2001年11月版

‐ 7〜9月期は前期に続きマイナス成長か ‐

【7〜9月期の生産下落は加速】
 米国の同時多発テロや炭素菌騒動の日本経済への影響は、海外旅行の激減などに出ており、また国内狂牛病発生の影響も酪農家などにとって深刻であるが、いまのところそれらの影響をはっきりと示すマクロ経済指標は出ていない。いま出揃っている9月と一部10月の指標からは、本年1月から始まった景気後退が、上記の諸事件とは関係なく、一段と深刻になっていることが読みとれる。
  9月の鉱工業生産は、前月比−2.9%の大幅減少となり、前年同月比の落ち込み幅は−12.7%まで拡大した。また出荷は前月比−3.1%と生産を上回る幅で減少し、このため在庫は−1.3%と減少しているにも拘らず、在庫率は3年前の橋本不況時のピ−クを上回り、近年の最高水準を記録した(以上図表1参照)。生産、出荷の落ち込みは、世界的なIC不況の影響を受けている電気機械と消費・輸出停滞を反映した自動車において顕著である。
  この結果、7〜9月期の生産は前期比−4.3%の低下となり、1〜3月期(同−3.7%)、4〜6月期(同−4.1%)に比べて下落テンポはやや加速しながら3四半期連続の大幅下落となっている。生産予測指数によれば、10月は−0.5%の低下、11月は+0.7%の上昇となっているので(図表1参照)、12月が11月比横這いと仮定しても10〜12月期は前期比−1.7%の低下となり、減勢はまだ続く見込みである。

【失業率上昇、雇用者減少、賃金下落】

 このような生産急落は、当然のことながら雇用・賃金情勢を一段と悪化させている。
 まず9月の完全失業者は前月比22万人増加して356万人に達し、完全失業率は前月の5.0%から5.3%にジャンプした。むろん既往最高水準の更新である(図表2)。失業者増加と表裏の関係で、9月の雇用者数は前月比−0.7%、前年同月比−1.0%の減少となっている。
  生産の大幅下落を反映して、9月の所定外労働時間(事業規模5人以上ベ−ス、全産業)は前月比−2.1%、前年同月比−8.1%の減少となった。これを反映して9月の名目賃金(同)も、所定外賃金の前年比−8.0%を主因に、全体として前年比−1.2%となっている。
  このような雇用・賃金の悪化は家計調査にも反映されており、7〜9月の勤労者家計の可処分所得は前月比−2.5%、前年比−2.7%の夫々減少となった。

【7〜9月期の個人消費は2四半期増加のあと大きく減少か】

 雇用・賃金の悪化に伴なうこのような個人所得の低下傾向は、最近の消費停滞の基本的背景となっている。
  乗用車新車登録台数は、本年7月迄増加し、7月の前年比は+7.3%に達したが、その後8,9,10月と3ヶ月連続して前月比減少を続け、10月は前年比−0.4%と前年水準を下回ってしまった(図表2参照)。
 全国百貨店・ス−パ−の売上高も、7〜9月期は前期比−0.8%、前年比−2.3%と不振にあえいでいる。
  以上のような自動車や日常品の消費低迷を中心に、全世帯の消費支出全体も、9月は前月比−1.1%、前年比−4.7%と減少している。この結果、7〜9月期の全世帯消費支出は前期比−0.9%、前年比−3.1%の減少となった。消費者物価は下落しているので、これを実質ベ−スに直してみても、前期比−0.9%、前年比−0.9%の減少である。
 単身世帯の動向などによって調整するので、これがそのままGDP統計の消費支出となる訳ではないが、おそらく7〜9月期のGDP統計の消費支出は1〜3月期、4〜6月期と2四半期増加(図表3参照)したあと、前期比減少となり、これを主因に7〜9月期の実質GDPはマイナス成長となる可能性が高い。

【7〜9月期の設備投資と輸出は続落の可能性】

 個人消費と並ぶ民間需要の2本柱である設備投資は、本年1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して減少したが(図表3参照)、7〜9月期もかなり減少したようである。何故なら、7〜9月期の一般資本財出荷は、前期比−8.7%、前年比−13.2%(図表2参照)とかなり大きく低下したからである。
  この一般資本財出荷には輸出減少も反映されているが、それを考慮しても、このような大幅な下落は7〜9月期のGDPベ−スの設備投資が減少したことを強く示唆している。
  輸出も大幅な減少を続けている。貿易統計によると、実質輸出の前期比は1〜3月−4.6%、4〜6月−4.9%のあと、7〜9月も−4.0%の大幅低下となっている。
 もっとも、7〜9月期は実質輸入も−4.9%と大きく落ち込んでいるので、7〜9月期の貿易収支は5640億円と前期(5140億円)に比べてやや拡大している。従って、7〜9月期のGDP統計の純輸出は、貿易外収支の動向にもよるが、前期比プラスとなる可能性もある。

【7〜9月期の住宅投資と公共投資は一時的に増加か】

 7〜9月期のGDP統計では、住宅投資と公共投資が一時的に前期比プラスとなるかも知れない。
 7〜9月期の新設住宅着工戸数は年率121.0万戸となり、4〜6月(114.8万戸)比5.4%の増加となった。これは分譲マンションの着工が一時的に集中したためで、住宅投資全体が上向き始めたとは思われない。
 他方、公共投資の動向を示唆する公共工事請負額は、7〜9月期に前年比−3.2%となり、マイナス幅は4〜6月期の−8.0%よりも縮小した(図表2参照)。この動向だけでは判断できないが、この2年間一高一低のうちに減少傾向を辿っている公共投資は、4〜6月期減少(図表3参照)のあと7〜9月期には若干増加するかも知れない。

【7〜9月期は2四半期目のマイナス成長か】

 以上を総合すると、12月に公表される7〜9月期の実質GDPは、総輸出、住宅投資、公共投資の三つの需要項目が増加することはあっても、個人消費、設備投資という民間需要の2本柱が減少する可能性が高いので、4〜6月期に続いてマイナス成長となるのではないか。
  このようにして2001年度上期がマイナス成長となると、2001年度全体の平均成長率は、−1.0%〜−1.5%の大幅なマイナス成長となるのではないか。
  この先GDPの落ち込みが止まるとすれば、何がきっかけとなるであろうか。公共投資は補正後の2001年度の予算規模が前年に比べて数兆円小さいことと地方自治体の緊縮姿勢から見て底入れする可能性はない。輸出もテロ後の世界同時不況やIT産業の世界的調整の持続から考えて、年度内の底入れはありえない。
  期待したいのは、構造改革の成果としての民間設備投資回復であるが、今のところ構造改革は掛け声ばかりで何も実施していないので、その気配はない。機械受注(民需、除く船舶、電力)の前年比は、図表2に示したように前年比マイナス幅を拡大している。
 あるべき政策の姿については、このホ−ムペ−ジの「雑誌掲載論文−一般論文−」欄"改革と不況のジレンマを解く『週刊東洋経済』11月17日号(創刊記念号)"を参照されたい。