2003年4月版

─ 株式市場と実体経済に強弱相反する動き ─

【増益予想にも拘らず株価はバブル崩壊後の最安値で越期】
 懸念された年度末は、危機こそ発生しなかったものの、株価は日経平均が8千円割れ、TOPIXが8百割れというバブル崩壊後の最安値で越期した。このため、銀行、生保、株式保有の多い大企業などの評価損は多額にのぼった。とくに生保は、これによって剰余金が大きく圧縮され、債務超過にまた1歩近付いた会社があるのではないか。その意味で、金融危機は表面にこそ現われなかったが、水面下で静かに進行していると言えよう。しかし、このような金融面の危機的状況とは裏腹に、実体経済面ではここへ来て下げ止りを思わせる指標がぼつぼつ出始めているのが最近の特色である。
 特に上場企業(金融の除く)の収益は、平成14年度に3年振りに数十%の増益に転じたあと、平成15年度も十数%の増益持続と予測されている。中堅中小企業を加えた日銀「短観」(15年3月調査)の全規模全産業のベースでみても、14、15年度に2期連続の増益が予測されており、15年度の売上高経常利益率は3年前の12年度のピーク水準に戻ると見込まれている。

【増益予想の背後にリストラによる損益分岐点の低下】
 増益の持続予想にも拘らず株価が下がっているのは、イラク戦争と日本のマクロ経済政策(その背後に政情)の今後が読めず、投資リスクが極めて高いためであろう(詳細はこのHPの「論文・講演」―「BANCO」"増益予想化の株安"(H15。3、27)参照)。
 この増益予想は、イラク戦争が泥沼化したり、小泉政権が秋の補正予算も組まずに政策不況を年末まで続ければ崩れる。反対にイラク戦争が1か月程度で片が付き、小泉政権が9月末までに退陣ないしは政策転換をすれば、一定の実現性を持っている。
 増益の第一の理由は、無駄の排除で損益分岐点がかなり下がっていることである。2月の失業率は5.2%へ下がったが(図表1参照)、これは女子の失業率が大きく下がったためである。このところ企業は、割高の40才台、50才台の男子常用雇用を削減し、割安の女子と若年の臨時雇用を増やし、人件費を圧縮していることが大きな背景とみられる。
 また増益に伴なうキャッシュフローの増加を使って、無駄な不動産の損切り売り、過剰設備の廃業、借入金の返済などを進めている。

【昨年8月をピークに弱含みに転じた生産に下げ止り気配】  増益予想の第二の理由は、実体経済の一定の回復である。図表2に示したように、鉱工業生産は昨年の8月をピークに弱含みに転じ、10~12月期は4四半期振りに前期比マイナスとなったが、それが1〜3月期には再びプラスに転じる気配がある。
 2月の生産実績は前月比―1.7%と予測(−0.4%)を上回る大幅な下落となったが、そのあとの予測指数は3月が+2.8%、4月が+0.2%と大きくリバウンドする。最近は実績が予測よりも常に低目に出るので割引かなければならないが、仮りに予測通りであるとすれば、1〜3月期は前期比+0.3%の増加に転じる。4月も引続きプラスの予測になっていることと併せて考えると、生産活動は下げ止ってきたのかも知れない。

【製造業の設備投資は3年振りにプラスに転じている】
 業種別にみると、この生産下げ止まりを支えているのは一般機械と電気機械である。この二業種は輸出好調の業種であるが、国内需要面では製造業の設備投資と関係が深い。
 3月調査の日銀「短観」によると、平成15年度の設備投資計画は、大企業製造業と中堅企業製造業で3年振りにプラスに転じた。また設備投資の6~9月の先行指標である機会受注(民間)みると、製造業からの受注は昨年10~12月期に前年比+10.5%と3年振りに前年水準を上回り、本年1月も同+27.0%と大きく伸び続けている。
 このような設備投資の計画や機械受注から判断すると、製造業の設備投資は3年振りに回復の循環過程に入ってきたようだ。3月調査の日銀「短観」の「設備判断DI」をみても全規模製造業の「過剰超」幅は昨年12月の23から本年3月は20へ、先行きは19(大企業のみでは18)へと着実に減って行く傾向を示している。

【引続き純輸出は増加、公共投資と住宅投資は減少】
 他の需要項目では、公共投資と住宅投資が引続き弱い(図表1参照)。反面、輸出は1月も2月も着実に伸びており、輸入が減少していることもあって、純輸出は1~3月期も成長を下支える要因となりそうである(図表3参照)。
 やや解釈が難しいのが個人消費だ。百貨店とスーパーの売上高合計は、前月比で1月は+1.9%、2月+2.0%と2か月増加した。前年比も2月は+0.2%と僅かながら前年を上回った。
 家計調査は1月までしか出ていないが、実質所得(勤労者所帯)と実質消費(全世帯と勤労者世帯)が共に前月比で増加した。しかし前年の水準に比べればまだ低い(図表1参照)。生産活動が再び回復し始めたとしても、企業のリストラ努力の下ではなかなか家計の所得、消費には響いて来ないのではないか。

【微妙な転換点に立つ日本経済】
 以上を総合すると、製造業の設備投資に循環的回復の兆しが出ていることが大きな注目点である。しかし、この動きを伸ばすのも抑えるのも、今後のイラク情勢次第である。政策転換がなく、イラク情勢が泥沼化すれば、設備投資の循環的回復もつぼみのままでしぼんでしまうであろう。
 その意味で日本経済は、いま微妙な転換点に立っている。本来であれば、政策がこの転換をあと押しすべきであるが、小泉改革にはそのシナリオが欠けている。