長率ではない。