2002年6月版

− 1〜3月期のGDPは過大推計、実勢は緩やかなプラス成長 −

【1〜3月期は4四半期振りのプラス成長となったが過大推計】
1〜3月期の実質GDPが4四半期振りにプラス成長となった(図表1参照)。1〜3月期は鉱工業生産も輸出の回復を主因に5四半期ぶりに増加に転じていたので(図表2参照)、実質GDPが純輸出の増加(図表1参照)でプラス成長に転じた事は自然な動きである。この月例景気見通しの先月版でも、ゼロ成長近傍で若干のプラス成長もありうると予測していた。
しかし、そのプラス幅が前期比+1.4%(年率5.7%)と大幅になったのは極めて不自然な動きである。これは実勢を現していないと思う。既に多くの専門家が指摘しているように、GDP中の個人消費を推計する基礎データの家計統計に問題があるためだ。家計調査のサンプル替えに伴って1〜3月期の家計統計の個人消費は、1〜3月期の個人消費関係の販売統計(例えば百貨店、スーパーの売上高、家電製品の売上高など)に比して過大になっている。
GDP統計の個人消費は確報段階では販売統計に基づいて修正されるので、この過大な個人消費は最終的には下方修正されることになろう。

【1〜3月期の実勢は年率2%程度のプラス成長】
個人消費が下方修正され、最終的に例えば横這いになると、1〜3月期の成長率は+1.4%から+0.5%(年率2.0%)に大きく下方修正される。この程度の小幅なプラス成長が実勢であろう。
因みに、このような個人消費の大きな誤差は、昨年4〜6月期のGDP統計でも発生した(このホームページの『月例景気見通し』“2001年12月版”参照)。このため内閣府は、本年4〜6月期以降のGDP統計には家計調査を使用せず、第一次速報段階から販売統計を使う事に変更した。これに伴って第1次速報の発表も1ヶ月程度早くなる。8月には4〜6月期のGDPが発表される予定だ。
おそらくその際は、1〜3月期の個人消費とGDPが下方修正され、4〜6月期GDPと共に発表される事になろう。

【輸出回復は持続性に乏しく国内の投資・消費を誘発しにくい】
さて、この個人消費を別とすれば、これ迄の月例景気見通しで述べてきたとおり、対米(自動車、一般機械中心)対アジア(電子部品、一般機械中心)向け輸出の回復による他力本願の景気下げ止まりが現状の姿である。図表1を見ても、純輸出の増加(成長率への寄与度は+0.7%)がGDP成長率のプラス転換の主因である事が見てとれる。
高度成長時代には、米国の景気回復に伴う輸出の回復は持続し、それが輸出関連業界の設備投資増加、雇用・賃金の回復を通じる個人所得・個人消費の増加など、国内需要の回復を呼び起こし、日本経済の自律的回復を始動させた。
しかし今は違う。第1に輸出が米国経済の回復に伴って伸び始めれば、貿易収支の対米黒字が拡大し、円高が進み、輸出の伸びに自然にブレーキがかかる。現に、年初に一時135円前後にまで円安となっていた為替相場は、貿易黒字の拡大につれて125円前後にまで円高となっている。
第2に輸出関連企業はグローバルに工場を展開しているので、世界景気の回復に伴って輸出が伸び始めた場合、グローバルな視点で最適な場所に新たな設備投資を行い、雇用を増やす。従って、輸出増加が大規模な国内投資、国内雇用を誘発するとは限らず、以前ほど国内景気の自律的回復を呼び起こしにくいのである。

【年内の設備投資回復の望みは薄い】
このため、当面の鉱工業生産は4月まで3ヶ月連続して上昇している(図表2参照)にも拘らず、設備投資や雇用・賃金にはっきりとした回復の兆はまだ見えない。
例えば、足許の設備投資の動向を反映している一般資本財出荷は、図表3に示したように、4月も前年比‐18.3%と引続き大幅な落ち込みを示している(季節調整すると4月の1〜3月平均比は−6.0%)。また6〜9ヶ月の先行指標である機械受注(除く船舶・電力)も、4月の前年比マイナス幅は−17.9%と引続き大きい。見通しによれば、4〜6月の前年比は‐19.9%、季調済み前期比は‐0.3%である。年内の設備投資底入れの可能性は薄い。

【時間外とパートを除き雇用・賃金に改善の動きはない】
他方、雇用情勢を見ると、図表3のとおり完全失業率は4月も5.2%と高水準で横這いとなっており、有効求人倍率は0.01%ポイント改善、新規求人倍率は0.04%ポイント悪化とほとんど底這い状態が続いている。
企業の先行き見通しが慎重さを崩していないため、今年に入ってからの生産増加は、時間外労働(4月の前年比マイナス幅は縮小、図表3参照)とパート(パートの有効求人倍率は2〜4月に0.08ポイント改善)で賄われており、本格的な雇用回復の動きはない。常用雇用は減り続けている。
このため賃金指数にも、4月まで改善の動きはない。

【1〜3月期下方修正のあと4〜6月期も小幅なプラス成長か】
設備投資と個人消費以外の需要項目も、輸出を除けばいずれも弱い。1〜3月期の+1.4%の前期比成長率も、輸出と過大推計の個人消費を除くと、逆に‐0.2%のマイナス成長となる。
実質輸出(季調済み)は4月も前月比+0.5%、1〜3月平均比+3.5%となっており、今のところ鈍化の兆は見られない。円高の影響や米国の景気回復一服の影響が日本の輸出に出てくるのは本年下期であろう。
他方、4月の新設住宅着工戸数は前年を下回っており(図表3参照)、1〜3月平均(年率118万戸)に比してもやや低い114万戸にとどまっている。住宅投資は引続き弱含みで推移しよう。
昨年度第2次補正予算と本年度予算の執行が重なっているため、公共工事請負額の前年比マイナス幅は、4月、5月と縮小している(図表3参照)。しかしこれも、下落傾向の公共投資(図表1参照)の一時的な戻しであろう。
4〜6月期の成長率はまだ判断する材料に乏しいが、1〜3月期が確実に下方修正されるので、その反動もあって小幅なプラス成長となり、2四半期連続の緩やかなプラス成長で景気底這いを裏付けるのではないか。