2003年7月版

─ 足許は弱いが先行き感に変化の兆 ─

【4〜6月期の生産は前期比ほぼ横這い】
日本経済の足許は相変らず冴えないが、先行き感を示す指標に変化が出てきた。株価と長期金利が、極端に突込んだ水準から3〜4割ほど回復した。それでも水準としてはまだ低いが、極端な悲観論に基ずく株価や長期国債価格のバブル(逆バブル?)が破裂したようだ。
まず足許から見よう。5月の生産指数は予測(+2.6%)とほぼ同じ+2.5%の大幅上昇となり、6月の予測も+1.2%の上昇と2ヶ月連続の上昇が見込まれている。図表1を見れば明らかなように、6月の実績が予測通りとなれば、本年1月をピークに下落してきた生産活動は、再び1月の水準を回復することになる。
それでも4〜6月期を平均すれば、前期比+0.1%にすぎず、昨年4〜6月期の+2.8%をピークに期を追って鈍化してきた生産活動の増勢は、本年4〜6月期に至ってほぼゼロとなる訳である。しかも7月の予測指数は、再び前月比−0.7%の低下となっている。生産が増加基調に転じたと見るのはまだ早い。

【5月の名目賃金は2年1ヵ月振りに前年を上回る】
需要側をみると、まず実質輸出は4月まで減少傾向にあったが、5月は久し振りに前月比+3.3%の増加となった。1ヶ月の動きではまだ分からないが、イラク戦争の短期終結に伴なう安堵感から5月の米国の消費者信頼感指数と総合景況指数が5ヵ月振りに上昇したことが示すように、米国景気が弱い中にも多少の変化を示していることの反映かも知れない。しかしもう少し時間をかけて見る必要がある。
国内では、個人消費の動きが読みにくくなっている。5月には失業者の増加が頭を打ち(失業率は5.4%で横這い。図表2)、雇用者数が少し増えた。生産増加の動きと平仄が合っている。また一人当り名目賃金が2年1ヵ月振りに前年水準を上回った(+0.5%)。それも時間外労働の影響ではなく、基本給が前年を0.3%上回ったためである。
大手294社のベア妥結結果をみると、確かに本年のベア率の加重平均は1.65%と、6年振りに前年(1.59%)を上回った。本年3月期の上場企業が二桁増益であったことの反映であろう。

【5月の消費は所得増加を背景にやや持直し】
このような雇用、賃金面の動きが回復の始まりかどうかは、もう少し見ないと判断できない。更にそれが個人消費の回復につながるかどうかは、消費者の先行き観も影響するので、まだ何とも言えない。
しかし4月の勤労者世帯の家計調査では、可処分所得の増加を反映して個人消費が増えた。また4〜5月平均の消費財出荷指数は、1〜3月平均を+0.5%上回った。百貨店とスーパーの売上高合計も、前月比で4月に−2.5%と減少したあと、5月には+1.1%と増加した。
5月を中心としたこれらの動きが、消費回復の始まりかどうかは、6月以降の動きを見ないとまだ判断は難しい。
新設住宅着工は、5月も年率116.6万戸と低迷し、前年水準を下回っている(図表2)。

【設備投資は冴えず公共投資は大幅続落】
次に設備投資は、ここへ来てやや弱い動きが目につく。4〜5月平均の一般資本財出荷は、1〜3月平均比−5.1%の低下となり、前年比マイナス幅も拡大している(図表2)。
また先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)も、4月は前月比−1.8%の減少となった。この水準は、1〜3月平均に比べて−1.7%低い。予想では、4〜6月期は前期比−10.5%の大幅下落となっている。もっともこの予想には、イラク戦争開始直後の先行き警戒感が強く響いており、結果的にはこれ程の落込みにはならないのではないか。
他方、公共投資は図表3に見られるように一貫して下落している。5月の公共工事請負額も前年比マイナス幅を一段と拡大している(図表2)。小泉改革予算の下で、公共投資は引続き需要回復の足を引張り続けるであろう。

【本年下期の輸出と設備投資に景気けん引の期待】
以上のように、日本経済の足許は全体として引続き冴えないが、人々の先行き感を示す株価や長期金利は回復している。これには少なくとも三つの理由が考えられる。
第1に、本年下期の米国経済の回復期待である。これに伴なう米国の株価上昇と日本の輸出回復期待が、日本の株価に好影響を与えている。米国の経済成長率は、イラク戦争に伴なう不安感の解消と大型減税のスタートで、本年下期には上期に比し上昇する可能性が高い。これによって、年初来減少傾向を辿ってきた日本の輸出が回復に転じ、日本の経済成長率も上期のゼロ成長ないしマイナス成長を脱してプラスになると期待される。
第2に、足許の設備投資はやや弱いが、本年6月調査の「日銀短観」によると、本年度の大企業製造業の設備投資計画が上方修正され、前年比+11.5%の増加となった。これを含む全規模全産業の設備投資計画も、本年度は前年比−0.1%とほぼ横這いとなった(因みに前年度実績は−7.7%の減少)。中小企業の計画は現在−13.0%の大幅減少であるが、時の経過と共に上方修正されるのが普通であるから、最終的には本年度の設備投資が経済全体のけん引力に転じる可能性が出てきた。

【製造業は本年度も二桁増益の予想】
第3に、本年度の企業実績の予想が好転している。同じく6月調査の「日銀短観」によると、全規模全産業ベースで見て、本年度の売上高は前年比+0.2%の増加とほぼ横這いの予想にとどまっているが、経常利益の前年比は0.9%上方修正されて+9.5%の増益予想となっている。特に製造業の増益率は、大企業が+11.6%、中堅企業が+15.6%、中小企業が+29.2%に達している。
売上高が横這いの下で二桁の増益予想となっているのは、企業のリストラ努力による損益分岐点の低下によるものと見られるのが、この結果、売上高経常利益率は大企業と中小企業ではバブル崩壊後の最高水準となる予想である。
もしこれが本当に実現すれば、確かに今の株価は低過ぎるかも知れない。またこの企業利益が設備投資の増加や雇用・賃金の回復に結びつけば、民需主導の本格的な回復になる。
果してそうなるのか。現実の政策の推移と企業の先行感の変化をもう少し見極めなければ、結論は出せない。