2002年7月版

―業況感の回復にも拘らず雇用・設備投資に動意なし―

【6月以降の生産に頭打ちの気配】
 5月の鉱工業生産は前月比+3.9%の増加、出荷は+4.8%の増加と共に大幅な伸びとなった。これで生産は4ヶ月連続、出荷は6ヶ月連続の上昇である(図表1参照)。
 もっとも、5月の生産増加は、4月時点の予測(+5.1%)を下回った。また図表1に示したように、6月の予測は横這い、7月の予測は−0.3%と低下するので、連続して上昇してきた生産、出荷に頭打ちの気配が出てきた。
 5月の生産、出荷の増加をリードしているのは、電気機械(電子部品など)、一般機械(電子部品製造装置など)、輸送機械(乗用車など)で、世界的な電子部品の在庫調整一巡に伴う輸出増加と、対米自動車輸出・対内軽乗用車販売の好調によるものである。
 因みに5月の実質輸出は季調済み前月比+5.9%の増加となり、4〜5月平均の1〜3月平均比は+6.6%と大幅な伸びを続けている。また、4〜6月の国内の乗用車新車登録台数は、軽乗用車(前月比+7.9%)、小型車(同+7.4%)の好調から、前年比+4.2%、季調済み前月比+3.4%と順調に伸びている(図表2参照)。

【業況感は好転しているが雇用と設備の拡大意欲はない】
 このような生産の上昇に伴い、企業の業況感も回復している。本年6月調査の「日銀短観」によると、業況判断DIは、全規模の製造業・非製造業において3月調査比好転しており、更に先行きも好転を続ける予想となっている。
 また同じく「日銀短観」によると、全規模全産業でみて、2001年度の減収減益に対し、2002年度は小幅増収(売上高+0.2%)、大幅増益(経常利益+16.1%)の予想となっている。これは、リストラによって損益分岐点操業度がかなり低下しているためであろう。
 因みに、同じ全規模全産業ベースでみて、雇用判断DIは18%ポイントの「過剰超」、設備判断DIは16%ポイントの「過剰超」である。このため、雇用は減り続けており(2002年3月末の雇用者数は前年比−0.2%、特に大企業は−2.1%)、2002年度の設備投資計画は前年比−5.1%の減少である。

【個人の所得環境に回復の気配はない】
 このように、生産の上昇は業況の好転には結び付いているが、それが雇用や設備投資など内需の拡大には結び付いていない。ここに最大の問題点がある。
 新規求人と有効求人は、4月、5月と2ヶ月増加しているが、常用雇用はこの間も引続き減少している。図表2に示したように、完全失業率も5月は5.4%に上昇した。企業は引続き生産増加を時間外労働の増加で賄っているようだ。図表2を見ると、所定外労働時間の前年比マイナス幅は、今年に入って縮小している。
 雇用態度がこのように萎縮しているので、賃金についても回復の気配はない。名目賃金指数は5月も前年比−2.4%と下落している。雇用・賃金のこうした動きを反映して、個人所得も弱含みとなっているため、個人消費は前述した軽乗用車を除くと冴えないままである。百貨店・スーパーの売上高は前年に比べて4月−2.0%、5月−1.6%で推移している。

【設備投資の先行きを示す日銀短観と機械受注に不整合な動き】
 企業の設備投資態度も、「日銀短観」で見る限り、前述の通り、引き続き慎重である。足許の設備投資動向を示す一般資本財出荷をみると、5月は季調済前月比で+12.3%と大きく伸びたが、それでも4〜5月平均の1〜3月平均比は−1.0%の減少である。またこの一般資本財出荷には好調な輸出も含まれているので、輸出の影響を除いて設備投資の動向を反映した動きだけを取出せば、もっと大きく減少していることになる。
 先行きについても、前述の「日銀短観」の設備投資判断DIや2002年度設備投資計画から判断する限り、回復の兆は見られない。
 しかし、もう一つの先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)をみると、季調済み前月比で4月+8.4%と大きく増加したあと、5月は+0.2%とほぼ横這いとなった。このため4〜5月平均は1〜3月平均に比して+6.0%の水準にある。これに伴ない、4〜6月期に4四半期振りの増加に転じるのではないかという期待も出始めている。まだ6月の実績が出ていないので何とも言えないが、その場合は「日銀短観」との整合性に欠けることとなる。
 従って、設備投資の先行きについては、9月調査の「日銀短観」や7〜9月期の機械受注の実績が出る迄は、一概に判断しにくい状況が続くであろう。

【設備投資の先行きが今後の景気を左右する鍵】
 いずれにせよ設備投資の動向は、今後の景気を大きく左右する要素であるだけに、しばらくは目が離せない。
 図表3を見れば分かるように、GDPの持続的成長は常に設備投資に支えられている。果して設備投資が、現在の小泉政権の経済政策の下で本年度下期に底入れするのか。するとすればどのような理由によるのか。
 景気予測上、難しいが大切なポイントである。