2003年8月版

─ 先行きに好転気配はあるものの足許は停滞気味 ─

【輸出の減少を主因に生産の下落傾向続く】
   本年1月をピークに低下傾向に転じた鉱工業生産は、6月も前月比−1.2%の下落となった。この結果、4〜6月期の生産は前期比−0.6%の減少となり、平成13年10〜12月期以来6四半期振りのマイナスとなった(以上図表1参照)。
   生産が下降に転じた主因は、外需の減少である。本年上期の米国経済は、イラク戦争に伴なう先行き不透明感や現実のガソリン価格の高騰などから成長が鈍化した。欧州経済もドイツ、イギリスを中心に景気は弱くなっている。アジアでも中国は新型肺炎の悪影響を受けた。このような世界経済の鈍化傾向から、日本の実質輸出は1〜3月期に続いて4〜6月期も減少した。他方実質輸入は増えている。このため、実質GDPベースの純輸出は、1〜3月期に続いて、4〜6月期もマイナスとなり、経済成長の足を引張ったと見られる。

【足許の設備投資は低調、住宅投資は一時的に増加か】
   内需も足許の4〜6月期に関する限りあまり強くない。まず投資関係をみると、設備投資の一致指標である一般資本財出荷の4〜6月期は、前期比−3.0%の減少となった。前年同期比も+0.4%とプラス幅を縮小している(図表2参照)。これには輸出の減少も多少響いていると見られる。
   4〜6月期の公共工事請負額は、前期比−5.6%の減少と低下を続けており、前年同期比マイナス幅も−13.0%に拡大している(図表2参照)。公共事業を3%カットした本年度予算が執行されているうえ、地方自治体の単独事業も財政難から抑制されているので、図表3に明らかなように、当分経済成長の重石となるであろう。
   同じように下落傾向を続けている住宅投資は、4〜6月期に久し振りに新設住宅着工戸数が119.8万戸(年率)となり、前期比+4.3%の増加となった。水準も前年を上回った(図表2参照)。持家系中心の一時的な動き(年末の投資減税の期限前の駆込み着工)かも知れないが、4〜6月期の住宅投資は下げ止まりから若干のプラスになるかも知れない。

【消費は区々の動きながら4〜6月期は増加の可能性】
   やや判断の難しいのは個人消費である。百貨店・スーパーの合計売上高は、4〜6月期も前期比−1.7%、前年同期比−3.4%の減少となった。乗用車新車登録台数も、4〜6月期は前期比−7.9%、前年同期比−3.6%の減少である。もっとも7月は前月比+4.2%の増加となった。新車販売前の抑制と販売開始に伴なう反動増かも知れないが、単月の動きではまだはっきりしない。
   このような4〜6月期の一部消費指標の弱い動きとは裏腹に、鉱工業統計の消費財出荷は、4〜6月期に前期比+0.5%の増加となった。上記の統計には含まれていないカメラ付携帯電話や液晶TVなどの耐久消費財が伸びているためである。
   同じように、家計調査の全世帯消費支出(実質)は、6月に前月比+5.0%と大幅に伸び、前年比もプラスに転じた(図表2参照)ため、4〜6月期全体としても、前期比+1.9%の増加となり、前年比のマイナス幅も−0.3%に縮小した(図表2参照)。

【夏期ボーナスは前年を上回り、就業者数も増加の気配】
   このような鉱工業統計や家計調査における消費立直りの兆が、7月以降につながる基調的な動きかどうかはまだ分からない。
   所得面の動きをみると、本年4月のベア率が昨年を僅かに上回ったのに続き、本年夏のボーナスも、経団連調べの213社の平均が806,056円となり、昨年夏のボーナス比+4.74%、昨年冬のボーナス比+2.06%と共に上回った。これを反映して一人当り名目賃金(全産業)は、5月に続き、6月も前年水準を上回った(5月+0.6%、6月+1.7%)。
   他方、就業者数は、リストラの進む製造業では前年を引続き下回っているが、福祉関係を含む非製造業では前年を上回り、5月と6月は全体としても6年振りに前年を上回るに至った(5月+0.1%、6月+0.6%)。
   このような所得、雇用面の動きが夏の間の一時的な動きか、基調的な動きか、見守っていく必要がある。

【設備投資の先行指標に好転の兆】
   所得、雇用面の動きに加え、もう一つ変化の兆が出ているのが設備投資である。足許4〜6月期の設備投資は前述の通り冴えないが、先行きを示す機械受注(除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比−10.5%の大幅減少となる見通しであったが、4〜5月の実績を平均すると、4〜6月平均比+1.5%の増加となっている。
   また民間からの建設工事受注額(除く住宅、大手50社)は、4〜6月期に前期比+27.1%の大幅増加となり、前年比+24.9%のプラスに転じた。
   これらの設備投資先行指標の動きから判断すると、本年度の設備投資が今後全体としてプラスに転じる可能性が出てきた。

【4〜6月期は小幅のプラス成長か】
   以上を総括すると、まず足許の4〜6月期実質GDPは、個人消費と住宅投資がプラスとなるため、純輸出と公共投資がマイナス、設備投資が弱含みとなるものの、僅かのプラス成長となる可能性が高い。
   しかし先行きについては、企業収益の回復に伴なうキャッシュフローの増加が、ようやく賃金、雇用、設備投資に向かう兆が出てきた。7月と8月の生産予測指数も上向いている(図表1参照)。しかし、日経平均で9千円台まで回復した株価がこの1ヶ月足踏みしていることにも示されているように、このまますんなりと回復に向かうとは必ずしも見られない。米国景気は本年下期はよいとしても、来年が不透明であるなど多くの不安材料がある。詳しくはこのHPの「最新コメント」欄"株価回復が一服した経済的背景"(H15.7.22)を参照されたい。