2002年9月版

-国内が弱いまま外需に衰えの兆-

【1〜3月期は5.7%成長からゼロ成長へ下方修正】
4〜6月期の実質GDP(速報)は、前月の「月例景気見通し」( 2002年8月版)で予想した通り、輸出と個人消費の増加を主因に前期比+0.5%(年率+1.9%)の緩やかなプラス成長となった(図表1参照)。
また、1〜3月期の実質GDP(前期比+1.4%、年率+5.7%)は、これが発表になった直後の6月版「月例景気見通し」で過大推計であると指摘し、7月版「月例景気見通し」で下方修正されるであろうと予想したが、その通りになった。個人消費の下振れを主因に年率+5.7%の大幅なプラス成長から、年率−0.0%のゼロ成長へ、大きく下方修正された(図表1参照)。
1〜3月期がほぼゼロ成長であったことは、各種の経済統計から十分予測できたことである。私は5月版の「月例景気見通し」で「ゼロ成長近傍の動きとなるであろう」と指摘 していた。それが速報値で年率+5.7%の高成長と発表され、2ヵ月後にゼロ成長に修正されたのである。GDP統計の信頼性は地に落ちたと言うべきであろう。

【2001年度は戦後最悪の−1.9%のマイナス成長】
竹中経済財政担当大臣は、TVなどで4〜6月期がプラス成長であったことを誇らしげに述べるだけで、1〜3月期の成長率の大幅下方修正には触れていない。それを突っ込まないで、4〜6月期のプラス成長だけをクローズ・アップして伝えるマスコミのレベルの低さにも、困ったものである。
1〜3月期の大幅下方修正には、見逃すことの出来ない二つの意味が隠されている。
第一に、小泉首相はこの+5.7%という大幅プラス成長を持って6月のサミットに赴き、景気底入れを先進国首脳にアピールした。それを2ヵ月後に平気でゼロ%に修正して、国際的信用はどうなるのか。嘆かわしい事だ。
第二に、1〜3月期の大幅下方修正によって、2001年度の平均成長率も、−1.3%から−1.9%に大きく下方修正された。これは年間平均成長率としては、戦後最悪の大幅なマイナス成長である。四半期別の推移をみても、2001年4〜6月期から2002年1〜3月期まで、4四半期連結のマイナス成長である(図表1参照)。これも戦後初めてのことである。

【4〜6月期の実質GDPは前年度平均を下回る水準】
4〜6月期の実質GDPはプラス成長になったとはいえ、図表1に明らかなように、その水準はまだ昨年7〜9月期の水準にも及ばない。昨年度の平均実質GNPに比べても、僅かに低い。従って、本年7〜9月期以降ゼロ成長で推移すると、2001年度に続き、2002年度もマイナス成長となってしまう。
4〜6月期のプラス成長は、個人消費と在庫投資と輸出の増加によるもので、設備投資、住宅投資、公共投資はすべて減少を続けている(図表1参照)。
このうち個人消費は、百貨店、スーパー、チェーンストアなどの販売統計で見ても、家計の支出統計で見ても、確かに4〜6月期は前期比プラスとなった。しかしその後7月は大きくマイナスとなっている。家計統計を見ると、4〜6月期の消費増加は個人所得の増加に裏付けられたものではなく、消費性向がハネ上がったことによるものである。気候の関係で4月と6月に春物と夏物の動きが良かったためであり、その反動が7月の減少に出たものと思われる。
8月は猛暑が続いていたので、再び消費性向が上がる形で個人消費が伸びたかも知れないが、7〜9月期全体としてどうなるかは、現時点では分からない。

