2001年12月版

‐ 本年度下期は一段と深刻な不況に ‐

【13年度上期のマイナス成長のスピードは年率−3.5%】
 平成13年7〜9月期の実質GDPは、予想通りマイナス成長となり、4〜6月期の実質GDP再推計の結果もマイナス成長の幅を拡大する形となった。即ち、4〜6月期は前期比−1.2%(年率−4.8%)、7〜9月期は同−0.5%(同−2.2%)である。この2四半期連続のマイナス成長のスピードは、通計で−1.8%(年率−3.5%)に達する(以上図表1参照)。
 この結果、7〜9月期の実質GDPの水準は、早くも平成12年度平均比−1.0%のところまで下がっており、平成13年度下期の10〜12月期と1〜3月期が通計でマイナス成長となれば、本年度の平均成長率は政府見通しの−0.9%を大きく下回り、−1.5%に近付くであろう。
 このようなマイナス成長は、橋本不況を上回る落ち込みのテンポである。

【個人消費は2四半期連続のマイナスに修正】

 実質GDPの内訳を見ると、4〜6月期の1次速報と2次速報で+0.5%となっていた個人消費が、今回の再推計で−1.1%の大幅マイナスに転じ、7〜9月期の1次速報も−0.5%となった(図表1参照)。この個人消費の2四半期連続の大幅落ち込みが、2四半期連続のマイナス成長の主因である。
 個人消費については、本年1月以来の鉱工業生産の急落に伴なう雇用減、時間外手当減によって個人所得が減っている上、経済の先行き不安に伴なう消費マインドの萎縮もあるので、4〜6月期から減っている筈だというのが私の見方であった(例えばこのホームページの「月例景気見通し」の2001年8月版参照)。
 ところが4〜6月期の実質GDPの第1次速報値と第2次速報値ではプラスと発表され、私の分析結果とまったく合わないので不審に思っていた。それが今回の再推計で私の分析通りの大幅マイナスとなり、不審は解消した。

【10月の個人消費は所得回復の裏付けのない一時的増加】

 家計統計によると、10月に入って個人消費はやや持ち直した。図表2に示したように、10月の消費水準は7ヶ月振りに前年比プラスとなった。10月は季節調整済み前期比で見ても+4.1%の増加である。品目別にみると、乗用車購入が前月減少の反動で大きく伸びている。新車投入の効果であろう。
 しかし、この実質消費増加は所得増加に裏付けられたものではなく、物価下落と消費性向の上昇によるもので、持続性には疑問がある。
 所得の背景にある雇用と賃金の動向を見ると、10月の完全失業者は4万人増加し、失業率も前月の5.30%から5.36%へ上昇した。所定外労働時間(事業所規模5人以上ベース)も前年比−8.1%と大幅なマイナスを続けており(図表2参照)、これを主因に名目賃金(同)は前年比−1.2%と減少している。個人所得立直りの見通しはない。

【生産の急落にも拘らず在庫調整は進まず】

 それもその筈で、鉱工業生産は10月も−0.3%の減少となり、その水準は1988年頃の水準まで逆戻りしてしまった。また11月と12月の生産が予測指数通りあるとすれば、10〜12月期も前期比−2.4%となり、4四半期連続の急落となる。そして12月は1年前に較べ−14.2%の落ち込み幅となる(以上図表3参照)。
 このような生産の急落によって、さすがに在庫は本年5月をピークに減り始めているが、出荷の下落テンポも早いため、図表3に示したように在庫率ははっきりした低下傾向を示していない。在庫調整はまだ当分続くのではないかと思われる。

【設備投資は非製造業のビル建設でやや持ち直し】

 このような生産の急落を招いた引き金は、世界的ないわゆる「ITバブルの崩壊」、とくにIT関係デバイスの在庫調整と設備調整である。このため、IT関係デバイスを中心に日本の設備投資と輸出がマイナスとなったのが、年初来の生産急落の主因である。
 しかし、今回公表された来年4〜6月期の再推計値と7〜9月期の第1次速報値によると、図表1に示したように、設備投資が4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続してプラスとなっている。また純輸出も7〜9月期には4四半期ぶりにプラスとなった。これを信用すると、今回の生産急落の引き金となったITデバイス中心の設備投資と輸出の落ち込みは7〜9月期に終わったことになり、マイナス成長はもっぱら生産急落の結果である個人所得=個人消費の減少という内生的要因によることになる。
 しかしこれは信用できない。何故ならITデバイスを中心とする設備投資と輸出の動向を正確に反映している一般資本財出荷は、7〜9月期に前期比−8.6%(前年比−13.2%)、10月に前月比−3.1%(前年比−18.5%)と落ち続けているからである(図表2参照)。
 従って、4〜6月期と7〜9月期の設備投資増加は、製造業ではなく、非製造業の流通やサービスにおけるビル建設の集中によるものであろう。因みに建設着工床面積(非居住用)の非製造業は、季節調整済み前期比でみて4〜6月期は−1.1%と微減にとどまったあと、7〜9月期は+18.4%の大幅増加となっている。
  しかし、11月調査の「日銀短観」によると、非製造業の本年度設備投資計画はすべての企業規模でマイナスとなっており、非製造業全体では−5.7%の減少である。4〜6月期と7〜9月期のビル建設の集中は、長続きしそうもない。
 因みに6〜9ヶ月先の設備投資動向を示す機械受注(民需、除船舶・電力)の非製造業を見ても7〜9月は前期比−1.4%、10月はこの7〜9月比で−15.7%と大きく下っている。

【ITソフト関係に希望の光】

 11月調査の「日銀短観」によると、企業は3ヶ月前の調査に較べ、本年度下期の業況に自信を失いつつあることが窺われる。
 すなわち、本年度下期の予想売上高の前年同期比は、3ヶ月前の予想に較べて−3.5%も下方修正され、−3.9%の減少となった。また本年度下期の予想経常利益の前年同期比も、3ヶ月前の予想に較べて−10.5%の下方修正となり、−18.7%と減少幅を拡大した。
 こうした不況下に一人で気をはいているのが通信業である。「業況判断DI」はいずれの企業規模でも「良い」超を維持しており、大企業では先行き「良い」超幅の拡大を見込んでいる。
 これは、IT革命のソフト投資がこの不況下でも増加しているためと見られる。11月調査の「日銀短観」では、本年度の設備投資が全規模全産業で−5.7%となっているものの、ソフトウェア投資額は同じベースで+3.3%と増加している。
 IT関係のデバイスは供給過剰となっているが、ソフト関連は着実に拡大している。IT革命自体は静かに進行しているのである。デバイスの在庫と設備の調整が完了する明年下期までに、規制撤廃を始とする眞の構造改革を進めることが政治的に可能になれば、日本経済は立直りの切っ掛けを掴むことが出来るかもしれない。