2002年4月版
− 生産は下げ止まったが回復力は弱いまま −
【生産は本年1〜3月に下げ止まり】
2月の生産指数の実績(速報)は、前月比+1.3%の上昇となったが、これは予測指数の同+4.6%の上昇を大きく下回る結果にとどまった。このため、3月に予測指数(同+1.0%の上昇)通りの実績が出たとしても、1〜3月期は前期比+0.1%の上昇にとどまり、ほぼ横這いとなる。
また4月の予測指数は1〜3月平均に比して+1.3%の上昇となっているが、実績が予測を下回る傾向が続いているので、4月の生産が本当に予測通りに増加し、生産が4〜6月期から回復に転じるかどうかは、まだ分らない(以上図表1参照)。
3月調査の「日銀短観」によると、大企業と中堅企業の製造業の売上高は、2001年度の夫々−6.3%、−6.7%から2002年度には+0.6%、+0.8%の微増に転じる予測となっている。特に2002年度下期には前年同期比+2.5%、+3.3%の増加と見込まれている。実際にそうなるかどうかは分らないが、製造業の生産や売上高は本年に入って下げ止まり、底這傾向を辿った後、先行きは増加傾向に転じると期待されているようだ。
【在庫調整の進捗から企業は先行き生産回復を期待】
その根拠となっているのは、在庫調整の進捗と輸出の回復である。
図表1に明らかなように、在庫率はかなり顕著に低下しており、2月の水準は昨年の4〜5月頃の水準にまで下がった。業種別に見ると電子部品、鋼材などの調整進捗、生産底打ち傾向が目立つ。
3月調査の「日銀短観」を見ても、製造業の製品在庫と流通在庫の判断DIは、前回、今回、先行きと分けた場合、「過大超」幅が前者では37→33→20、後者では44→39→29と減少している。
在庫調整は夏から秋口にかけて一巡する可能性が出てきており、それに伴なって底這傾向の生産や売上高が上昇に転じるという期待が、企業の間に広がっているようだ。
【輸出は本年1〜3月から回復し成長に寄与】
しかし、例え在庫調整が一巡しても、最終需要が回復に転じない限り、生産や売上高の持続的回復はあり得ない。
その点で一つだけ期待がもてるのは、他力本願ではあるが輸出である。実質輸出の季節調整済前期比は、昨年7〜9月−4.0%、10〜12月−1.7%と減少を続けた後、米国の景気底入れなどを背景に、本年1〜2月平均では昨年10〜12月平均に比して+1.6%の上昇に転じた。
他方輸入は、本年1〜2月平均の昨年10〜12月平均比でも−2.1%となっている。このため実質貿易収支は大きく好転し、本年1〜3月期の経済成長に大きく寄与するほとんど唯一の最終需要項目となりそうである。
3月調査の「日銀短観」を見ても、大企業製造業の輸出は、前年同期比で見て2001年度下期の−9.5%から、2002年度上期は−1.4%と減少幅を急速に縮小し、下期には+3.7%の増加に転じるという楽観的な見通しとなっている。
【設備投資に回復の兆はまったくない】
この輸出見通しを除けば、最終需要の中に回復の兆はまったく見られない。
特に設備投資は、一般資本財出荷の季調済み前期比が1月−5.1%、2月−1.6%と減少を続け、2月の前年同月比は図表2に示したように−22.5%まで落ち込んでしまった。最近の一般資本財出荷には、輸出好転の影響が若干含まれている事を考慮に入れると、国内の設備投資の落ち込みはかなり深刻のようである。
先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)を見ても、図表2に示したとおり、1月は前年比−22.2%と大きく落ち込んでいる。
3月調査の「日銀短観」の2002年度設備投資計画(ソフトウェア投資を含む)は、まだ年初なので上方修正の可能性は残されているものの、全規模全産業で前年比−7.2%の大幅な落ち込みである。これは2001年度の実績見込み(前年比−5.1%)を上回る減少率である。
【個人消費も生産底這いでは回復しない】
民間需要のもう一本の主柱は個人消費である。個人消費の枠組みを決める個人所得は、生産の動向に大きく左右される雇用と賃金に依存している。
生産の下げ止まりにより、年明け後の常用雇用や時間外労働の減少はスローダウンして来たが、それでも前年を下回る水準で推移している事に変わりはない(図表2参照)。また名目賃金も、所定外や賞与の落ち込みを主因に、前年を下回ったままである。
個人所得の悪化は次第に止まってくるとしても、低水準の底這いが続く限り所得面からの消費回復は望めない。
2月の百貨店・スーパーの売上高は前月比−2.7%、前年同月比−4.7%と低迷している。他方、乗用車新車登録台数は、昨年9〜11月のモデル切り替え時の落ち込みの反動から12〜2月にはやや回復したが、3月には再び前年水準を下回った(図表2参照)。
【本年1〜3月期もほぼゼロ成長】
1〜3月期の実質GDPは、外需が好転する反面、内需は設備投資が引続き落ち込み、個人消費も冴えない動きを続けているので、ゼロ成長に近い動きではないかと見られる。3四半期連続のマイナス成長もありうるし、プラス成長に転じたとしても小幅であろう(図表3参照)。
平成十四年度予算が成立したが、このホームページの「最新のコメント」欄“平成十四年度予算は羊頭狗肉のデフレ予算"(2001.12.25)で書いたように、@改革を先送りし、A財政規律をごまかし、B歳出内容の効率化は進まず、C減税を行っていない、などからマクロ経済に対してはデフレ的な予算である。
在庫調整の進捗と輸出の回復によって生産の落ち込みは止まったとしても、国内に回復力を欠いたまま当分は景気の低迷が続くと見られる。