2002年8月版

― 当面は緩やかなプラス成長、不安は秋口以降に―

【6月の一時的調整を経て生産は再び回復傾向】
6月の鉱工業生産指数は、前月比−0.7%と5ヶ月ぶりの減少となった。しかしその後7月と8月の生産予測指数は前月比+1.6%、+1.8%の夫々上昇となっている(図表1参照)。
品目別にみると、6月の低下も7〜8月の再上昇も電子部品と自動車の振れによる面が大きいので、6月の減少は両業界における一時的な生産調整の影響とみられる。この間一般機械の生産は、一貫して上昇している。先月発表の予測指数では、6〜7月に生産頭打ちの兆しが出ていたが、今月発表の予測指数から判断する限り、6月の生産減少は一時的な下落で、図表1を見れば直感的に分かるように、生産の基調は少なくとも8月迄回復傾向を続けている。

【生産回復を支えるのは情報関連機械などのアジア向け輸出】
自動車、電子部品、一般機械を中心とするこの生産回復傾向は、もっぱら輸出の増加によるものであり、国内の設備投資や個人消費の回復に支えられたものではない。
実質輸出は今年に入って毎月増加しており、1〜3月期の前期比+4.7%に続いて4〜6月期は同+8.4%と増勢は加速している。地域別に見ると、東アジア向け(輸出に占めるシェアは38.7%)の伸びが1〜3月期は同+7.5%、4〜6月期は同+13.2%と急伸している。また1〜3月期までマイナスであったEU向け(同15.9%)が4〜6月期には同+9.7%と大きくプラスに転じた。他方米国向け(同30.0%)は、1〜3月期に同+4.3%と伸びたものの、4〜6月期は米国の経済成長率が5%台から1%台に大きく鈍化したことを反映して、同+1.5%にとどまった。
4〜6月期の内訳を品目別に見ると、情報関連(自動データ処理機械、通信機、電子部品、科学光学機器)が同+16.8%と大きく伸びている。ついで情報関連や自動車関連を除く機械や部品も同+9.0%と伸びを示している。これに対して自動車関連は、現地生産化が進んでいる為、同+4.1%と比較的緩やかな伸びにとどまっているが、しかし昨年から一貫して着実に伸びている。

【機械受注は6四半期ぶりのプラス、建設受注はマイナス持続】
国内の最終需要に目を転じると、依然として動意は薄い。4〜6月期の一般資本財の出荷は、輸出が好調であるにも拘らず、国内の設備投資が減少しているため、前期比−1.5%と下落している。
設備投資の先行指標を見ると、機械受注(民需、除船舶・電力)は2000年10〜12月期をピークに減少を続け、99年不況時や93年不況時のボトムよりも低くなった。しかし本年4〜5月平均の実績は1〜3月平均比+6.0%となった。4〜6月期は6四半期ぶりのプラスになりそうである。
しかし、建設工事受注(民間、除住宅)は4〜6月期も前月比−2.7%と低下を続けている。従って、7〜9月の動向を見ないうちに、設備投資の先行指標全体に下げ止まりの気配が出てきたと判断するのは、まだ早すぎるように思われる。

【4〜6月の個人消費は一時的に増加、住宅投資は低迷】
個人消費関係の販売統計を見ると、4〜6月期には前月比でプラスになったものが目につく。百貨店とスーパーの合計売上高は、4〜6月期に前期比+0.9%、チェーンストアの売上高は同+1.5%と、共にプラスを記録した。これは本年4月の売上高が伸びたためで、5月と6月は前月比マイナスである。
乗用車新車登録台数も、小型車と軽自動車を中心に4〜6月期は前期比+3.4%の増加となった。もっとも月別にみると、増えたのは4月と5月で、その後6月と7月は減少している。とくに7月の水準は4〜6月平均比−7.7%に迄落ち込んでいる。
春先に一時的に回復した消費マインドは、再びしぼんだようだ。4月頃からの株価下落が心理的に響いているのかもしれない。
新設住宅着工戸数は、5月に年率126.9万戸と増えた後、6月には再び同110.3万戸に落ち込んだ。このため4〜6月期平均は同117.1万戸となり、前期比−0.8%となった。住宅投資も引き続き低迷している。

【企業は依然として生産回復を時間外と臨時工で賄う姿勢】
個人消費と住宅投資の背景にある個人所得の動向を見ると、生産の回復傾向にも拘らず、雇用と賃金が改善していないため、動意はない。
企業は生産回復を引き続き時間外労働と臨時工の増加で賄っている。このため、6月の完全失業者は前月比3万人増加して361万人となり、失業率は5.4%と高止まりしている(図表2参照)。有効求人倍率も0.53倍で横這いである。
これに対し、時間外労働の前年比マイナス幅は、図表2に示したように、4〜6月期は−2.5%と1〜3月期(‐5.7%)に比して縮小している。またパートだけの有効求人倍率は、1〜3月の1.26倍から4〜6月は1.32倍に上昇、特に6月は1.34倍になっている。
この間、賃金指数の前年比マイナス幅は、1〜3月(‐1.9%)に比し4〜6月は−2.8%と拡大した。時間外手当は増えているものの、夏期賞与が14年3月期の業績悪化を映して前年を下回ったからである。

【4〜6月期も2四半期連続のプラス成長か】
以上の動向から判断すると、4〜6月期の実質GDPは、純輸出増加のプラス寄与が極めて大きい反面、国内最終需要項目は小幅のプラスやマイナスとなり、全体としては、1〜3月期に続いて2四半期連続のプラス成長になるのではないか(図表3参照)。
また4〜6月期のGDP統計発表と同時に、1〜3月期の個人消費とGDPの増加率は下方修正されるであろう。これはこのホームページの6月版“月例景気見通し”で述べたように、個人消費の推計値が情報バイアスを持った家計統計による推計から、実勢に近い販売統計による推計に改められるためである。
最近の株価下落が示唆するような先行き不安が景気指標面にはっきり出てくるのは、米国景気下振れの影響がアジアを含む世界景気全体に浸透している秋口以降であろう。