2003年5月版
─ 海外景気悪化に伴なう純輸出減少で景気は当分停滞 ─
【生産は2月以降3ヶ月連続で下落】
3月の生産指数の実績は、予測の+2.8%の大幅上昇とは逆に、−0.2%の下落となった。4月の予測も−0.9%の下落となっているので、実績が予測通りとなれば3ヶ月連続の下落となる(図表1参照)。5月の予測は+2.1%の大幅上昇となっているが、実績が予測を下回り続けている最近の傾向から判断すると、上昇するとしてもこのように大幅となるかどうかは疑わしい。生産活動は図表1から直観的にも読みとれるように、本年1月をピークに2月以降弱含み傾向にある。
指数の基準年が従来の95年から2000年に改訂されたことに伴ない、伸び盛りの新製品(液晶テレビ、DVD−ビデオ、デジタルカメラ等)が新たに採用され、減産傾向の旧製品(ブラウン管、ステレオ、デジタルオーディオディスクプレーヤー等)が非採用となったため、最近の生産の傾向も旧基準で見ていた姿とは変った。
【基準時改訂後の生産も輸出鈍化で弱含みに】
図表1と4月版以前の「月例景気見通し」の古い図表1を比較すると分かるように、従来は月で言えば昨年8月、四半期で言えば昨年7〜9月期をピークに生産、出荷は弱含みとなっていた。しかし新基準では、ピークは本年1月と本年1〜3月期であり、2月以降あるいは4〜6月期以降弱含みに転じる形となっている。
昨年初め頃からの生産回復も、本年初め頃からの生産弱含みも、共に輸出向けの多い自動車、電子・電気機械、一般機械などにリードされた動きである。基準時改訂に伴ない、電子・電気機械の比重が高まった結果、全体として回復の勢いがやや強くなり、ピークも後にずれた。しかし、米国の景気足踏みに伴なう輸出停滞によって、これら3品目を中心に生産全体が弱含みに転じる動きに変りはない。
因みに3月の実質輸出は前月比−3.1%の減少となり、1〜3月期も前期比−0.8%の減少に転じた。実質輸出の前年同月比伸び率も、昨年11月の+19.4%をピークに本年3月は+6.2%にまで鈍化した。
【イラク戦争とSARS流行で輸出環境の悪化は続く】
米国では、イラク戦争に伴なう先行き不透明感から、本年に入って消費マインドと企業マインドがいずれも悪化している。消費マインドにはイラク戦争に先立つガソリン価格の上昇も悪影響を及ぼしていた。週間小売売上げ高はイラク戦争開始後に減少に転じている。
企業マインドも先行き見通し難から慎重化しており、設備投資の先行指標である資本財の受注が減少している。これらの結果、4月の失業率は0.2%ポイント上昇して6.0%となった。
他方アジアの景気は緩やかに拡大しているが、今後は米国向け輸出の鈍化に加え、SARSの流行拡大に伴なう生産、貿易、旅行など経済活動全般への悪影響が次第に表面化してくると見られる。
従って、日本の生産活動弱含みの主因となっている海外景気の頭打ち傾向は今後一段と強まり、輸出の悪化を通じる日本の景気抑制傾向は当分続くとみられる。
【公共投資落込みの悪影響が目立つ】
国内需要に目を転じると、このところ公共投資低下の悪影響が生産活動でも目立ち始めた。図表2に示したように、公共工事請負額の前年比マイナス幅は、本年2月に−12.1%、3月に−15.6%と拡大しているが、生産面でも鉄骨、橋りょうなどの金属製品が3月は前月比−8.4%、前年同月比−6.6%と大幅に減少し、輸出関連品目のマイナスと並んで生産全体を押し下げている。
もう一つ、ここへ来て一段と弱くなっているのが個人消費である。3月の消費者態度指数は12月に較べて悪化し、2期連続の低下となった。1月と2月の全世帯実質消費は、図表2の通り、昨年11月以来4ヶ月連続で前年を下回っている。1〜3月期の百貨店・スーパーの合計売上高は前期比−0.3%、前年比−1.9%と減少した。同期の家電販売額も、前期比−1.4%、前年比−2.3%と振るわない。ただ、乗用車新車登録台数は図表2の通り、期末の販売努力もあって1〜3月期は前年比+7.4%と大きく伸びたが、その反動で4月は同−7.1%と落込んだ。
【製造業の設備投資に中期循環的底入れの気配】
こうした中で唯一明るい動きと言えるのは、製造業の設備投資が下げ止りとなり、設備計画などによれば本年度は微増に転じる気配のあることである。先行指標である製造業からの機械受注は、10〜12月期に前期比+3.9%となったあと、1〜2月平均の10〜12月平均比は更に+5.9%となった。このため民需全体(除船舶・電力)としても、図表2に示したように、本年に入って前年を上回り始めた。建設工事受注額も、製造業からの受注だけ見ると、本年1〜3月期は前期比+11.8%、前年比+11.7%と回復した。
中期的にみると、製造業の設備投資は2000年に小さな山があったものの、大勢としては97〜02年の6年間も停滞しており、ストック調整原理から言っても、技術の陳腐化から考えても、中期的な上昇局面を迎えている。
ただし、小泉改革と世界経済悪化の下では先行きの不透明感が強過ぎるため、回復力には力強さが欠けている。
【1〜3月期の実質GDPはゼロ成長近傍の動きか】
以上を総括すると、間もなく発表になる1〜3月期の実質GDPは、純輸出、公共投資、住宅投資がマイナス要因、設備投資がプラス要因となり、全体としては個人消費次第でプラス成長にもマイナス成長にもなりうるゼロ成長近傍の動きとなろう。
しかし仮にプラス成長の場合でも、過大推計のきらいがある10〜12月期の実質GDP(年率2.2%成長)よりは低い成長率であろう(図表3参照)。もっとも、過大とみられる10〜12月期の個人消費や設備投資が大幅に下方修正されたりすると、1〜3月期にも影響が出て統計的に攪乱される恐れがある。