2002年10月版

─足許は緩やかに回復しているが先行き感は悪化─

【生産の緩やかな回復が雇用の改善に結び付かない】
鉱工業生産と出荷の回復は、6月と7月に足踏みしたあと、8月から緩やかながら再び始った(図表1参照)。これをリードしているのは、引続き自動車、電子部品、一般機械など輸出好調の業種である。
6月と7月の足踏みは、恐らく在庫調整完了後の在庫補充が一巡したためであろう。
しかし、この緩やかな生産回復傾向は、依然として雇用、賃金の回復に結び付いていない。企業は生産回復を時間外労働と臨時工で賄っており、常用雇用は減り続けている。回復するかに見えた求人数も、8月には前月比で減少した。完全失業率は5.4%の高水準で4ヵ月間も横這っている。
これは、回復した生産の水準がまだ98年の橋本不況時のボトム水準にすぎないうえ(図表1参照)、本年度下期以降の景気動向について、かなり不透明感が強いためと思われる。

【株価下落と並んで企業の先行き感も下方修正】
本年9月調査の「日銀短観」によると、業況判断DIは各規模各産業において引続き「悪い超」のまま、その改善テンポが前回6月調査に比べて鈍化している。
また、8月以降政府が打出した「先行減税」が、規模の小さいことや将来の増税予告付であることなどから株式市場の失望売りを誘い、株価がバブル崩壊以後の最安値を更新していることも、企業の先行き感を暗くしている。
この傾向は、最近打出された不良債権処理の「加速」方針が、一段と不況を深めるのではないかという懸念によっても強まっている。10月3日(木)には日経平均が9000円を割り、TOPIXの900割れも一段と進んで、株価水準はバブル発生前の80年代始め頃の水準まで下っている。
9月調査の「日銀短観」によると、本年度の売上計画は、全規模全産業ベースでみて、6月調査比−0.6%と下方修正され、−0.5%の減収予想に変った。7〜9月中の株価下落は、企業自身の先行き感の悪化と軌を一にした動きである。

【足許の個人消費は小確かり、一般資本財出荷も反転か】
しかし足許の需要動向は、比較的小確かりしており、現時点で悪化の兆はない。個人消費は、所得の減少にも拘らず、猛暑の影響もあって消費性向が上がる形でやや持ち直している。8月の百貨店とスーパーの売上高は前月比+4.6%伸びて前年水準を僅かに上回った。乗用車新車登録台数も8月と9月は前年を上回り、7〜9月平均でも前年比+6.1%となった(図表2参照)。
設備投資と輸出の動向を反映する一般資本財出荷も、7〜8月平均の4〜6月平均比は+2.2%となった。9月の動向にもよるが、7〜9月期は7四半期振りに前期比プラスになるかも知れない。

【設備投資の先行指標に底入れの気配】
設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、4月から7月まで4ヵ月連続して前月比プラスとなった。この結果4〜6月期は+7.1%と4四半期振りのプラスとなったあと、7月は4〜6月の水準に比し+3.9%と更に上昇している。また建設工事受注額(民需、除住宅)も7〜8月平均の4〜6月平均比は+6.6%と増加し、9月の動向次第では7〜9月期に5四半期振りに前期比プラスとなるかも知れない。従って、現実の設備投資も本年度下期には下げ止まるか、若干上昇する可能性が出てきた。もっともその場合でも、本年度の設備投資合計は前年比マイナスになるであろう。「日銀短観」の設備投資計画も本年度は前年比−4.5%となっている。

【住宅投資と公共投資は引続き減少】
個人消費と設備投資以外の国内需要は引続き弱い。新設住宅着工戸数は、7月と8月に前年比マイナス幅を拡大しており(図表2参照)、住宅投資は減少している。
公共工事請負額も7月、8月と前年比マイナス幅を拡大している(図表2参照)。国債発行額の上限30兆円を守る小泉政権の方針に変更がない限り、景気対策として有効な秋の補正予算編成は不可能である。このため、本年度下期を展望しても、公共投資は景気の足を引張り続けるであろう。

【輸出の鈍化と輸入の加速で純輸出は悪化傾向】
今年に入って景気を下支えしてきた輸出は、ここへきて明らかに伸びが鈍ってきた。実質輸出の前期比は、本年1〜3月期+4.7%、4〜6月期+7.8%と高い伸びを続けたが、7〜8月平均の4〜6月平均比は+1.4%と大きく鈍化した。
他方、実質輸入の前期比は、本年1〜3月−1.9%のあと、国内の生産回復、プラス成長転換を反映して4〜6月は+2.6%の増加に転じ、7〜8月平均の4〜6月平均比は+3.8%と更に伸びを高めている。
この結果、本年に入って成長を下支えてきた純輸出(図表3参照)は、輸入の伸びが輸出の伸びを上回ってマイナスに転じ、成長の足を引張り始めるかも知れない。年初来の円高傾向と米国や欧州の景気変調が、本年下期の日本の景気に響いてくる可能性がある。

【7〜9月期は前期に続いて緩やかなプラス成長か】
以上を総合すると、株価下落に示されるように、企業の先行き感は政策不信で悪化しているが、足許の7〜9月期は前期(図表3参照)に続いて緩やかなプラス成長を続けていると見られる。
7〜9月期は個人消費が増加し、設備投資も横這い圏内の動きとなるため、住宅投資と公共投資は弱いものの、国内需要がプラス成長を支えたのではないか。ただし、外需(純輸出)の下支え効果は、かなり薄れてきたと見られる。