2002年1月版

‐ 変化の兆はあるが当面の危機的状況は変わらず‐

【1年間急落した生産に下げ止まりの気配】
昨年1月から急落の一途を辿ってきた鉱工業生産に、ようやく下げ止まり、ないし底這いの気配が出てきた。図表1に示したように、11月の生産実績はなお前月比−1.8%の減少であるが、12月と1月の生産予測指数が2ヶ月連続のプラスとなった。この結果、1月の生産予測指数は、10〜12月平均(12月は予測指数)に比して+1.2%の増加となっている。
これは予測指数であり、最近は実績指数が予測指数よりも低く出る傾向があるので、生産の実績が本年に入って微増に転じるとはまだ断定できない。しかし、少なくとも1年間急落してきた生産に下げ止まりの気配が出て来たと言うことは出来る。
もし本当に底這い傾向に入る前兆とすれば、製品在庫が昨年5月をピークに11月まで‐5.7%低下し、在庫率指数も昨年9月をピークに11月まで2ヶ月連続して2.7%ポイント低下したことに示されるように、在庫調整がようやく進み始めたためであろう。

【ITデバイスの在庫調整が進む】
在庫が減り、生産が下げ止まる傾向は、電気機械工業において比較的顕著である。
これは一昨年から始まった世界的規模のITデバイス(部品)の在庫調整がボツボツ終局に近付いていることが大きな背景と見られる。国内においても、ITデバイスの在庫過剰は品目によって程度に差が出てきており、全体としては調整が進んでいる。
しかしITデバイスの世界的供給過剰は単に在庫過剰の問題ではなく、設備過剰による面も大きい。依然としてITデバイス関係の設備投資は落ち込みを続けているが、この落ち込みによって設備のストック調整が完了するのは順調に行っても本年下期と見られている。
従って、IT不況が終わって生産が回復するという姿は、まだ当分は期待薄である。

【10月と11月の個人消費はやや持ち直し】
最終需要の動きを見ると、個人消費が10月、11月とやや持ち直している。図表2に示したように、実質消費水準(全世帯)は、昨年4月から9月まで6ヶ月間前年を下回っていたが、10月と11月は前年比プラスに転じた。季節調整済みの前期比でも、10〜11月平均は7〜9月平均より高い。
10月と11月の実質消費が前年を上回った要因を勤労者家計についてみると、最大の理由は消費性向が前年より高まったことであり、次いで消費者物価の下落が寄与している。反面、可処分所得は前年をやや下回っている。従って、持続的回復の姿とは言いがたい。また崩れるかも知れない。
ボーナス月の12月に年末消費がどう動いたのかを確かめるまでは、昨年10〜12月期の個人消費が3四半期ぶりに増加(図表3参照)したかどうかの判定は出来ない。

【非製造業の建設投資にやや上向きの動き】
次に設備投資は、ここへ来て製造業と非製造業の動きが大きく乖離している。
図表2に示したように、一般資本財出荷は11月も前年比マイナス幅を拡大しており、製造業の設備投資は減少を続けていると見られる。
また季節調整した建築着工床面積(国土交通省調べ、非居住用)をみても、製造業の10〜11月平均は7〜9月平均に比して‐10.6%の大幅落ち込みとなり、3四半期連続の下落がほぼ確実である。
これに対して非製造業の建築着工床面積は、7〜9月期に前期比+18.4%となって同期のGDP統計の設備投資をプラスにするのに寄与したが(図表3参照)、10〜11月の平均も7〜9月平均比+6.6%の増加となっている。もっとも、先行きを示す非製造業の建設工事受注額(大手50社、除住宅)は、7〜9月期に前期比+18.3%と大きく増加したあと、10〜11月平均は7〜9月平均比‐4.7%の減少となっている。
大都市の優良不動産価格の底入れと共に、一部の流通、サービス関係の建設投資がやや上向いているのは事実だとしても、その持続性についてはまだ分からない。

【当面は年度末を控え国民生活と企業経営は危機的状況】
以上のように、奈落の底に落ちて行くような景気後退の中にあって、個人消費や非製造業の建設投資に下げ止まりを思わせる動きがあり、また在庫調整が少し進んで生産にも下げ止まりの気配がある。
しかし、ここで二つの事に注意しなければならない。
第1に生産にも下げ止まりの気配があると言っても、その水準は10年以上前の1987〜88年頃の水準である。10年以上も前に逆戻りすれば、止まるのは当たり前とも言える。しかも止まったとは言え、10年以上も前の水準に雇用、賃金、企業利益が調整されるとすれば、これは大不況以外の何者でもない。
第2に、雇用、賃金、企業利益は遅行指標である。仮に生産が下げ止まったとしても、国民生活や企業経営が下げ止まるのはまだ先になる。現に11月の失業率は5.5%に上昇し、失業を免れた人々の時間外勤務は前年比−10.7%とマイナス幅を拡大している(図表2参照)。
当面、年度末を控え、国民生活と企業経営が危機的状況にあることに変わりはない。