2003年3月版
─ 10〜12月期の0.5%成長は過大推計 ─
【個人消費と設備投資の政府推計は過大ではないか】
10〜12月期の実質GDPは、前期比+0.5%(年率2.0%)の増加と大方の民間エコノミストや私自身の予想(ゼロ%前後でマイナス成長もありうる)を裏切ってやや高目の成長率となった。この結果、図表1に見られるように、日本経済は4四半期連続のプラス成長となり、その水準は過去最高の2001年1〜3月期に接近した。
大方の予想と政府の推計が異なった主因は、個人消費と設備投資にある。図表1に窺われるように、政府推計では個人消費が前期比+0.1%の増加、設備投資は同+1.0%の増加で、両者を合計すると成長率に対する寄与度は+0.3%となる。
これに対して大方の民間エコノミストや私は、10〜12月期の全世帯消費支出(実質)が前期比−2.4%の減少、一般資本財出荷が輸出の増加にも拘らず同−2.1%の減少となったことなどを根拠に、個人消費も設備投資もマイナスと見ていた。
政府推計の根拠は不透明であり、説明責任を欠いていると言わざるを得ない。
【生産は一高一低のうちに弱含み横這い】
鉱工業生産は、この政府推計GDPとは裏腹に、10〜12月期は前期比−1.0%の減少に転じ、4四半期振りのマイナスとなっている。続く1月の実績は前月比+1.5%の増加となったが、これは予測段階の同+2.1%を下回っている。また2月と3月の予測は、同−0.4%の低下、+0.6%の上昇となっているが、図表2を見れば明らかなように、月で言えば昨年8月、四半期で言えば昨年7〜9月期をピークに、一高一低のうちに弱含み横這いとなっている。
これは4四半期連続のプラス成長という政府推計GDPとは、相容れない動きだ。鉱工業生産とは関係のないサービス産業が大きく拡大していなければ、このようなGDPと鉱工業生産の乖離は生じないが、サービス産業拡大の証拠はどこにもない。10〜12月期の第三次産業総合活動指数は前期比−1.0%である。
【年明け後も雇用、賃金の悪化は続いている】
1月の労働統計には弱い動きが出ている。前月に比べ雇用者数は減少し、完全失業者数は増えたので、失業率は既往最高の5.5%に並んだ(図表3参照)。企業は割高な40才台、50才台の男子常用雇用を整理し、女子と若年の臨時雇用や時間外労働で企業活動を維持する傾向を続けている。常用雇用(事業規模5人以上ベース、全産業)は26ヶ月連続で前年を下回り、所定外労働時間(同)は7ヶ月連続で前年を上回っている(図表3参照)。
1月の一人当り名目賃金(同)も、ボーナスの落込みが大きいため、時間外手当の増加にも拘らず21ヶ月連続で前年を下回った。勤労者の所得は雇用、賃金の両面から前年を下回っているに違いない。10〜12月期のGDP統計中の家計名目消費が前年を上回っているのは、やはり推計方法に問題があるとみられる(例えば帰属家賃支出の過大推計)。
【純輸出は10〜12月に続き1月も増加】
年明け後やや強目の動きが出ているのは、輸出、設備投資、住宅投資の関連指標であるが、1月だけの動きなので、これだけで傾向的な動きと判断するのは早計である。
1月の実質輸出は前月比+0.7%の増加、10〜12月平均比+0.6%の増加となった。反面1月の実質輸入は、前月比−2.7%の減少、10〜12月平均比+0.5%の増加となったので、この傾向が続けば、10〜12月期(図表1参照)に引続き、1〜3月期も外需は成長率に対してプラスの寄与となる。しかし、イラン情勢の不透明感から、米国では投資マインドも消費マインドも慎重化しており、世界経済全体に様子見気分が広がっているので、果して日本の輸出が1〜3月期に伸びるのか、現段階では判断できない。
【製造業の設備投資に下げ止まりの気配】
設備投資関連指標では、1月の一般資本財出荷が前月比+5.5%の増加、10〜12月平均比+5.8%の増加となった。輸出増加の影響を差し引いても、設備投資が増えた可能性はある。しかし、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10〜12月期に前期比+0.3%と下げ止まったが、1〜3月期の予想は同−3.5%と下落する見込みなので、大勢として設備投資が底入れしつつあるとはみられない。
但し、製造業からの機械受注は、13年10〜12月期をボトムに緩やかな上昇傾向を示しているので、輸出関連(自動車、精密機械)を中心に底入れの可能性がある。
新設住宅着工は119.5万戸(年率)と10〜12月平均に比して+4.7%と増加したが、1ヶ月だけの動きで住宅投資に下げ止まりの気配が出たとは言い難い。