2002年5月版

− 生産は大底を打ったが賃金・雇用に改善の兆はない −

【IT部品の回復を中心に生産は大底を打った】
3月の鉱工業生産(速報)は前月比+0.5%の上昇と2ヶ月連続で上昇した。また予測指数の前月比も4月+1.3%、5月+3.1%と急上昇を続ける形となっている(図表1参照)。
この3月の実績(+0.5%)については、1ヶ月前に発表された予測(+1.0%)を下回っていることからも分るように、不況の下では実績が予測よりも弱く出る傾向があるので、4月と5月の実績が予測通り急上昇を続けるかどうかは分らない。しかし、2月から5月にかけて4ヶ月連続で生産が回復する可能性は高くなってきた。
図表1を見れば明らかなように、生産の大底は昨年11月から本年1月であり、2月以降は予測指数程の急回復ではないにしても、回復過程に入った可能性がある。
この回復をリードしているのは、在庫調整が進み、輸出も立直ってきた電気機械(IT部品が中心)である。

【生産の底打ちにも拘らず雇用と賃金は引続き悪化】
このような生産の底打ちを反映して、1〜3月中の時間外労働の前期比は、製造業で+2.8%、非製造業で+1.5%、合計で+1.7%と増加した。また完全失業者も、昨年12月の371万人をピークにジリジリと減少し、本年3月は353万人となった。このため完全失業率はピークの5.5%から5.2%まで下がった。しかし、353万人、5.2%という失業の状況は、依然として極めて厳しく、高水準である。
企業は当面の生産底打ちに対して、取敢えず時間外労働の増加で対応しており、雇用の拡大には踏み切っていない。常用雇用指数は1〜3月期も前期比‐0.2%となった。また新規求人も1〜3月は前期比‐1.0%と減少を続けている。
このように生産は底を打ったものの、企業は雇用の拡大には踏み切っていないし、賃金も時間外がやや増えている程度で全体としては1〜3月期も前年水準を2.0%下回っている。生産底打ちが雇用と賃金の回復を通じ、個人消費を立直らせる気配は見えない。

【実勢は下げ止まり底這いで回復ではない】
図表1を見ると、4月と5月が予測指数通りになると、かなりの急回復に見えるが、それでも5月の水準は前回のマイナス成長期である1998年頃の水準である。
これは、2000年12月から2001年11月までの落ち込みが、実に‐15.4%という急激なものであったため、本年に入って多少改善はしても、まだ1990年代の最低水準にすぎないからである。これでは雇用情勢も企業経営も依然として厳しいのは当然であり、「景気回復」という言葉のイメージからは遥かに遠い状態である。「景気底入れ」という言葉でもまだ明る過ぎる。
景気の現状は「下げ止まり、底這い」にすぎないし、この先回復に向かう保証もまだ見えないと言ってよい。何故なら、他力本願の「輸出」を除けば、最終需要はいずれも弱いままで、回復に転じる目途が立たないからだ。

【国内の最終需要は弱いままで回復の兆はない】
まず個人消費は前述の通り、賃金・雇用に改善の兆がないので、持続的に立直るシナリオはまったく見えない。
住宅投資も、地価の下落に伴ない都市の分譲マンションに多少回復の動きはあるものの、持家の建設は低迷したままである。住宅着工戸数は、図表2に示したように全体として引続き前年を下回っており、本年1〜3月の平均着工戸数も年率で120万戸を下回ったままである。
国内最終需要で自律的な景気回復をリードする最有力の項目は、いうまでもなく設備投資であるが、ここにまったく回復の気配がない。足許の動向を示す一般資本財出荷は、図表2に示したように、1〜3月平均で前年比‐18.6%と大きく落ち込んでいる。先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)も、図表2に示したように本年1〜3月は前年を2割も下回っている。3月調査の内閣府「法人企業動向調査」によると、2002年度の設備投資計画は、全産業で前年比‐9.1%と2001年度の同‐3.9%よりも更に落込み幅が大きくなっている。

【回復を阻げている小泉財政政策】
このように国内の民間最終需要が弱い時には、政策的に公共投資が下支えするのが普通の政策であるが、小泉政権は公共事業の総額を削減することが構造改革だと信じ込んでいるので、この面からも更に景気の足を引張っている。本来は公共投資の中身を効率の高いものに変えるのが構造改革である。
図表2に示したように、公共工事請負額の前年比マイナス幅は、年明け後更に拡大し、1〜3月平均で‐18.6%に達している。無駄使いとはならない効率の高い公共事業は、大都市再開発、産業廃棄物やゴミの処理施設、高齢者対策施設など沢山ある筈だ。それを実施しない小泉政権の下では、折角在庫調整が進み、輸出が立直っても、それを国内最終需要の回復に結びつける見通しが立たない。
図表3に示したように、3四半期連続でマイナス成長を続けている実質GDPは、本年1〜3月期には、外需の回復と内需の下落持続が相殺し合い、ゼロ成長近傍の動きとなるであろう。