【時間外労働は伸びているが常用雇用は増えていない】
しかし、個人所得が引き続き冴えない動きをしていることから判断すると、たとえ猛暑で
一時的に消費が伸びたとしても、持続する可能性は低い。最近の株価下落も、消費マインドに悪影響を及ぼしているであろう。
個人所得の裏付けとなる雇用・賃金の動向をみると、鉱工業生産の増加を反映して時間外勤務は伸びているが、常用雇用は減少を続けており、完全失業率は5.4%の高水準で横這いとなっている(図表2参照)。賃金も、時間外は増えているが、夏季ボーナスが大きく落ち込んでいるので、全体として前年比マイナス幅が拡大している。
これ迄のところ、鉱工業生産の増加は雇用・賃金の改善を通じて個人消費を回復させる
動きを見せていない。企業の先行感が極めて慎重なためであろう。

【生産は6月と7月に減少し回復にもたつき】
図表3に明らかなように、製品在庫率は一段と低下している。在庫調整の完了に伴なう
在庫補充の動きで、4〜6月期に5四半期振りにプラスに転じた在庫投資は、7〜9月期
にもプラスを続けるであろう。
鉱工業生産と出荷は、図表3に示したように、6月、7月と2ヵ月連続して減少したが、予測指数によると8月と9月は再び水準を上げそうである。もっとも、7月は予測指数が+1.6%の増加であったにも拘らず、実績は−0.4%の減少となったことから考えると、8月 と9月も予測指数が示すほどの水準にはならないかも知れない。

【輸出の鈍化と輸入の加速で純輸出はマイナスに転じる可能性】
生産回復の勢いがややもたついている背景には、米国やヨーロッパの景気回復の失調があり、それが日本の輸出に響き始めているようだ。実質輸出は、前期比でみて1〜3月期に+4.7%、4〜6月期に+7.8%と伸びたあと、7月は前月比+0.6%に鈍化した。逆に実質輸入の方は、生産回復に伴なう輸入原燃料の増加から、前期比で1〜3月期−1.9%、4〜6月期+2.6%のあと、7月は前月比+4.9%と大きく伸びている。この7月の水準は、4〜6月期平均に対しても+6.3%の大きな伸びになる。
実質貿易収支、ひいてはGDPベースの純輸出は、7〜9月期に入ると輸入の伸びが輸出 を上回り、マイナスとなる可能性も出てきた。

【設備投資、住宅投資、公共投資は弱いまま】
次に減少を続けている各種の投資活動を計ると、図表2に示した7月の新設住宅着工戸数および公共工事請負額から判断して、住宅投資と公共投資は引続き弱いようだ。
設備投資は図表1に示したように4〜6月期まで6四半期連続のマイナスとなっているが、7月も一般資本財出荷は前月比−1.2%の減少となっている。
先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+7.1%と4四半期振りのプラスとなったが、7〜9月期の見通しは前期比−3.9%と再びマイナスになる予想である。従って、本年度上期(4〜9月)としては下げ止まりの形になり、6ヵ月の先行指標とみれば設備投資が本年度下期に下げ止まる可能性を示唆している。
もっとも、6月調査の「法人企業動向調査」では、全産業の本年度の設備投資計画は前年比−6.3%(上期同−6.6%、下期同−6.0%)となっている。株価の下落に示されるような先行き不安の下で、本年度下期に果して設備投資が下げ止まるかどうか、この調査からみると疑問である。

【株価急落が示唆する本年度下期の波乱】
夏の間弱基調で推移してきた株価は、9月に入って急落し、4日にはバブル崩壊以降の最安値を更新し、18年前の水準にまで下ってしまった。
米国とドイツの景気変調もあって、日米欧の同時株安となったが、日本の株価が連れ安となった基本的原因は日本経済自身の中にある。
このホームページの「最新コメント」欄"小泉首相の「政策転換」は本当だとしても中途半端"(H14.7.31)、"小泉内閣の「先行減税」は経済を更に停滞させる"(H14.8.29)で述べたように、日本の株式市場は政府の「政策転換」と「先行減税」にまったく反応していない。その欺まん性を見抜いているのだ。小泉内閣は北朝鮮訪問日程の発表で国民の目を海外にそらし、また今月末には自民党人事や内閣改造でコップの中の争いにひきつけようとしているが、その間にも足許の経済が崩れ始めている。
本年度下期は経済に波乱が起こり、小泉首相は窮地に立つ可能性がある。